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カテゴリ:明治世相百話(リンクのない新着テキスト)
「東京にて有人様」
採菊翁へ宛てた珍郵便 幕末以来魯丈とともに中本作家と知られた山々亭有人の条野採菊翁、明治初期の小説家であり、『やまと新聞』社長であって、かつ劇通の大先達、そうとう羽振りを利かしたものだ。それが今では鏑木清方画伯の厳父と一々断らねば通ぜぬほど時代は遷《うつ》る。 背のあまり高くない丸顔の肥った老人、洗煉された江戸式の大通五世川柳の門下で柳風はお手のもの、三題噺流行のころ粋狂連の頭取で、当時の評判記にも大上上吉の位付、常に魯文、黙阿弥、芳幾等と一つ穴で、彼の黙阿弥の傑作「魚屋の茶碗」に織り込まれた身投げの件は、文久三年正月、粋狂連の頭目高野氏に伴われ、魯丈、芳幾とともに両国の青柳から船での帰るさ、両国の橋下で出逢った実話を、翁が黙阿弥に語ったのだとは有名の話。 川柳に「低くいひ高く笑ふは面白き」とある、翁の話振りがその通り、低声で何か言っては、あっはっは、と大きく笑う。小説など口の中でぶつぶつ言いながら丈句を練る。丈章は至って速いが字は筆の先で小さく書く、ちょっと読みにくかった。五代目菊五郎が贔屓《ひいき》で大の仲よし、そのほか劇壇や芸界で翁の息のかかった連中は尠なくない。円朝や九女八などは就中その筆頭で、常に翁を相談相手。 明治の初年駅逓局ができて、初めての郵便制度に珍談のいろいろ、中にある時、「東京にて有人様」という宛名の郵便が翁の許へ届いた。翁は内心わが高名を誇っていたが、後で聞くと局員が持て余した末のお笑い草に、件の一通を長官の前島密氏に見せた。もとより昵懇《じつこん》の長官、これは我輩の知人条野だ、と翁の住所氏名を告げたので無事配達された次第、と判ってみれば別段高名の故でもなんでもないので大笑いさ、と有人様の直話。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年10月08日 01時20分15秒
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