011709 ランダム
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Supica's room

せいしんしょうがいしゃのよしくん

今日、父は帰って来たときひどく怒っていた。

「あのやろう、大事な客の注文を勝手に取りやがって。」

僕はそれをソファー越しに聞いていた。

テレビを見て気にしないふりをしていたが、耳をびんびんにたてていた。

父はひどく憤慨し、2リットルのペットボトルをがぶ飲みしていた。

「あいつのせいで50人分の弁当が消えたんだ。得意先を一つ潰しやがった。」

確かに僕もそう思う。

始めから仕事が出来なければ仕事なんてしなければいいのだ。

無理にしたって逆に会社の損失でしかないじゃないか。

偽善的に僕らが雇ってあげても悲しいだけだ。

あーあ、何で親父ったら雇う前にそんなこと気付かないんだろう。

ポテトチップスをパリパリ食べて、テレビを見直した。

そして、僕と精神障害者ではどのくらい僕が勝っているか、あるいは優れているか要点をまとめて考えていた。

父は後ろから僕をじーっと見ている。

「お前もテレビばかり見てないで勉強しろ。勉強しないで店をやるとこんなことになっちまうぞ。」

矛先を僕に修正していたようだ。

怒りを撒き散らす父を蔑んで僕は部屋に退散した。

僕には母親がいない。

僕が生まれた頃には死んでいたのだ。

だから僕は父に嫌われていた。

お前のせいで死んだんだ。

って顔に書いてある。

だから僕はなるべく父の顔を見ないようにした。




夜中、父は電話の向こうと大声で交信していた。

「なんだと。いつどこでだ?」

僕は重たい瞼を必死にこらえて、父の話を聞いた。

何故ならただ事ではない様子だからだ。

「わかった。こちらから向かう。病院はどこだ。」

父は思い切り電話を叩きつけると、スーツに着替え僕の部屋にやってきた。

「よしくんが事故ったらしい。お前も病院に行くぞ。」

顔面蒼白の父の顔を一分眺めたら眠気は吹き飛んだ。

だって事故じゃないんだから。

大急ぎでタクシーに乗り込み木下病院に直行した。

父は受付で病室を聞くと、未だに治療中だと言われた。

赤いランプが漂うベンチに僕と父は腰をかけた。

すると、パッと光は消え、中から台に乗ったよしくんが運ばれてきた。

医者は父に骨とか内臓とかの話をしていた。

正直内容が僕には分からない。

でも一つだけわかったことがある。

よしくんは自殺だったんだ。

ビルから飛び降りたんだって。

まあ何考えてるか分からない奴だもの。

飛び降りたって不思議じゃない。

むしろこんな夜中に呼び出されて僕としては迷惑だ。

いや、でもこれは明日の学校で話のねたが出来たぞ。

と、僕は得意そうな自分を想像していた。

その後ICUでチューブを身体に通し、仰向けに寝ているよしくんを見た。

あーあ、これからお見舞いとか大変だろうなぁ。

面倒くさいこともいろいろやんないといけないし、大変だね親父。

と僕は勝手に父に同情していた。

そして翌日、僕はよしくんの話をみんなの前で自慢して聞かせた









一年後。

よしくんは僕の店で働いていた。

怪我も治り、父は(何故か)彼をまた雇ったのだ。

そのうえ、父は昔の態度を一変し、よしくんを可愛がっていた

その頃の僕といったらひどかった。

塾に通ってもテストで良い点が取れず、むしゃくしゃしていろいろなものを壊していた。

ポストに油にひたした布を入れて燃やしたり、明らかに反抗してこない奴を見つけて徹底的に虐めたりしていた。

僕はもちろん同学年のやつらなんかより全然頭が良いと思っていたし、自分がもっとも尊い存在だと頭の中で確信していた。

悪い点数を取ったときはそれをビリビリに破き、ゴミ箱の底に捨てた。

何もかも悪い方向に進んでいた。

歯車は止まらないのだ。

ある日、よしくんが僕の家に食事をしにきた。

何故か風船を僕に渡した。

プレゼントだったらしい。

うすら笑いをして、えへえへと僕に笑いかけていた。

こんな奴になれたら幸せだろうな、と思って僕はよしくんを見ていた。

帰りは車で自宅まで送ってあげることになった。

確かに、こんな時間、彼では家に辿り着けないだろう。

僕は助手席に乗って、よしくんは後部座席に座った。

夜の静かな町を車は突き進んだ。

僕は風船を抱えて街を眺めていた。

バックミラーを覗くと、よしくんは未だにえへえへと笑っていた。

僕はため息をついた。

暑いな。

窓を開けよう。

スウィッチを押し、窓が開く。

その瞬間、突風が吹き、僕が抱えて持っていた風船はあっという間に吹き飛んでいった。

僕は父に怒鳴られるのかと思い、即座に父の顔色を伺った。

しかし、父は運転に集中しているせいか、まったくそのことには気付いていなかった。

僕は安堵のため息をゆっくりとし、胸を撫で下ろした。

その時、僕の目の中にバックミラーが入り込んできた。

車内の暗闇の中、よしくんはそこに溶け込んでいた。

僕と目があったことに気づく。

僕は何故か焦った。

どうしようもない切迫感と焦燥感に襲われたのだ。

僕は目を背けることが出来なかった。

えへえへ、とよしくんは笑っていた。

そしてこう言った。


































































































「ばか」







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