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言 い た い 放 題 !  アッキー 28 号

言 い た い 放 題 ! アッキー 28 号

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2015.08.07
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カテゴリ:平和
戦後70年という節目の年だからだろうか、ずっと昔に聞いた話などを
ふと思い出してしまう。


半世紀以上も前の話である。終戦後人々の被った傷もようやく癒えようか
という頃、京都・伏見にある母の実家に青森の郵便局から一通の通知が
届いた。その郵便局にある母名義の口座が十年間出入金がなく閉鎖される
という旨の通知だった。

母は既に結婚して家を出ていたのだが、受け取った母の両親も、連絡を受けた
母も、首をひねった。家族のだれもが青森には行ったことがない。美濃出身の
祖父も、大和出身の祖母も、伏見生まれの母も、東北には親類はおろか、友人
知人もいなかった。

しかし、名義人は、正しく母・とし子の旧姓の名前である。みんなで考えたあげく、
「三高の学生さんがとし子に思いをかけて、戦争に行く前に故郷の郵便局に
貯金をしたのだろう」という仮定に落ち着いた。

母の実家は寺で、その前の道を旧制第三高等学校の学生たちがよく通っていた。
母は女三人・男三人の六人姉弟の次女だった。姉は色白の京美人で、「お寺の
三人姉妹」として近所でも評判だったという。通りすがりの学生でも、母の名や
住所を知ることは簡単だっただろう。

貯金の残高は、百円。戦争前であれば、百万円くらいにあたる金額だ。しかし、
戦後の新円切り替えで、その価値はほとんどなくなっていた。

どんな思いで、その人は、そんな大金を、直接話したこともない女性の名義で、
貯金をしたのだろう。しかも、その女性の住むところから、千キロも離れたところに
ある村の郵便局に。

おそらく故郷の郵便局で、出征の前に、「もし無事に帰ったら結婚を申し込もう」と、
あるいは、「自分が死んでも、あの人のために役立てられるように」と思い、母の
名前と住所を記して、貯金口座に金を託したのだろうか。

そして、そのまま帰ることはなかったのだ。

青春の夢と、希望と、何十年も続くだろう未来の生活のすべての可能性を、どこか
遠くの海かジャングルの果てで、一瞬のうちに手放しあきらめなくてはならなかった
のだ。

どんなひとだったのだろうか。どんな夢をもって、この前の道を歩いていたのだろう。
白線入りの学帽をかぶった青年の姿を思い浮かべ、母と母の家族はそのひとの冥福を
祈った。

もちろん、これは想像にすぎない話である。





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Last updated  2015.08.20 00:28:10
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