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テーマ:障害児と生きる日常(4473)
カテゴリ:自閉症関連
大炎上した「発達障害」本:一体何が問題なのか 発達障害を扱った書籍が大炎上SNSを中心に、ここ2-3日の間、 発達障害を扱ったある書籍が発売前だというのに大炎上している。 それは、著者が宣伝のためにSNSに上げた写真や オンラインショッピングサイトなどで、 書影や書籍の一部が見られるようになっており、 そのタイトル、帯の文句、書籍の一部や目次などに 問題のある記述が山積していたからだ。 私自身もそれを見て、驚愕した。 SNSには批判コメントがあふれかえり、 一般のSNSユーザーだけでなく、 メンタルヘルスの専門家、発達障害の当事者団体、 専門書を扱う出版社なども 軒並み批判コメントをしている。 何が問題なのかあえて書名や著者名を出すことは控えるが、 当該書籍の何が問題なのかを挙げてみる。 まず、この本は発達障害に限らず、愛着障害、トラウマ障害、 その他の疾患などを抱えた人々を「職場にはびこる困った人」と一括りにし、 「イライラ、モヤモヤさせられる困ったさん」に 「戦わずして勝つ」ためのマニュアル本だと謳っている。 言葉尻をとらえるわけではないが、「はびこる」という言葉自体、 「悪がはびこる」「雑草がはびこる」というように、 主にネガティブな対象を指して用いられる言葉である。 著者は、障害を抱えた人々を「困った人」ととらえているのだから、 これは自然と出てきた言葉なのだろう。 そして、帯には 「なぜ、いつも私があの人の尻拭いをさせられるのか」 とデカデカと書いてある。 そこにはやはり、かなりの偏見があると感じざるを得ない。 また、それぞれの障害を抱えた人々を安易にステレオタイプ化し、 たとえば多様な病態をもつASD(自閉スペクトラム症、いわゆる自閉症) を一括りにして論じ、 「異臭を放ってもおかまいなし」と言ったり、 トラウマ障害(これ自体、正確な病名ではない)は「過敏さん」 などと揶揄するような表現を用いたりしている始末だ。 これでは、当事者や当事者団体が傷つき、憤るのも当然だ。 発達障害当事者協会は、 「困った人」と捉えて出版することはコンプライアンス的に適切か、 障害のある人々を動物のイラストで描くことは適切か、 上記のような「異臭を放つ」といった一方的な断定は適切か、 といった質問状を4月17日付で出版社に送付したという。 専門家としての「カウンセラー」もう一つ私が問題視しているのは 、著者の専門性である。 著者のプロフィールを見ると、自らを「スーパーカウンセラー」と称し、 発達障害などが専門だと述べている。 そして、複数の資格を有しているようだが、 いずれも「専門家」と呼ぶには基礎的な民間資格であるようにみえる。 私はなにも国家資格がすべてだというつもりはないし、 民間資格がダメだと貶めるつもりもない。 しかし、生半可な知識で「専門家」を名乗り、 人の「心の問題」に対峙することは危険でしかない。 著者は、取材のなかで、 障害のある人を差別する意図はなかったと述べている。 たしかにそうなのかもしれないし、この本では障害を持った人が、 「困り者」にならないように、どう対処すればよいかを伝授したかったのだろう。 しかし、私は「困り者」「尻拭い」などといういわば 「上から目線」の姿勢に出てしまったのは、単に言葉遣いにとどまらない、 もっと根本的なところに問題があると考えている。 それは、著者や出版社の障害や障害者の人権に対する考え方が時代遅れで、 間違っているということだ。 障害や障害のある人は、社会の「困り者」なのではなく、 本人の機能や特徴と社会の環境や周囲の無理解などによって、 「困っている人」なのである。 本当の専門家ならば、十分な倫理教育や人権教育を受けているし、 法律や社会の制度にも精通しており、 このようなことは十分に熟知しているはずである。 障害の定義と障害者の人権「障害者差別解消法」は、 障害のあるすべての人が障害のない人と同じように、 基本的人権を生まれながらに持つ個人としての尊厳を尊重され、 その尊厳にふさわしい生活を保障するために、 不当な差別を禁止したものである。 2024年からは、事業者には 「合理的配慮」の提供が義務づけられるようになった。 これによって、 障害のある人もない人も共に暮らせる社会を目指している。 この法律の根底には、 世界保健機関(WHO)が提唱した 「障害」に対する新しい考え方がある。 以前は、障害とは本人の疾患や機能などによって、 個人の能力が発揮できず、 社会的に不利な状態に置かれていることと理解されていた。 つまり、障害は個人が抱える個人的な問題にすぎない と考えられていたのである。 しかし、2001年にWHO総会で採択された 「国際生活機能分類」 (International Classification of Functioning, Disability and Health: ICF) では、障害という言葉すら用いられておらず、 すべての人の健康状態や機能を 包括的に捉えるための分類体系が提示されている。 これは、 「人がどう暮らしているか(生活機能)」に焦点を当て、 病気や障害という「健康状態」だけではなく、 「どんな活動をするか」「何に参加するか」に対し、 物的環境、人的環境、社会環境といった 「環境因子」の影響などを考慮して理解する枠組みである。 障害という文脈に当てはめると、 障害とは障害者一人だけが抱えているものではなく、 彼らを取り巻く社会が 障害を作っている(社会的障壁)のだと考えられる。 これは「障害の社会モデル」とも呼ばれ、 ここでいう社会的障壁には、 社会の事物、制度、慣行、観念などが含まれる。 そして、これらを合理的な範囲で取り除くことが、 社会全体に求められている。したがって、 障害者を動物になぞらえて揶揄するようなネーミングをし、 「困り者」として扱うことは、 人々の心のなかにそうした「観念」という 社会的障壁を作っているようなものである。 また、「合理的配慮」を提供する義務があるのに 「尻拭い」をさせられているなどと表現することは、 現代的な障害の定義や法律の主旨に著しく反している。 障害やそれに対する診断というのは、 彼らを排除したり レッテルを貼ったりするためにあるのではなく、 「支援のための目印」であるはずである。 そして、障害のある人々の人権を守り、 生活しやすい社会を作っていくことが、 メンタルヘルスの専門家、 そして社会全体の使命なのである。 原田隆之 (筑波大学教授) 筑波大学教授。博士(保健学)。 専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。 法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。 エビデンスに基づく依存症の臨床と理解, 犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。 疑似科学や根拠のない言説を排して, 犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」 に対する科学的な理解を目指します。 主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書) 「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版) 「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」 (いずれもちくま新書), 「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。 エキスパート 【YAHOOニュース】 どういう立場に立ってものごとを捉えるかも また、その人の人間性をも問われますね。☄ ![]() にほんブログ村 ![]() にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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