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analog純文

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2018.01.06
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 『半所有者』河野多恵子(新潮社)

 とりあえず夫婦というカテゴリーで考えるのですが、自分の連れ合いが死ぬというのはどういったものなんでしょうか。
 何をいまさら。そんな経験をした方は世間に五万といらっしゃる、そのうちの誰かに尋ねればいいのだ、というのが取りあえず正解なんだろうなとは思います。

 思うんですけれどね、けれど、尋ねた方が「正解」を言ってくれるかどうかは別の話ですよね。というか、今カッコつきで「正解」と書いたように、そもそも「正解」なんてないと考えた方がいい、と。
 だから、ループになって最初の問に戻るのであります。

 話が飛ぶのですが、先日吉本隆明のエッセイを読んでいたら、文学作品に触れながらこんなことが書かれてありました。

 人には、口には出さないけど、心の奥底では考えているってことがあるわけで、高度な作品になると、そこに踏みこんでいるんですね。本当にかすかな、人にいったらおおげさになっちゃうような、心の中にとどめていることをあつかっている作品は、読者にとっても「あの時のあの作品」と、いつまでも長く尾を引くような忘れがたい作品になる。
 そういう作品っていうのは、派手さもないし、見栄えも何もないんだけど、どういったらいいのかなあ。だんだんと降り積もってくるものがあるんです。

 下記に述べますが、冒頭の河野多恵子の小説は、極めて短く愛想がなく、あっけなく読める作品です。
 しかし読み終えた後のぽつんと一人放り出されたような感覚は、その後吉本隆明が指摘するような「だんだんと降り積もってくるもの」のように感じられてきます。

 例えば三島由紀夫の『憂国』が、若い夫婦が自殺(夫は切腹)するだけの話であったように、実はこの小説は、四十九歳の妻が病気で死んだ後、五十五歳の夫が、通夜でひとりになった時を見計らって妻の遺体を「屍姦」するというだけの話です。

 そもそもこの本を見つけたのは、ぶらりと図書館に行った時でした。
 少しヘンな本です。どう「ヘン」かというと、袋とじになっています。むかーし、学生時代に私は友達と同人誌を作っていましたが、手作りで、あれは何というのでしょうか、「青焼き」と呼んでいましたが、図面なんかでよく見る湿質コピーで複写して、そして袋とじで作っていましたが、それを思い出しました。(本書はもちろん「青焼き」ではありません。)

 次に、やたらと字が大きいです。だから1ページの行数も少なく、その結果、文字数も少ないです。44ページありましたが、例えば文庫本なんかにしたらたぶん10ページとちょっとではないでしょうか。

 その小説一つだけの本です。無理やり一冊の本にしたなとも感じる一方、好意的に考えると、筆者の本作へのかなり強い思い入れが感じられます。

 そんな本でした。
 作者の河野多恵子については、私は今までさほどたくさんの本を読んでいるわけではありませんが、何冊か読んだ本を通して、とても優れた小説家だなあと思っていました。
 で、借りて読んでみました。

 30分ほどで読めました。上記に触れたような「屍姦」の話でした。
 そもそも河野多恵子ならこれくらいの異常性欲を扱った話は書くかもしれないとは思っていましたが、本当にそれだけの話しが、トーンを抑えた物静かな筆致で書かれています。(この物静かさは、進むにつれて徐々に壊されていきますが……。)

 オリジナリティが高いと言えば、かなりそうだと思います。その事も、河野小説全体の大きな特徴でありますが、本当にそれだけの話しなので、読後少し呆気にとられました。

 私は、どこをとっかかりにして理解していったらいいのか少し戸惑い、何気なく表紙裏を見ますと、図書館の本に時々私も見ますが、本書の「オビ」が二つに切って貼ってありました。そこに、こんな言葉がありました。

 「妻の遺体は誰のものか――究極の〈愛の行為〉を描く、戦慄の傑作短編。」
 「すべては妻の企みだったのだろうか? この行為を共有するための……」

 一文目はすぐに分かりましたが、二文目は、一瞬、おや、そんな読みをするのかと少し驚きました。
 で、短いことでもあるし、指に刺さった棘のように気にもなったので、再読してみました。すると、上記の「オビ」の二つ目の文に呼応している個所が見つかりました。原文にはこう書いてあります。

 ​(略)どれほど一心に待とうが、声なき声を聞かせてくれなかったのも、ひと頃の病院で時たま二言三言、洩らした弱い籠るような声が思いだせないのも、元気であった日々の話し方や声の記憶を喪失させたのも、この行為の共有へ拐すための企みだったのかと思えてくる。​

 少し補足しますと、夫は行為をしながら、妻について、こうして欲しかったために入院中に彼女は様々な暗示を自分にしていたのじゃないかと考えているわけですね。

 ……うーん、何といいますか、この辺になりますと、実に微妙な展開であります。
 全く、なんとも、なかなか、コメントのしづらい表現と描写です。
 冒頭に触れた吉本の「人には、口には出さないけど、心の奥底では考えているってことがあるわけで、高度な作品になると、そこに踏みこんでいる」という表現の意味が、如実に感じられるような、……うーん、やはり名作、でしょうね。

 参考までに、本作は発表後川端康成文学賞を受賞しました。
 川端賞とは、その年に書かれた最も優れた短編小説に与えられる賞であります。


 よろしければ、こちらでお休み下さい。↓ 





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Last updated  2018.01.06 06:30:07
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