ヒロミさんの子どもは通常学級に在籍している。
特別支援学級を選ばなかったのは、
一人一人が尊重される共生社会に
つながるとは思えなかったから。
いろんな子がいる教室で過ごして、
たくさんの刺激を受け、
級友に障害を特別視しない目が育つことを期待した。
「ニーズに即した教育ができる」。
校長は特別支援学級への転籍を何度も勧め、
体育や図工は通常学級で受けられるとの説明を繰り返した。
こうしたやりとりをする中で昨年、
この小学校が使う名簿は、
五十音順に並んだ通常学級の児童の下に、
特別支援学級の児童が続いていると知った。
ヒロミさんは衝撃を受けた。
「名簿順に名前を呼ぶと
『特別支援学級の子は自分たちとは違う』
という意識が刷り込まれてしまう」。
全員を五十音順に並べ直すよう訴え、
校長は「見直した」と説明したという。
「分離型」小学校3割、中学校1割
ヒロミさんが周囲の保護者や教員に尋ねたところ、
同じ体験をした人がいた。 ある保護者は市立小に通う子どもから、
分離型名簿が使われていると聞いて改善を求めた。
五十音順に見直されたものの、
進学した市立中も分離型だった。
入学直後に見直しを求め、
改善されたのは卒業間際。
いつも最後に名前が呼ばれた子は
「自分は(学級の)お客さんでいいから」
と話すようになったという。 知的障害の程度で、
他の子と扱いが異なることに気付く子がいる。
違和感を抱いても説明ができなければ、
保護者は分離型の存在に気付かない。
ヒロミさんは問題の根深さを痛感した。 こうした問題意識が広がり、
平和や共生社会を掲げて活動をする
「福岡市母と女性教職員の会」
は2月、
教員間のネットワークを通じて独自に調査をした。 全市立小144校のうち106校、
全市立中69校のうち42校から回答を得た。
小学校は約3割、中学校は約1割が分離型だった。
分離型の半数は、名簿についての話し合いもしていなかった。
「授業参観の時だけ、特別支援学級の子も五十音順に入れている」
という声もあったという。
福岡市教委、新年度に実態調査へ
なぜ分離型を使うのか。 市立小中学校の複数の教員に聞くと、
「特別支援学級から来ている子を忘れないようにするため」
「給食費や教材費の管理がしやすい」
などの意見があった。 一方、福岡市外の小学校の50代男性教員は
「時代錯誤も甚だしい。子どもが見聞きする名簿は、
五十音順が当たり前だと思っていた」
と驚く。
事務作業用には別の名簿があるため、不便は感じないという。 福岡市立中の50代女性教員は分離型を採用していた、
かつての勤務校での体験を思い出した。
その中学では毎朝のホームルームで、
名簿順に生徒の名前を呼ぶようになっていた。
特別支援学級から通常学級に来ていた生徒が呼ばれるのは
いつも最後だった。 「特別支援学級の生徒は、
通常学級より常に『下』という見方につながりかねない」。
心苦しくなった教員は、
同じ学年の名簿を勝手に五十音順にした。
それでも同僚からの指摘はなく、
「問題意識と関心のなさ」
を感じたという。 市教育委員会学校企画課は、
名簿順について問題視する意見があることは把握している、
と説明。
昨秋に小中学校の校長会で
「自分たちが別枠だと感じる子や保護者がいる。
思いを受け止めてほしい」
と伝えたという。
新年度には各校の実態を調査する方針だ。
全て五十音順に
川島聡・岡山理科大准教授(障害法)の話
障害がある人は
社会のさまざまな機会から排除される経験が多い。
分離型名簿を使うことで「ここでも排除されている」
と感じる子どもや保護者がいるのは当然だろう。
共生社会の実現に向け、
全ての子の名前を五十音順にするべきだろう。
分離型の見直しに労力や費用がかからなければすぐに見直し、
もしかかるのなら、それをなくす努力と工夫が必要だ。