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2005年11月11日
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「常に奉公人は主君より鞣を拶合せて残すべからず。残すは箏り。されど、つかひすごして借銭《しやくせん》するは愚人《ぐじん》なり」
 三成《みつなり》は居間の前の広庭へ、島左近勝猛《しまさこんかつたけ》と、蒲生郷舎《がもうさといえ》とを連れて出ていた。
 庭には薄ぐらいまでに、亭々《ていてい》と聳《そび》えた赤松が繁茂《はんも》していて、その下に潅木《かんぼく》と、雑草とがはびこっていた。それは、この城の築かれない前の山の姿と同じで――というよりも、山地《やまじ》そのままを庭にしたもので、もし、山地以外に手入れした物と云えば、粗末な手洗石《てあらいいし》と履脱石《くつぬぎいし》とだけであった。
 その二つの石も、この山の石を、そのまま据えたものであって、履脱石には何の手も入れず、手洗鉢の石の凹みは、自然の凹みを一寸《ちよつと》深くしただけであった。
 油蝉《あぶらぜみ》がうんと止まっているらしく、鳴声が雨のように降っていたが、その松の木の問からは、遠くに琵琶湖が  この城の裾をひたしている入江のような、池のような琵琶湖つづきの入りこみには、百間橋が架っていて、その上を行交《ゆきか》っている人が眺められた。
 百間橋の橋詰からは、すぐ登りになって、松林つづきの中に、米藏、馬屋、侍屋敷などが、梢の中に、屋根をちらちらさせていた。
   「大手のかかりを眺むれば、金の御門に八重の堀、まずは見事なかかりかよ」
   「御門入りて眺むれば、八ツ棟《むね》造りに七|見角《みかど》、まずは見事なかかりかよ」
と、当時佐和城の見物踊に唄われたように、城は要害に、造りは見事であったが、室へ入ると、壁は荒壁か、板張り、庭の造作は一切なく、二十三万石の大名の邸とは、外から眺めなければ、その価値が判らなかった。
 然《しか》し、三成は、四万石しか取っていなかった時に、島左近を一万五千石で抱える金使法を知っていた。尤《もつと》も、島左近と云えば、陪臣中の屈指で、伊達《だて》政宗の片倉小十郎、上杉景勝の直江兼継、黒田長政の後藤又兵衛、徳川家康の四天王、宇喜多秀家の花房助兵衛と併称《へいしよう》されて、筒井順慶の家来としては出来すぎと云われていた男である。
 だが、左近が浪人した時に、抱えたいと云った諸大名が、左近への価は高々五千石であった。それを三成は四万石の身で、一万五千石を割いたのである。  いや、こう説明してはいけない。話はもっと興味がある。
 当時、三成は、他の武将達から、奸者《かんしや》、小人《しようにん》として罵《ののし》られていたが、左近は一万五千石くれるから行ったのではなく、左近自ら、いくらでもいいからと、諸将の召しを拒絶して、三成の許へ申込んだのである。そして、その理由がいい。
「自分の畏敬《いけい》する人物は、太閤と、家康とを除くと二人ある。一人は直江兼継、一人は真田昌幸。所が、この二人が二人とも、貴下《あんた》の事をひどく称めているが、それが又自分の見る所とぴったり一致している。だから、抱えられるならここだと思うが、抱えるか何《ど》うだ」
 というのである。抱えた三成も三成、抱えられた左近も左近である。この話を聞いた時多くの人々は
「治部《じぶ》め、算盤《そろばん》玉は弾けるが、戦が判らんから、左近を馬鹿値で抱えたのだ」
 と、評し、秀吉は、それを聞いて、微笑していた。だが、三成の抱えたのは、左近一人でなかった。蒲生氏郷の股肱の臣、蒲生郷舎の浪人した時に、又一万五千石で、抱えた、そして、これが又、左近と同じように、抱えられに来たのである。人々は又驚いた。そして、今度評したのは
「三成め、くすねた金が多いから、少しは罪亡しによかろう」
 という言葉であった。だが、直江も、真田も、関ケ原には三成の味方であった。左近も、郷舎も、東軍を八度まで撃破して、関ケ原で戦死した。





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最終更新日  2005年11月19日 00時55分25秒
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