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2017.10.28
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  『宮沢賢治殺人事件』吉田司(太田出版)

 以前にも確か本ブログで書いたように記憶しますが、何のことかと言いますと、ある作家についての社会的評価と私の実感との乖離についてであります。

 それはきっと私が不明なだけで、そのお方の文学の価値がわからない愚か者が私であるという事ではありましょうが、そして最近はわたくしも少しずつ、なるほどこんなところがやはり凄いのだなーと、「訂正」したりもしているのですが、ともかく私の中にそんな思いの文学者が3人いらっしゃいます。このお方たちなんですがね。

   樋口一葉・石川啄木・宮沢賢治

 まず一葉という方ですが、彼女の高評価は圧倒的な筆力で描いた小説群という事でしょうが、まーはっきり言いますと、確かにすごい擬古文かなという気は何となくしますが、本当のところは、一葉の擬古文が本当に優れているのかいないのか、もはや私には鑑賞眼がありません。だから凄さが実感として私の中に定着しません。(それに作品数がいくらなんでも少なすぎませんか。)

 次に啄木ですが、確かに啄木の短歌はリリックで親しみやすく、なるほどこれは一つの天才の発現だなと思わないでもないですが、いかんせん啄木本人についていろんなことを知るたびに、人として本当にこれでいいのかという感想が次々に出てきます。

 確かに作者と作品は別物ではありましょうが、作者の実態(人間的な問題がありすぎるんじゃないかというような実態)を知ると、作品の評価が自分の中で下がるのもいかんともしがたいことでありましょう。

 ということで、一葉も啄木も私の中では少し低評価であります。
 で、さて宮沢賢治です。この方についても、一般的な評価がとても高い方であるということは、私も存じ上げていました。しかし本書を読み始めると特に初めのほうに書いてあるのですが、評価が高いなんてレベルではない、と。
 賢治は「聖人」であるという、ほとんど「宮沢賢治教」=宗教化現象が起こっていると書いてあります。
 ……うーむ、私の知らないところでそんなことが起こっていたのかー。

 本書は、多岐にわたって「賢治教」の実態と過ちが「暴露」されています。本当にあれこれ書かれてあるのですが、それを絞り込みますと3つの「賢治教」断罪理由にまとめられると思います。この3点です。

 1・賢治は生涯常識的な金銭感覚を持つことなく、一人の人間
   としての独立した生計を営むことができなかった。
 2・賢治が実際に行った様々な「農学」の試みや実践は、
   継続性・計画性・現実的有効性をことごとく欠いていた。
 3・賢治の持つ「無私性」と「宗教性」は、戦前戦中のナショ
   ナリズムや特攻精神と極めて親近性のあるものであった。

 
 この3点について、本書は様々な伝記的事実を指摘しています。例えば「1」について、

 彼の経済生活が生涯政次郎の財産で賄われていたことは、どんな賢治本にも載っている。月に百五円もの給料を得ていた農学校教諭の時代でさえ、その給料を「東京モダン」の丸善の洋書購入にあてたり、西洋音楽のレコードや裸婦の洋画や一千枚の浮世絵・春画の収集に散財(略)している。また「教養講座」と称して、西洋料亭での「洋食フルコース」を生徒たちにごちそうしてしまう。そんなごちそう接待して、生徒に人気のない教師なんていない。大人気だが、無一文。妹のトシにまで金を借りまくる”生活無能力者”ぶり。

 「2」「3」については、こんな感じ。

 羅須地人協会で彼は一体なにをやっていたか。農学校出の教え子たちを集め、夜な夜な蓄音機レコードのコンサート会などを優雅に開いていた。教え子たちとは、「最低でも小作料三十~四十俵は取る地主クラスの息子たち」である。いわばムラの「学士さま」的存在の篤農集団。それに町の奇矯好きの文化人が加わった<芸術談義>の<文化サロン>、<おしゃべりサロン>があの有名な羅須地人協会の実態だったのである。(略)花巻の村の古老などは、「自分たち貧乏百姓は、戦前、宮沢賢治の名前さえ知らなかった」といって、その賢治の階級性を笑ってみせた。

 『農民芸術概論綱要』の中に埋めこまれた、「隠れ国柱会」の精神、即ちあの「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」(=大日本国成仏スズンバ吾レ成仏セベカラズト念ゼヨ)の侵略精神が清らかな美辞麗句のベールをぬいでヌーッと生臭い鎌首を現し、満蒙アジアの侵略にパクリと喰いつかないでおられたろうかとは、危惧するところだ。賢治は、ギリギリ危うくセーフ! のところにいたのだ。


 ……と、まぁ、こんなことが一杯書いてありまして、わたしとしてはそれなりに啓蒙され興味深かったです。
 ただ上記の3点について、例えば、「1」と「2」は、どちらも多くの文学者にあった人格上の欠点に過ぎないではないかと居直るという手がないでもありません。上述の啄木とか、太宰なんかも同じじゃないか、と居直ってしまうわけですね。

 「3」について、これは取り上げられ方がドイツの作曲家ワーグナーと似ているような気がしました。
 生前のワーグナーの言動は、時代が変わってしまえばヒトラーの言動ととてもよく似ていました。つまりワーグナーも「ギリギリ危うくセーフ」といえそうな人でした。(……「ギリギリ」はちょっと言い過ぎかもしれません。19世紀後半に亡くなった方ですから。)

 ともあれ、どの時代に生まれたかは本人の全くあずかり知らぬながら、その人の人生のみならず死後の評価もガラリと変えてしまうものであります。
 そしてこんな風に考えていきますと、残るのはやはり作家と作品は切り離して考え、そして作品の文学性のみを評価する、という事になるのでしょう。

 たぶんそれが正解にかなり近いとは私も思いつつ、ただ本書を読んだ後では、そんな考え方自体に文学の傲慢性がどこか感じられるようで、これはまた、わたくし自身の大きな課題でもあるような気がします。

 最後に、文芸評論家小谷野敦によりますと、本書が出版された時賢治研究者の間ではかなり話題になったそうですが、その後「賢治教」はどうなったかといいますと、結局本書の登場も焼け石に水であったということのようです。
 ……うーん、このこともまた、いろいろ考えさせられることでありますねぇ。


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Last updated  2017.10.28 13:29:59
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