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カテゴリ:ジャズと人生と仏法を語る(全15回・完)
「♪魂の人間讃歌 ジャズと人生と仏法を語る」
第14回 地球と人間の律動(上) 万人の善性を引き出せ! 解き放て! 南アフリカの英知の言葉 「忍耐の人に不幸はない」 ジャズの魂の故郷、人類の命の故郷・アフリカ ショーター氏 音楽は生きる喜びを讃える“言葉” ハンコック氏 音楽は1000年の歴史を伝える“記憶” 池田: アフリカは、ジャズの魂の故郷であり、人類の命の故郷です。 私は長年、「21世紀はアフリカの世紀」と主張し、交流を深めてきました。人類の発祥の天地が栄えずして、21世紀の繁栄はありません。 アフリカは、いずこの大陸にもまして、苦難を余儀なくされてきました。 一番苦労した人が、一番幸福にならねばならない──これが仏法の精神です。 そしてまた、だからこそ、私は、大震災などの災害を乗り越え、復興に汗を流しておられる皆様方の幸福勝利を真剣に祈っています。 「忍耐の人に不幸はない」──これは、南アフリカのマンデラ元大統領の故郷の格言です。この不屈の信念を、元大統領と語り合ったことも、忘れ得ぬ歴史です。 ハンコック: マンデラ氏は、正義と人間主義の賢者として、驚くべき模範の存在です。(アパルトヘイト=人種隔離政策の)圧政に苦しんだにもかかわらず、自分の心の中に復讐心が入り込むことを決して許しませんでした。氏は、27年半の投獄という、実に最悪の状況下で、さらに進歩した人間へと成長しました。 その出獄の勝利の年(1990年)に、マンデラ氏は日本を訪問し、池田先生とお会いされたのですね。 池田: その通りです。この正義の大英雄を、多くの青年たちと熱烈に歓迎させていただきました。 獄中で学び続けておられたマンデラ氏は、雑誌に載った私の言葉にも目を止めてくださったようです。 この年、マンデラ氏は72歳。 今のショーターさんや、ハンコックさんと同じ年代でした。 私は、釈尊が「一切衆生の平等」と「永遠の生命」を明かした「法華経」を説き始めたのが72歳とされることを紹介し、「いよいよ、これからですね」と申し上げました。 大統領として再び来日された氏と、嬉しい再会を果たしたのは、5年後のことです。 ショーター: 私たちも、「いよいよ、これから」という不屈の闘志で戦います。 クリントン大統領の第2期の時、私はホワイトハウスでマンデラ氏を初めて見ました。 氏は、決して変節しない人物でした。氏について思う時、いつも平和の特使・実践者として、マハトマ・ガンジー、マーチン・ルーサー・キング、そして池田先生のことが頭に浮かびます。 マンデラ氏は若いころ、ボクシングをしていました。氏にとってボクシングは、互いにしのぎを削りながらも、その中で両者が対等の人間として学び合い、相対することであったといいます。氏は、実際の人生にあっても、まるで防具を身につけているかのように、確信をもって相手に立ち向かったのです。 池田: マンデラ氏との語らいは尽きず、一緒に歩きながら、「迫害を乗り切り、戦い勝ってこそ、偉大な人生です」とも語り合いました。 あの「マンデラ・スマイル」は、「こんなに素晴らしい笑顔をもつ人を大統領にした国民は幸福だ」と世界から讃えられましたね。 ハンコック: マンデラ氏が南アフリカ共和国の大統領になった時、その視座は、皆の期待も不安も超えて、はるかに壮大でした。南アフリカの中の黒人だけでなく、全国民の大統領であることを自覚していたのです。 氏は、それまでのアパルトヘイト政府に従事した白人職員を排除するのではなく、移行策への力添えとして、彼らの多くをそのまま採用しました。全く予想外のことでした。氏は、そのようなビジョンをもって、いかにすれば国を堅持して崩壊を防ぐことができるかを考えながら決断を下していったのです。それは見事に成功しました。 池田: マンデラ氏の大きさ、深さが、人種を超え、一人一人に脈打つ人間の善性を引き出し、開花させ、解き放っていったのです。偉大な人間教育者でもありました。 最初の会見の折、私も、教員や留学生の相互交流、南アフリカの大学への図書贈呈、南アフリカの芸術家を招いての民音公演、アパルトヘイトの惨状を訴える写真展や人権展の開催を提案しました。一つ一つを、全力を挙げて実行してきました。 信義の交流は、今も変わりません。 ハンコック: 当時、ここまでの約束をし、それを果たした人がいるでしょうか。マンデラ氏にとっても、どれほど支えとなったか知れません。 氏が命を賭して、まさに池田先生と語り合われた通りの道を進み抜いたからこそ、南アフリカは、非常に困難な移行期を勝ち越えることができたのでしょう。南アフリカは、昨年のサッカーのワールドカップでも大成功を収め、力強く発展を続けています。 池田: ともあれ、アフリカには大いなる魅力が満ち溢れています。 先日のSGI(創価学会インタナショナル)の青年研修の折にも、アフリカの青年たちが披露してくれた、大地から湧き出でるような群舞に、世界の友が感嘆しました。 民音では、アフリカの10を超える国の伝統音楽・芸術を日本に招聘してきました。毎回、会場では一緒に踊り出す人がいるほど、アフリカの音楽には“生命の根底”を突き動かすリズムがあります。こうした交流から、互いの文化の宝を発見できます。学び合うことは進歩と向上の力になります。 ショーター: 私も、アフリカ大陸は、数100万年前の人類の発祥以来、存在してきた文化の営みへの自覚を常に持ちながら、発展していくであろうと期待しています。このような文化の営みは、彼らの食事、飲み物や考え方と関係します。また、遊んでいるように見える音楽であったとしても、実は文化的な儀式だったりします。 そもそも音楽の役割とは、「生命」というもの、つまり「生きていることの不思議さ」を感じた時の高揚感や、喜びを祝うためにあるものだと思います。その喜びや驚きは、簡単に言葉で表すことはできない。だからこそ、音を使って喜びを表し、祝うのではないでしょうか。私は、その原点をアフリカの音楽に感じるのです。 ハンコック: 音楽は、アフリカ人の生活の様々な面に溶け込んでいます。それが農耕であれ、労働や宗教にかかわることであれ、彼らの生活のさまざまな側面から音楽を切り離すことは不可能です。彼らの日常生活に深く溶け込んでいるからです。 池田: 文字ではなくして、言葉、声という音の響きによって表現される口承文学も、アフリカの文化全体に通じる大きな特徴ですね。 「声仏事を為す」(御書708ページ)、「声を聞いて心を知る」(同469ページ)等々、日蓮仏法においても「声」の重要性に繰り返し言及されています。ケニアの作家協会会長であるヘンリー・インダンガシ博士とも、アフリカの悠久の大地に、大河のごとく流れ通ってきた口承文学の伝統を語り合いました。 ハンコック: 西アフリカ地域では、各民族の歴史は、伝統的に「グリオ」と呼ばれる語り部・吟遊詩人によって伝承されます。それは口承の歴史です。そこでは今もグリオの家系の家族があり、物語が世代から世代へと伝えられます。そうです! それはいまだに存在するのです。 この口承の歴史は、音楽を通して伝承されます。グリオたちは、楽器を奏でて、音楽を使って、歴史の伝承のみならず、それを記憶するための手助けをするのです。ここで述べている歴史というのは、1000年にわたるような壮大な歴史の物語です。 池田: そうですね。アフリカのある地域では、言葉の代わりに楽器を使って遠距離などでの会話を行う“楽器ことば”があるとも聞きました。 音楽にのせて、遠い過去から現在へ、そして遥かな未来へ、物語が伝えられ、歴史が継承され、精神が継承されていく──。世代から世代へ、魂の声の響きによって、心が結ばれ、文化が共有されています。この事実は、現代社会が失いつつある心の絆を、どう取り戻すかを、私たちに示唆してくれます。 創価学会が、座談会という対話の広場を大切にし、歌声を大切にしてきたことも、アフリカの心と深く共鳴しています。 ハンコック: 私もそう思います。そもそも歌うことは、大陸の中の全てのアフリカ人の生活にとって大事な部分です。そのことを、私は現地で知りました。 池田: 歌は「うったう(訴う)」ことです。天に向かえば祈りとなり、人に向かえば心を伝えます。歌は生命を解放し、強め、清める力がある。古代エジプトでは、音楽は「魂の薬」とも呼ばれたという。アフリカの伝統歌謡には、そうした素朴な祈りと心が深く込められていると、私は感じとってきました。 私自身、多くの学会歌を同志の励ましになればとの思いで作ってきました。「紅の歌」を、四国の青年たちと一緒に作ってから、30年になります。青年が徹夜して持ってきてくれた歌詞の原案から出発し、何度も何度も推敲しては口ずさみました。青年と一緒に納得できるまで、徹底して取り組み、完成させた歌です。 今、世代を超え、国を超えて、歌い継がれており、嬉しい限りです。 ハンコック: 「紅の歌」は、私も、ウェインも大好きです。 アフリカ音楽の大部分は、まさに即興です。それはリズム音楽だけではありません。メロディーを奏でる楽器もあります。西洋人は、アフリカ音楽はハーモニックではなく、ほとんどがリズミックだと考える傾向がありますが、アフリカには、色々なホーン(管楽器)があります。声楽の種類も沢山あります。 ショーター: 私は中近東やブラジル、東洋の音楽だけでなく、アフリカの宗教儀式の音楽の要素を取り入れてきました。なぜなら、人間としての素朴さ、人間としての自然さの重要性を現代に訴えたかったからです。 現在、多彩な楽器を持つ、完璧な陣容のオーケストラと共同作業しながら、その音楽的色彩の全てを使って、「新たな日」について語る音楽作品を作曲しています。 池田: 「生命の讃歌」「創造の喜び」が、アフリカ音楽の根底に流れているとも言えますね。音楽や文化を通して、人間本来の感動を共有し、共に生き生きと人生を蘇生させていく意義はあまりにも大きい。 アフリカの人々は、苦労に苦労を重ねてこられた。筆舌に尽くせぬ苦しみを乗り越えて、たくましく生き抜いてこられました。私は、歴史学者のトインビー博士とも、アフリカが人類の未来に果たす役割は計り知れないと語り合ってきました。 21世紀──それは、世界がアフリカの心に学ぶ時であり、アフリカの力によって世界が新しく変わる時だと信じています。 (2011年10月28日付 聖教新聞)
最終更新日
2011.10.30 14:14:05
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