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大聖堂から鐘の音が聞こえてくる。毎日五回聞こえてくるこの音色はすでに幼い頃からのありきたりな音色となっている。
音色が聞こえるたびに思うことがある。 ああ,今日も平和だ。 これは街の住人皆が思っていることだ。 この街には二つ,大きな建物がある。 一つは街の北西にある大聖堂。白と青が物静かな雰囲気をかもしだしている。ここには何百もの敬謙な信者達が毎日の勤めをこなし何千もの人々が毎日巡礼に訪れる。 もう一つは街の中心にある王城リーン・リーフ。 名前の通りここには王もいるし文官から軍人までありとあらゆる人々があの中で仕事をしている。 この二つはこの街の名物であり,象徴であり,生活の糧でもある。 この二つの建物はなにも無駄に大きいのではない。あるものを保管,運用するために大きくなっていったのだ。 今日二回目の鐘の音色が消える。次になるのは日が自分の真上に来る頃だろう。 街に人が溢れかえり始める。城門が開かれ城内へと入ってくる人々もいる。 毎日繰り返される光景。いつも交わされる会話。間違いなくここでの日常。 王女エリフィシアは憂鬱だった。 新たに領地内に発見された水晶鉱脈。 その所有権を巡って起こった軍事強国ビクトリアとの紛争。 またすでに悪化の一途をたどっている紛争地域,鉱山での治安と秩序の崩壊。 勿論これらも悩みの種だ。 だが,もっぱら今の悩みはそんな大事ではない。 この国の王女としての宿命のようなものだ。 もっといえば一族にかせられた制約のようなものだ。割り切ればなんてことはない。それも決められたかことだと思うと憂鬱になるのだ。 そんな個人の感傷なんてこの大いなる流れの中にはあまりにも無力だ。 ただ,この流れも日々のくだらない小さな流れによってうねるというなら無視は出来ない。そもそも,人間であるかぎり憂鬱な気分なんかになりたくはないものだ。 「エリフィシア様,どうかなされましたか?」 窓の外を眺めているエリに侍女が問い掛ける。 「あなた,魔法学園なんて知ってる?」 窓の外を眺めたままエリは逆に尋ねる。 「そりゃ,当たり前です。私が通ってたんですよ」 「………え?」 それは驚きでもあり,絶望でもある。そんな顔をした。 「そんなに驚かれても困るわよ」 「…そうだったわね」 投げやりに返事をしてまた窓を眺める。 しばらくして不意に立ち上がり部屋から出ようとする。 「王女が鎧を着たまま歩くのはいただけないわ。みんな不安がるわよ」 「いいのよ,それより不安にさせること,言わなくちゃいけないんだから」 静かに,でもいつも通りにエリは言った。 「…ならみんなを集めたほうがいいわね」 「おねがい,エリア」 それだけ言い残して王女は部屋を去った。 その夜,王女の語ったことは今となっては知る術はない。 ただ,ただ,鐘の音だけが,いつものように聞こえてくる限り,語られることのないお話だ。 携帯だとリンク張れないと気付いた。 まぁ前の水晶のお話企画の続き。 あといくつで終わるかわからない。流れがうねるまで書かなきゃいけないらしい。それが夢 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
May 2, 2008 10:07:16 PM
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