246385 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

あい・らぶ・いんそん

告白4

告白4

ジェミンはあきれたように答えた。

「おまえ、自分が何を言っているのかわかっているのか?」

イヌクは窓に目をやり、相変わらず美しい夜景を暫く見つめていた。

ジェミンの心のゆとりが羨ましく、悲しかった。

以前であればすぐに自分に向かってきたジェミンが、自分のプライドの

ために闘いもせず、再び何もかも捨ててニューヨークを去ると言い切る

力が妬ましく思われた。

「本当におまえは変わったな・・・牙のない虎か?」

イヌクはジェミンを挑発するように言うと、ジェミンはただ苦笑いをするだ

けだった。

「逃げ出すのか・・おまえらしくもない」

「おれらしい?何がおれらしいのかな?」

「プライドだけで生きていただろう・・・あの頃は」

するとジェミンはきっぱり言った。

「すべてを捨てた俺だ。今はスジョンと生きることしか考えていないよ。」

暫く静かな時間が流れたあと、イヌクがぽつりと言った。

「何故・・・同じ女を愛したのかな・・」

ジェミンは、イヌクの嘆きはひとつ間違えれば自分の嘆きでもあったかも

知れないと・・ふと思った。

「とにかく、俺とスジョンはこの街を出る。だからおまえももう忘れてく

れ。頼む」

ジェミンがそう言って立ち上がり部屋をでると、イヌクも追って部屋を出た。

「まてよ、まだ終わっていないぞ」

イヌクの言葉に振り返ったジェミンは、廊下の影に隠れていた男がイヌク

めがけて飛びかかるのを見た。「危ない」と叫んでジェミンはその男に突

進した。

イヌクが振り返ると、スジョンを連れ去ろうとしていた男がナイフを

もって襲いかかってくるところだった。

ほんの一瞬の出来事だった。

イヌクをかばってジェミンが刺され、その場に倒れ込んだ。

イヌクはその男を殴り飛ばし、大声で叫んだ。

「誰か来てくれ・・誰かぁ・・」

ジェミンが倒れた絨毯が、次第に赤く血に染まっていった。



スジョンは帰りが遅いジェミンを心配しながら、荷物の整理を始めていた。

ニューヨークに来て初めて二人で買い物をしたのが、ペアのコーヒーカップ

だった。

そのコーヒーカップを揃えてテーブルに並べ、スジョンはこの3年間を

思い起こしていた。

安物ではあったが、スジョンが気に入ったこのカップを買ったのだった。

そのときジェミンは小さな声で「ごめん」と言ったのを、スジョンは聞

こえないふりをし、嬉しそうに笑って見せた。

たくさんの思い出が詰まった部屋になっていた事を、スジョンは改めて

思うのだった。ひとつひとつ、そのどれをとってもジェミンとの想い出

が込められていた。

幼い頃両親を亡くし孤児として兄と二人、貧しさと苦しさの中で生きてき

て、やっと巡り会えた幸せだった。

「孤児・物乞い・寄生虫・ゴミ」

そう呼ばれありとあらゆるいじめに遭いながらも、自分と兄を守るために必

死に生きてきて、お金さえあれば幸せになれると信じて疑わなかった頃。

ジェミンに近づいたのも、最初はP財閥の御曹司だったからだ。

しかし、いつしかジェミンの素直な情熱に心惹かれ、何もかも財産を失った

ジェミンを心から愛するようになっていた。

今の幸せを守るためなら、地の果てまででもジェミンと共に歩いていこうと

思うのだった。



そのときスジョンの携帯が鳴った。見るとそれは、ジェミンの携帯から

だった。

「もしもし・・遅いから心配したわ」

スジョンが言うと暫く返事がなかった。

「もしもし・・」

「俺だ・・」

それは紛れもなくイヌクの声だった。

(何故・・イヌクさんから・・)スジョンの鼓動が大きく高鳴った。

「今すぐ迎えをやるから、その車に乗って来るんだ。ジェミンが刺された」

イヌクの声が緊迫していた。

スジョンは全身が震え、気を失いかけた。思わず携帯が手から滑り落ちる

と、テーブルにおいていたコーヒーカップにあたって落ちた。カップが

割れる乾いた音が、想い出の詰まった部屋に空しく響き渡った。

告白5へ



© Rakuten Group, Inc.