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リンコルンと云へば、亜米利加中の人間の苦労と悲しみとを自分一人で背負《しよ》ひでもしてゐるやうな、気難かしい、悲しさうな顔をしてゐる大統領であつた。 日本でも内村鑑三氏などはリンコルンが大好きで、 「君のお顔はどこかリンコルンに肖《に》てゐる。」と言はれるのが何よりも得意で、精《せい/\》々悲しさうな顔をしようとしてゐるが、内村氏には他人《ひと》の苦労まで背負《しよ》はうといふ親切気が無いので、顔がリンコルンよりも、リンコルンの写真版に肖てゐる。 将軍ウヰルソンが或《ある》時コネクチカツトの議員を仕《し》てゐる自分の義弟|某《それがし》と、リンコルン大統領を訪ねた事があつた。ウヰルソンの義弟といふのは、身《み》の丈《たけ》七尺もあらうといふ背高男《のつぽ》で、道を歩く時にはお天道様《てんとうさま》が頭に支《つか》へるやうに、心持|背《せな》を屈《かど》めてゐた。 リンコルンは応接室に入つて来たが、室《へや》の中央《まんなか》に突立つてゐる背高男《のつぽ》が目につくと、挨拶をする事も忘れて、材木でも見る様に履《くつ》の爪先《つまさき》から頭に掛けて幾度か見上げ見直してゐる。材木は大統領の頭の上で馬の様ににや/\笑つた。 「大統領閣下お初にお目に懸ります。」 「や、お初めて。」とリンコルンは初めて気が注《つ》いたやうに会釈をした。「早速で甚《はなは》だ無躾《ぶしつけ》なやうだが、一寸お訊《たづ》ねしたいと思つて……」 背高男《のつぽ》の議員は不思議さうな顔をして背を屈《かぜ》めた。 「何なりとむ。閣下。」 大統領は口許をにやりとした。 「貴方は随分お背が高いやうだが、何《ど》うです、爪先《つめさき》が冷えるのが感じますかな。」 「へゝ》…-御冗談を。」議員は頭を掻いて恐縮した。 リンコルンの愛矯と無駄口を利いたのは、一生にこれが唯《たつた》一度きりであつた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年04月20日 21時25分31秒
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