網迫の電子テキスト新着情報

2005/05/02(月)16:01

桐生悠々「林陸相の辞職」

リンクのない新着テキスト(1233)

 責任の観念を再検討して、永田軍務局長が、部下の現役軍人によって暗殺されたにもかかわらず、直に辞職せず、その善後策を講じつつあった林(銑十郎)陸相は、その後師団長会議、司令官会議を続開してその心境を披瀝すると共に、粛軍の意を訓示し、今後互に相誡めて、再びかかる不祥事のなからしめんことを力説し、ここに「名義上」その善後策を講じ得たとして終に辞職した。尤も彼はその後任者として、無色透明なる、いずれの閥、いずれの派にも属せずして、粛軍の責任を完うし得べきものを奏薦したけれども、それは唯「名義上」その善後策を講じただけであって「実際」にこれを完了したものにあらず、更に進んで、その禍根を絶ち能わなかったのは、如何にも残念であった。と同時に、軍部内に於ける最高幹部間の対立関係が如何にも複雑であり、デリケートであることが推察され、林陸相の手腕を以てしては、到底最終のメスを揮い能わなかったことも、またこれによって暗示されたのであった。      (昭和十年九月)

続きを読む

総合記事ランキング

もっと見る