オリジナルBL小説「落日(第6部)」第3話
BLの苦手な方は読まないでください。 18禁です。 苦情は受け付けません。 何卒お許しくださいませ。m(_ _)m 「実は・・・今まで内緒にしてきたんだが、父さんは母さんに 出会う前に心から愛する人に巡り合った。その人はとても 美しく誇り高い人だった。でも、父さんはその人にフラれて しまってね。嘆き悲しみ、落ち込んでいる時に偶然その人に 顔がそっくりな母さんに出会ったんだ。奇跡かと思ったよ。 俺は結婚して幸せになろうと思った。でも、結婚して、 麻里緒が生まれると、心が揺らいだ。遺伝子のせいかな。 麻里緒は俺の愛した人と生き写しの顔だった。昔、アルバムを 見せてもらった事があるんだが、子供の頃の写真によく 似ている。きっと二十歳に成長したら、当時のあの人と同じ 顔になるだろう。俺には分かる。俺は愛する人に捨てられて、 愛するべきものの分身をこの世に生む為に結婚したんだ。 男の子と女の子を授かって、女の麻美は俺に似て、男の 麻里緒は誰よりも美しい。きっと、これは運命だと思う。 麻里緒は神様が俺にくれたプレゼントなんだ。あの人の 代わりに俺は生涯愛する事のできる血の繋がった息子を 手に入れた。それなのに、倫理的に批難されて、長い間、 手放していた。なんて俺は意気地なしなんだ。ごめんな。 麻里緒。もう、決して、この手を放さないから、俺と二人で やり直そう。」 父さんは僕を見ていなかった。僕をじっと見つめていながら、 僕に違う人の面影を重ねて、僕に愛を囁いていたのだった。 父さんだけは僕を愛してくれていると信じて疑わなかったけど、 父さんの心は違っていた。父さんの心の中には違う人が 住んでいた。愛を蝕む寄生虫のように黒い影は増殖し、 愛という名の闇に父さんは喰われていたのだった。 「愛してる。麻里緒。」 父さんはゆっくりと顔を近づけて、僕の唇に接吻した。僕は 逃げなかった。うっすらと口を開け、父さんの舌を受け入れた。 ねっとりと舌を吸われ、蕩けるように絡められ、蠢く舌に僕は 犯された。蕩けるような熱い舌に吐息までもが吸い込まれて いく。身体が蕩けるほどに僕の意思は奪われ、僕の想いが 吸い取られていくような気がして、僕は泣いてしまった。 涙を流しながら、僕は父さんの舌を噛んだ。甘い血の味がした と同時に僕の口内から舌が抜き取られ、 「痛っ。何するんだ。痛いじゃないか。」 という父さんの声を聴いた。僕の瞳は涙でぼやけて、何も 見えなかった。父さんが口を押さえて、怒っているような 気がしたけど、僕には何も見えなかった。 「父さんは無責任過ぎる。僕は父さんの恋人になりたくない。 離婚はしないほうがいいよ。」 責任感の強い相手に珍しく大人びた口調で僕は言った。 父さんは何か言おうとしたみたいだけど、声にならなくて、 呆然とした顔をしていた。 「ごめんなさい。噛んで・・・痛かった?」 僕が父さんの唇に手を伸ばすと、無言でパシッと手を はらわれた。父さんは怒っているようだった。 「何でだよ。何でなんだ。」 父さんが呟くように言った。僕は誰かの代わりなんて真っ平だ とは言えなかった。きっと言ったとしても分かってもらえない ような気がした。僕は 「ごめんなさい。」 と、もう一度謝ると、無言で車を降りた。 「待て!」 と叫ぶ父さんの声は聞こえないふりをした。そして、僕は 一人で、あてもなく歩き出した。 (続く)