あの場所で
「ねぇ、あなた。覚えてる?」「え?」「ほら、この神社。」「あぁ。覚えてるよ。」そう言いながら、あなたは私の手を握った。あなたの手は、少しずつ汗をかいていく。「あら。照れてるの?」「・・・」「もう、オヤジなのに」「あぁ、お前もブヨブヨのオバさんになったもんな。」「あなただって、薄くなったじゃない。あ、昔からだっけ?笑」「・・・」「あ、怒った?ゴメン、ゴメン。」「お前なぁ・・・」今から、30年ほど前。私たちは、高校生だった。人からからかわれることの嫌いだった私たちの思い出の大半は、この神社だった。「ねぇ、寄ってかない?」「ああ」神社は何も変わっていなかった。ブランコ、ベンチ、そしてあの場所も・・・「懐かしいな」「うん」「座れば?」「うん」今日は、末っ子の礼史の高校卒業式だった。「あの講堂、全然変わってなかったね」「あぁ。でも、校舎はいくつか新しくなってたな」「高1の校舎、取り壊されちゃってたもんねぇ」「そうだな」「覚えてる?あれ」「あぁ」「ねぇ、呼んで?」「は?」「ほら、私を」「お前」「そうじゃなくてさ」「・・・沙愛」「はぃな」「沙愛」そして、あなたは私にキスをした。「お前、照れてるやろ?」「・・・」「照れてるな」久しぶりに、キスをした。私は、ドキドキした。あの頃のように「先輩来てたな」「そうだね」礼司の学年に、私の愛した先輩の子供がいた。そして今日、愛した人が卒業式に来ていた。「幸せか?お前」「うん」「俺で良かったんか?」「高校生の頃から言ってるよね(笑)」「そうだな」「幸せよ」「俺、勝ったか?先輩に」「勝ってるよ。高校生の頃からね」「俺な。お前で良かったよ。」「改めて何よ?(笑)」「沙愛で良かった」「私も」「さて、行くか」私たちは、立ち上がった。「おい?」「なぁに?」振り向くと、あなたは私を抱きしめた。「愛してる」あなたは言った。昔のように。そして、きつく きつく私を抱きしめた。「よし、行くか」あなたは、私の手を握った。「守ってくれたね」「え?」「ほら、今もドキドキしてるでしょ?」「・・・あぁ。」「ずっと愛してくれてるじゃない。こんなオバさんになった私も愛してくれてる。」「約束したからな」「うん。これからも?」「来世でもって言ったよな?昔」「うん」私たちは歩く。手を繋いで明日も、明後日も。来世でも