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2006年03月17日
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禿頭《とくとう》首相
 衆議院が解散された二十五日の午後《ひるすぎ》、茶話記者は北浜のある理髪床《かみカひどこ》で髪を刈つてゐた。世間には三年|打捨《うつちや》つておいても、髪の毛一本伸ぴないやうな頭もあるが、記者の髪の毛は不思議によく伸ぴるので、始終《しよつちゆう》理髪床《かみゆひどこ》の厄介にならなければならぬ。
 剪刀《はさみ》の刃音が頭の天辺《てつぺん》で小鳥のやうに囀《さへづ》つてゐるのを聞きながら、うとくとしてゐると、突如《だしぬけ》に窓の隙間から号外が一つ投げ込まれた。理髮床《かみゆひどこ》の主人《あるじ》は、一寸剪刀の手を止《や》めて、それに目を落したらしかつたが、
 「とうと解散か、下らん事をしよるな。」
と言つて、またちやきく剪刀を鳴らし出した。
 床屋の主人《あるじ》は政治談《せいぢばなし》の好きな、金が溜つたら郷土《くに》へ帰つて、県会議員になるのを、唯一の希望に生きてゐる男だ。私は訊いてみた。
,「政党は何方《どつち》が好きだね、汝《おまへ》は。政友会か、憲政会か、それとも国民党かな。」
 床屋の主人《あるじ》は揉上《もみあげ》の辺《あたり》で二三度|剃刀《はさみ》を鳴らしてゐた
が、
 「別に好き嫌ひはおまへんな、政党には。でも寺内はんだけは嫌ひだんね。」
ときつぱりと言つた。
 「何故寺内だけがそんなに嫌ひなんだ。」
 「さうかて見なはれ、あの人禿頭やおまへんか、あんな人床屋には無関係だすよつてな。」と主人《あるじ》は雲脂取《ふけとり》でごり/\私の頭を掻きながら「髪の毛があつたところで、あんな恰好の頭てんで刈り甲斐がおまへんわ。」
 ナポレオンは色の白い掌面《てのひら》で女に好かれたといふ事だ。一国の首相にならうとするには、成るべく頭の禿げない方が好《い》い。少くとも床屋の主人《あるじ》には喜ばれる。





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最終更新日  2006年04月19日 11時28分04秒
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