カメラの裏側に潜むモノ
Contax Gシリーズはレンズの本数が少ない。・Hologon 16mm/8・Biogon 21mm/2.8・Biogon 28mm/2.8・Planar 35mm/2・Planar 45mm/2・Sonnar 90mm/2.8・Vario-Sonnar 35-70mm/3.5-5.6の7本だが、Vario-Sonnarは出回っていないし意味がないので(暴言)実質6本としよう。レンズ名をフルネームで表記すると少々長いので、短縮するのはどこのマウントでも共通だろうが、Gマウントにおいては焦点距離が同じレンズが無いので非常にわかりやすい。ぶっちゃけ「35mm」みたいに焦点距離だけでも良いのだが、構成名の頭文字と焦点2桁の3文字だけで表記されることが多いように思う。「B28」だとか「P45」という具合である。前振りが長ったらしくなってしまったが、その「P45」なのである。数あるPlanarレンズの中でも、最も安価で(2万円でお釣りが返ってくる)取引されていながら、その実愛用者からの評価はすこぶる高い。特徴としては・豊かな階調表現・なだらかなボケ味・程良いコントラストによる立体感……うーん。他のPlanarと褒め言葉が変わらないなぁ……まあ要するに、至って正当なPlanarなのである。それどころか、レンズ構成はありがちな「変形Planar」ではなくて、4群6枚対称型の正真正銘のPlanar構成と(発売は95年だった事を考えると)何とも風変わりなレンズである。さもすれば、クラシカルなPlanarの復刻?とも思ってしまうようなスペックであるにもかかわらず、これがまたすこぶる良い描写をするのである。CONTAX G1, Planar 45mm/2, Kodak ELITE CHROME 100とにかく、小細工なしで良い質感に仕上がってくれる。フィルムチェック中に「あれ?もしかして写真上手くなった?」と錯覚してしまうが、本当に錯覚である。(同日に撮影したY/Cのフィルムはいつも通りの仕上がり)以前はZeissレンズについて回るキーワードの「立体感」「ボケ味」「空気感」というのが、実感が無かったのだが、P45はそれらをはっきりと認識させてくれた。CONTAX G1, Planar 45mm/2, Kodak ELITE CHROME 100恐らくは、人間の認識や記憶に残るイメージに近い質感になるよう設計されているのだろう。「光学的」な理想レンズを追い求めた日本のレンズ設計とは方向性が違うのだなぁ、とつくづく思う。(無論、そういうレンズも必要なんだけども)P45は素晴らしいレンズだと思う。素晴らしいとは思うが、本人の力量を超えてレンズが勝手に芸術してしまっているような恐怖もある。このレンズを「頼れるパートナー」とするのか「レンズに撮らされているだけ」になるのかは、偏に撮影者の心持ち次第なのだろう。CONTAX Gはコンセプトからして非常に気軽なカメラである。その気軽さの裏側への畏怖を忘れたとき、僕はこのカメラに飲まれてしまうのだろう。―カメラは正しく「刃」なのだ。