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カテゴリ:チベット仏教
6月27日の日記「ゲシェDの1Dayコースとトンレン瞑想(前編)」の続きです。
カセットテープの2面は<Opening the heart meditation心を開く瞑想>。 こちらはトンレンである。 一般的なトンレン瞑想は、他者の苦悩を黒煙としてイメージして吸い込みながら負のカルマを引き受けて、白光をイメージして吐きながら自らの幸福の因や功徳を与えるというものである。 このガイド瞑想では更に、自らのエゴを心の真ん中に居座る黒い岩としてイメージして行うので、初心者の方でもやり易いと思う。
他者の苦悩をイメージして自分に取り込んだら、ますます自分の苦しみが酷くなってしまうのではないかと尻ごみをする方もいるのだけれど、実際にはそんなことはない。 逆に自らの心を開き広くもつことで心は軽くなるのだ、と。
病気、戦争、飢餓―様々な種類の苦しみに喘ぐ人たちを想像しては、彼らが苦痛から解放されることを願いながら黒煙を取り込んでゆく。 もしくは、自分が直面している問題と同様の問題を抱えている人たちをイメージして行う。 その人たちの抱える悲しみ、怒り、絶望―負の感情や負のカルマを黒煙として吸い込んでいると想像するのだ。
吸い込んだ黒煙は、心の真ん中に在るエゴの黒岩にぶつかり、岩は粉々に砕け散る。 すべては、消えてゆく姿。 仏教の「空」を思い、負の要因が消えてゆく様を想う。
黒いエゴ岩が砕けるときに飛び散った火花も白光に吸い込まれ、ますます美しく輝く白光を他者に与え続ける。 その白光は幸福の因であり、慈愛と慈悲の心だ。
受け取った他者の苦悩で、エゴの岩は粉々に砕けて、幸福の因、慈悲を代わりに与えると想像し続ける。 遂には心の真ん中に居座っていた黒い岩石は跡形もなく消え去り、自らの全身も白い光に包まれている。
たとえば頭痛に悩まされているのなら、全世界の頭痛に苦しんでいる人たちをイメージしてやると良い。 世界中の頭痛持ちの痛みを自分に取り込んでゆく。 この痛みを自分が引き受けるから、彼らが痛みから解放されますように、と強く願いながら。
自らの問題に押し潰されてしまうのではなく、喜んでそれを受け入れることで、心は強くなり軽くなり、逆に平和になるから。 この心的トレーニングを重ねてゆくことで、精神力はどんどん強くなってゆく。
これによって、癌でさえ自らの心を覚醒させるための貴重な尊い体験、得難い転機となりうるのだ。 トンレンを続けることで、心は平和に、寛容になってゆく。
以上が、このテープの瞑想の概要でした。
オーストラリアに移住して数年後に自分たち夫婦は不妊症の問題を抱えていることを知った。 けれどそれは当時も別段珍しい話ではなくて、欧米では一般に6組に1組がその問題で悩んでいると言われていた。
周りを見れば可愛らしいお子さんを連れたファミリーが大勢いて、通りに出ればベビーカーを引いた女性や、大きなお腹を抱えた妊婦さんの姿ばかりが視界に飛び込んできた。 誰も彼もが(あ、男性には無理がありますが)簡単に妊娠して、子どもを産んでゆくような気がしたものだ。
2週間待ち続けた後に、それが妊娠に繋がらなかったと知ったとき― 嫌でも心がぐぅ~んと沈んでしまうのだった。
結跏趺坐を組み、といいたいところだけど胡坐を組んで、呼吸に意識を集中して瞑想を始めた。 自分の周りに、夫や自分たち同様に、子供を授かりたいのに授かれない人たちをイメージする。 その人たちの哀しみ、失望、焦りを想像していった。
そうして彼らの苦悩を、どんよりした暗い煙を吸い込んでいった。 自分と同じように不妊症で苦しんでいる人たちの思いを一心に想像しながら、自分の中に取り入れていった。 彼らの苦悩を自分が引き受けますから、どうぞ皆がこの問題から解放されますようにと願いながら。
小さいけれども頑強な自分の暗い想い。 心に広がっていた哀しみや失望も粉々に砕かれては消えてゆく。 彼らの哀しみも自分のそれも、砕けたときに飛び散った光の火花も、すべて慈悲の白光に吸い込まれてゆく、と。
白光は完全な癒しの光であり、祝福の光であり、慈愛の光だ。 この光を受け取ることで、皆が一日も早くこの問題から解放されるようにと、強く願いながら。 誰もが赤ちゃんに恵まれますようにと、心から祈りながら。
ほとんど清々しいくらいだった。
どこかの夫婦の不妊治療が成功するというわけでもない。 だけど確実にトンレンは当時の私が、自分だけが・・・みたいな被害者意識に苛まれてしまうことを防いでくれた。 心が問題に圧倒されて、押し潰されてしまうのを助けてくれたのだった。
当時の自分は、子どもは自然にできるものだという観念が強かったので、どうしても自分たちの問題に意味が無いような気がしてしまっていたから。 だけど自分が不妊治療を経験することで、同じような問題を抱えている人たちの負担が軽くなるのなら、自分の失敗や苦痛にも意味があるように思えてきたから。 それが錯覚や思い込みに過ぎなくても、確実にこの考え方は心を軽くしてくれた。 心を守ってくれたのだった。
ゲシェDがよく言っている。 「自分の心をハッピーに保ちなさい。 心を暗い考えや想い、想念から守りなさい」、と。
ゲシェDの「トンレン」に関する1日コースは9時から始まって5時半ごろに終わった。 トンレン瞑想から始まって、ゲシェの教義。 ベジタリアン料理のランチを挟んで、午後にはトンレンをテーマにした討論会、それからまたゲシェの教義だった。
けれどエッセンスは同じだ。
「His Holiness Dalai Lama is my Guru」と言い切った夢のエネルギーに包まれたまま参加した「トンレン」の1日コースは、トンレン行で慈愛と慈悲の心を培おうと努めた1日になった。 お陰で夢のエネルギーを損なうこともなく、というか帰るころにはむしろ朝来たとき以上に強くなっていた。
夢見をますます楽しみに帰路についたのだった。
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この不妊治療の経験から生まれた小説が『Tamago―39歳の不妊治療』でした。
[マックあつこの著書] 『Tamagoー39歳の不妊治療』 えっ、不妊症!? ミラー月子はたまご時計に急かされながらベイビーを夢見て先の見えない旅に出た。メルボルンからアラフォー妊活小説 『Tamagoー39歳の不妊治療』 Kindle電子書籍 『Tamago』 単行本 『インスタント・ニルヴァーナ』 もしもあなたの大切な人がカルトの罠に嵌ってしまったら? マインドコントロールの鎖は密かに繋がれてゆく。サスペンス長編3部作 『インスタント・ニルヴァーナ 上巻』 Kindle電子書籍 『インスタント・ニルヴァーナ 中巻』 Kindle電子書籍 『インスタント・ニルヴァーナ 下巻』 Kindle電子書籍 [Ako Mak 英語の著書] 『Someday, IVF at 39』 ‘Someday, IVF at 39’ ―poignant, humorous and mysterious― a cross-cultural odyssey for motherhood. 『Somedsay, IVF at 39』 英語版Kindle電子書籍 『Someday Baby: IVF at 40』単行本 [マックあつこのHP] マックあつこのHP Ako Mak HP お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2019.07.05 09:16:01
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