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あい・らぶ・いんそん

告白10

告白10

「ほんとうにすまなかった・・・。」

暫くしてイヌクが言った。

「もう、終わったことだ」

「だが・・もう二度と無茶するな。おまえにもしもの事があったら、

スジョンが一人になる・・」

イヌクが心配そうに言うと、ジェミンもしみじみ答えた。

「あぁ・・俺ももしかしたら、これで死ぬのかと思った時スジョンを、

おまえに頼もうかと思った・・。」

「馬鹿をいうな・・・あいつは、おまえを愛しているんだ。だから、

おまえが最後までスジョンを守れ。それに・・」

イヌクは言いかけて、思いとどまった。

「それに?」

「いいや・・・もう俺はおまえ達の前から姿を消すことにしたから・・。」

と、イヌクが答えた。

「いいや、俺達が出ていく。あれからもう3年・・今でもスジョンは時々お

まえの夢を見ては泣いていた。おまえにすまないと言って・・・。もうあい

つの心を自由にしてやりたい・・・だから、俺達がここを出ることで、少し

でもスジョンの心が軽くなるなら、そうしてあげたい」

イヌクの胸が痛んだ。

自分だけが苦しんでいたわけではなかった・・・スジョンの心に、さら

なる苦悩を押しつけたことが悔やまれた。

「心配するな。俺は身軽に何処にでも行けるから・・。おまえはスジョン

と、この3年間築いてきたものを守れ。」

「不思議なものだな・・おまえも俺も・・」

「ああ・・そうだな。俺はずっとおまえを憎み続けてきた。何の苦労も

なしに、俺からすべてを奪っていくおまえが憎かったな」

イヌクが言うと、ジェミンは小さくふっと笑った。

「俺も同じだったよ。いつもおまえに脅かされていた気がしたよ。」

「スジョンのために、全財産を失ったとき、おまえ・・恐くなかったか?」

「あぁ・・それ以上にスジョンが欲しかったからな・・。」

「そうだな・・俺は財力を持ったが、決して幸せじゃない。」

イヌクは自嘲するかの様に笑った。

「ヨンジュも捨てたおまえだ・・。」

「俺は愛というものを、スジョンから知った。他の女を愛したことはない。

ヨンジュと結婚してからも、ヨンジュには指一本ふれなかった。それでも、

おまえには渡したくなかったのかな・・・今思えばつまらないプライド

だった。」

「プライドか・・俺はおまえが妬ましかった。何もかも自信にあふれ

何でも思いのままにできるおまえが・・本当に妬ましかったよ」

「それじゃあ何故、あのときスジョンを返した。」

イヌクが寂しそうに笑って答えた。

「愛されないのも辛いが、愛されていないとわかっていて、それに気付

かぬふりをするのが辛かった・・・せめて、スジョンが幸せにさえなっ

てくれれば良いと・・・思っていた」

ふ~っとジェミンは、大きく息を吐いた。

同じ女を命懸けで愛したという心の痛みが、ある種友情の様なものを

感じさせていたのだった。

しかしイヌクの心には重い秘密が埋め込まれている事を、ジェミンは

知らずにいた。

思いがけずスジョンとの再会を果たし、それでも愛する苦しみから抜

け出せず、なおいっそうスジョンとジェミンを苦しめたことを思うと、

イヌクはスジョンが哀れでならなかった。

思わずスジョンを抱いたことをジェミンに告白し、謝りたいという衝動

に駆られたが、思いとどまった。

あれほど憎みあった二人が、同じ心の傷をもっていることに気付き、

お互いを少しだけ理解できるようになっていく、静かな時間が流れた。

「もうそろそろ行くよ。」

イヌクが立ち上がった。

「おまえ達はこのままでいろ。」

「ほんとうにそれで良いのか・・?」

「あぁ・・早く元気になってくれ」

イヌクはそう言って手を差し出した。

ジェミンもゆっくり手を出して、二人は初めて握手を交わし、言葉にな

らない互いの想いを、しっかり重ね合った。

そしてイヌクは「じゃあな」と言ってドアに近づくと

「いいか、チョン・ジェミン・・・スジョンを頼む。もうおまえ達の

邪魔はしないから、スジョンを幸せにしてやってくれ。この先・・・

どんなことがあっても・・約束だ」

頬に流れ落ちる涙を悟られまいと、イヌクはジェミンに背を向けたま

ま、そう言ってドアを開け、部屋を出た。

すると、スジョンが帰ってくるのが見えたので、イヌクは慌てて柱の

影に隠れた。

今、もしもスジョンに声をかけられたら、未練が起きるかも知れないと

・・・と思った。イヌクは、スジョンがジェミンの病室に入るまで柱

の影からそっと見送った。

「スジョン・・これでほんとうのお別れだ、幸せになってくれ」

イヌクは心の中でつぶやいた。

未練を断ち切るための涙は、とめどなくイヌクの頬を流れ落ちた。

愛再び~別離1へ



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