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土井中照の日々これ好物(子規・漱石と食べものとモノ)

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2021.10.23
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カテゴリ:夏目漱石
   枸杞の垣田楽焼くは此奥か  漱石(明治29)
 枸杞はナス科の植物で、古くから薬用として用いられていました。葉や果実が食用や薬用などとして使われ、根は漢方薬に用いられます。8〜9月に葉のつけ根に淡紫色のナスに似た花が1〜3個咲き、そのあとに1.5〜2cmのだ円形の果実を結びます。晩秋から初冬にかけて光沢のある紅色に熟し下垂するころが食べごろで、弱い酸味と甘味があり、中に扁平な種子があります。
 果実や歯には肝機能をよくするペタインが含まれ、滋養・強壮・強精薬、眼病や糖尿病などに効果があるといいます。中国の古書『神農本草経』(5OO年ごろ)には、書かれている薬用植物365種の中でも上薬のひとつとして記されていました。
 枸杞には長寿効果があるといい、文徳天皇のクコ庭園を管理していた人は、枸杞を愛用して長命を保ち、120歳まで生きたといわれ、江戸時代に上野寛永寺の天海僧正も愛用者だったため、108歳まで生きたと伝えられています。
 漱石作品には、『琴のそら音』と『草枕』に、句と同じく「枸杞垣」として登場しています。枸杞は、枝分かれがよく繁茂しやすいため、生け垣などに用いられます。トゲがあるが、これは小枝が変形した棘があるため、泥棒よけにいいのかもしれません。
 
 坂を下り切ると細い谷道で、その谷道が尽きたと思うあたりからまた向き直って西へ西へと爪上りに新しい谷道がつづく。この辺はいわゆる山の手の赤土で、少しでも雨が降ると下駄の歯を吸い落すほどにぬかる。暗さは暗し、靴は踵を深く土に据えつけてたやすくは動かぬ。曲りくねってむやみやたらに行くと枸杞垣とも覚しきものの鋭どく折れ曲る角でぱたりとまた赤い火に出でくわした。見ると巡査である。巡査はその赤い火を焼くまでに余の頬に押し当てて「悪るいから御気を付けなさい」と言い棄てて擦れ違った。よく注意したまえといった津田君の言葉と、悪いから御気をつけなさいと教えた巡査の言葉とは似ているなと思うとたちまち胸が鉛のように重くなる。あの火だ、あの火だと余は息を切らして馳け上る。(琴のそら音)
 
 山が尽きて、岡となり、岡が尽きて、幅三丁ほどの平地となり、その平地が尽きて、海の底へもぐり込んで、十七里向うへ行ってまた隆然と起き上って、周囲六里の摩耶島となる。これが那古井の地勢である。温泉場は岡の麓とを出来るだけ崖へさしかけて、岨の景色を半分庭へ囲い込んだ一構であるから、前面は二階でも、後ろは平屋になる。椽から足をぶらさげれば、すぐと踵は苔に着く。道理こそ昨夕は楷子段をむやみに上ったり、下ったり、異いな仕掛の家と思ったはずだ。
 今度は左り側の窓をあける。自然と凹む二畳ばかりの岩のなかに春の水がいつともなく、たまって静かに山桜の影をひたしている。二株三株の熊笹が岩の角を彩る、向うに枸杞とも見える生垣があって、外は浜から、岡へ上る岨道か時々人声が聞える。往来の向うはだらだらと南下りに蜜柑を植えて、谷のきわまる所にまた大きな竹藪が、白く光る。竹の葉が遠くから見ると、白く光るとはこの時初めて知った。藪から上は、松の多い山で、赤い幹の間から石磴が五六段手にとるように見える。おおかた御寺だろう。(草枕 4)






最終更新日  2021.10.24 07:42:59
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