「発達障害=困った人」ではない
医療の進歩でさまざまな「症状」に関して、
新しい知見が明らかになっている。
「発達障害」もそのひとつ。
本書『職場のあの人、もしかして発達障害?と思ったら』(秀和システム)は、
その発達障害をテーマにしている。
子どもの症状と思われがちだが、
やがて大人になり、だれしも職場で接する機会がある。
そのとき、どのような対応が望ましいのか。
著者の木津谷岳さんは発達障害者専門のキャリアカウンセラー。
著書に
『これからの発達障害者「雇用」――専門キャリアカウンセラーが教える』
(小学館)がある。
「困った人=発達障害」という誤解
「発達障害」という言葉はよく聞くが、
どんな症状なのか。
木津谷さんが
企業の経営者や人事担当者が集まる場所で発達障害の話をすると、
決まって返ってくるリアクションがある。
「会社にトラブルメーカーがいる。きっと発達障害に違いない」
というものだ。
「困った人=発達障害」と思い込んでいる人が多い。
具体的にはこんな感じだ。
・協調性がない、コミュニケーションがとれない
・指示が守れない、期限までに仕事を終わらせられない
・指導しても反論する、あるいは、また同じ失敗を繰り返す
・取引先や顧客から苦情がくる
万が一、そうであっても、
本人には周りに迷惑をかけている自覚がないだけかもしれない。
これらの人は本当に「発達障害」なのか。
従業員のメンタルヘルスに対する配慮を考えるために、
発達障害かどうかを知っておきたいのだとしても、
その確認にはきわめて慎重な取り扱いが必要だという。
「発達障害の可能性があると疑っていること」自体が、
当該社員に相当な精神的ダメージを与えるかもしれないからだ。
「生物の多様性」と考える
発達障害は三つに分類されるという。
(1)「ASD(自閉症スペクトラム/自閉症スペクトラム障害)」
(2)「ADHD(注意欠如多動性障害)」
(3)「LD(学習障害)」
それぞれしばしば耳にするが、大人になるまで、
これらの発達障害があることがわからないことも多い。
周囲の人間関係などでカバーされていることも少なくないからだ。
そもそも「発達障害」が知られるようになって日が浅い。
とりわけ「大人の発達障害」を正しく診断できる精神科医は、
首都圏でもまだ多くないという。
著者自身は発達障害を「生物の多様性」と考えている。
脳内の情報処理や制御に偏りがあり、
「異種の脳機能」を持つので、同じ人間であっても、
定型発達者(健常者)とはカテゴリーが違う。
定型発達者が多数派の社会には適合しにくいというわけだ。
多様性は、もちろん定型の人にもあるが、
発達障害がある人はさらに複雑だ。
同じアスペルガーに見えるAさんとBさんの特性が180度違うこともあるという。
発達障害は先天的な神経発達障害なので、
生来の特性を治すことは不可能。
特性に合わない仕事をさせて
「できない」と決めつけるのはフェアではないと指摘する。
キャリアの実現が図れるように育成
本書は以下の構成になっている。
第一章 発達障害者を受け入れる企業の在り方
第二章 発達障害者の周りにいる「三種の人間」
第三章 発達障害者の「戦力化」に必要なこと
第四章 発達障害者と共に働くときの大前提
第五章 上司としての接し方
第六章 同僚としての接し方
第七章 人事・総務(採用担当者)としての接し方
職場に発達障害の人がいるけど、何か気遣ったほうがいいのだろうか?
もしかして、あの人は発達障害ではないか?
と思う人がいるが、どうしたらいいかわからない・・・
本書は「発達障害について知り、ともに働く方法を学ぶ一冊」だ。
上司、同僚、人事・採用担当者の立場から、
発達障害の人、発達障害かもしれない人と上手に付き合う方を教える。
本書は基本的に発達障害の人を排除するのではなく、
いっしょに生きることを主眼としている。
一番大事なことは、発達障害がある社員を「雇用し続ける」ことではなく、
「キャリアの実現が図れるように育成する」
ことだと強調している。
迷ったとき、本書を「手引き」として利用してほしいと記している。
BOOKウォッチでは『天才と発達障害』(文春新書)、
『働く発達障害の人のキャリアアップに必要な50のこと』(弘文堂)、
『発達障害の子どもを理解する』(集英社新書)なども紹介済みだ。
得手、不得手を理解し、
お互いに補い合う。
そして会社にも人材の育てるという意識が大事ですね。
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