|
カテゴリ:ジャズと人生と仏法を語る(全15回・完)
「♪魂の人間讃歌 ジャズと人生と仏法を語る」 第14回 地球と人間の律動(下) 「生命」こそ人類共通の大地 ショーター氏 異文化への尊敬は創造の目覚め ハンコック氏 異文化との協調は人を結ぶ磁力 ショーター: 池田先生、アフリカの名門ザンビア大学からの名誉法学博士号のご受章(2011年9月25日)、誠におめでとうございます! 国境を超えた「平和」と「人権」への貢献に対する、最大の尊敬と感謝が込められています。 ハンコック: 本当に嬉しいことです。アフリカの大学ということで、私たちにとっては、二重のお祝いの気持ちになります。 ザンビア大学の初代総長は、アフリ力の賢人として名高いケネス・カウンダ元大統領です。元大統領からも、真心あふれるメッセージが寄せられていましたね。 池田: 恐縮です。これも、ザンビアの同志がよき国民、よき市民として社会に貢献されているからです。 とくに、ザンビア大学の教壇に立ち、ザンビアSGIの理事長であられた、亡きダーリントン・カラブラさんのことが偲(しの)ばれます。 奥様のハツコさん、また後継の青年たちが、その尊き志を、立派に受け継いで、活躍してくれています。 ザンビアをはじめ、40カ国に広がったアフリカSGIの同志と共に、私は今回の栄誉を拝受させていただきました。 ザンビア大学のご一行を、わが高等部の正義合唱団は、ザンビアの「ティエンデ・パモジ(さあ! 心を一つに団結しよう!)」という歌を美事に歌い上げて、歓迎してくれました。それはそれは喜んでいただきました。 その国の文化を、深い尊敬の心で学び、生き生きと弾む命で共鳴を奏でゆく──。これは、未来へ広がる希望の音律です。 ハンコック: ここにも、池田先生が創ってくださった、すばらしい文化交流の潮流がありますね。 一口にアフリカといっても、言語だけでも一説には800種類以上あると言われます。北アフリカ、南アフリカ、西アフリカ、中央アフリカなど、それぞれの地域によって大きく異なります。 この多様性が大きな特徴であり、豊かな文化の源泉となっています。 池田: そもそも約3千万平方キロというアフリカ大陸の総面積は、アメリカ合衆国の3倍の広さになりますね。 そこには、万年雪が輝くキリマンジャロのような山岳地帯もあれば、砂漠、熱帯雨林やサバンナ、多種多様な気候地帯が広がり、ヨハネスブルクやナイロビなどの大都市には高層ビルが林立しています。 さらに民族間の交流、またキリスト教やイスラムの文化の影響も相俟って、多彩な文化や音楽が生み出されているのですね。 ショーター: アフリカは、ともかく多種多様です。 私が忘れられないのは、そのアフリカの26カ国の駐日大使館の総意で1991年、池田先生に「教育・文化・人道貢献賞」が贈られたことです。また昨年(2010年)も「在東京外交団」の総意で「アフリカ友好記念牌」が贈られました。 特に1991年の顕彰は、あの邪宗門による学会への「破門通告書」が一方的に送りつけられた翌日だったのに、先生はいつもの通り変わらず、世界のSGIの同志にも大いなる勇気を贈ってくださいました。 「池田先生はアフリカの心を、アフリカ人以上に知っている」と語った識者もいます。先生の平和思想と行動がどれほど卓越していたかを物語っていると思います。 ハンコック: その通りですね。 アフリカ大陸は、人類発祥の地であると共に、人類共通の大地であると思います。 私は、ケニアに初めて行った時のことを覚えています。サファリ・ツアーは最も感動的な体験でした。ナイロビから自然保護公園に向かって、1時間ぐらい行ったところで最初に見たのは、キリンの家族が道を渡っている姿でした。 キリンは、何度も動物園で見たことがあります。それなのに、私は、自分が涙していることに気がつきました。 「なぜ、私は泣いているのだろう?」 「なぜ、こんなに心が揺さぶられたのだろう?」──キリンが自然の草地で「生」を営んでいる姿を見て、私は、初めて、実際にケニアの地を訪れたという実感を得ることができたのです。 その後、ケニアでの自分の反応は、ただ単に私のアフリカの祖先の地を訪ねているという感覚より以上に、もっと深くて根源的なものとの一体感であったと感じました。このことを、ある日本人の友人に話すと、彼も同じ体験をしたと言うのです。 それで私は、ケニアに行って、それほどにも感動するのは、「人間としてのルーツ(根)」ゆえだと感じました。 ショーター そうです。アフリカには、人間に人間としての自覚を促し続ける「栄養素」を運ぶ文化のルーツがあります。 池田: 以前、アフリカのSGIリーダーに、「なぜアフリカ音楽が国境を超えて、世界の人々の心を打つと思いますか」と尋(たづ)ねたことがあります。 「アフリカが人類のルーツだからだと思います」と誇り高く答えてくれたことを思い起こします。 根(ルーツ)が深いほど、枝は大きく茂ります。アフリカが湛える奥深い人間文化の根っこは、世界の宝です。 ともあれ、人間には「生命」という共通の大地があります。その生命の大地から、人類は、まだまだ尽きることのない創造のエネルギー、発展の智慧を湧き上がらせていくことができます。 法華経に説かれる「地涌の菩薩」とは、濁世の真っ只中で民衆の幸福のために、無限にして永遠なる大生命力を発揮して戦う勇者です。 日蓮大聖人は、「上行菩薩の大地よりいで給いしには・をど(踊)りてこそい(出)で給いしか」(御書1300ページ)と仰せになられました。 わがアフリカにも、この地涌の生命を旭日のように輝かせて、青年たちが澎湃と踊り出ています。 ハンコック: アフリカは我々を暗闇から救い出す潜在能力をもっています。アフリカは私たちに多くの面で影響を与えてきました。 例えばピカソの絵画を取り上げても、彼は明らかにアフリカ芸術から影響を受けました。しかし、ピカソにひらめきを与えたアフリカ人たちが、その功績を認められることは、ほとんどありませんでした。 同様に、西洋が発見し、創造したとされる多くの発想の中にも、アフリカからの影響を受けているものが数多くあります。その場合、発想をした人々は「生徒」であり、その「教師」はアフリカから来たと言えるのではないでしょうか? 私は今後、さらに「アフリカ大陸発」のものが数多く存在することが分かり、それらが未来をより建設的に形成していくであろうと確信しています。 池田: 「教師」と「生徒」というのは、的を射て分かりやすい例えです。 私たちが交流を深めてきた、アルゼンチン・タンゴの巨匠マリアーノ・モーレス氏も、「タンゴの呼称はアフリカの打楽器を伴う踊りのリズムに由来しています」と語られていました。驚きました。そうした淵源の探求は、文化に一層の深みと新たな活力をもたらすことでしょう。 翻(ひるがえ)って、日本も、中国や韓国の文化に大恩があります。 日蓮大聖人は、「日本国は彼の二国の弟子なり」(同1272ページ)という表現もされています。ですから、「そうした国々の大恩を絶対に忘れてはならない。その恩義に報いていくことが人間の正しき道である。そこから未来へ共に勝ち栄えていく力が生まれる」と、私は青年たちに折あるごとに訴えてきました。 ショーター: 自分たちの文化が発達する時には、他の文化からの恩恵を必ず受けています。その恩を知ること、その「感謝の心」は、私たちの智慧を成長させる“薪”です。 何かを成し遂げた時に、何にも感謝せず、先人をさしおいて、まるで、すべて自分でやったかのように振る舞うことは恥ずべきことだと思います。 池田: その通りです。私たちは一人では存在しません。国もそうです。多くの国々と支え合いながら存続している。人種・民族や文化の差異を恐れたり、拒否したりするのではなく、尊重し、理解し、自他共の成長の糧とすることです。 同時に、私たちは過去と切り離して存在できません。必ず先人たちの営為や文化の恩恵に浴しています。 生命の連関性をそのように認識する智慧こそ現代に求められるものです。 仏法の「縁起の思想」は、その智慧に目覚めていくことを促しています。 ハンコック: よく分かります。かつて音楽監督を務めた「東京JAZZ」や、このたびの「イマジン・プロジェクト」のアルバム作りで体験したことですが、自分とは異なる文化をもった、さまざまな文化的背景の人々と一緒に仕事ができることは、私たちにとって、胸躍るようなことでした。 このような取り組みへと私たちを動かした最大の理由は、そうしたグローバル・コラボレーション(地球規模の共同制作)が、私たちの好奇心を超えて、人間の魂を引きつける強力な磁力のような魅力を持っていたことにあったと思います。 私は、どこで演奏しても、人々に語ります。「私は、自分たちの文化を開いて、他の文化を取り入れ、尊敬することによって、どんなことが達成できるか示したいのです。自分たちだけの文化のみでは達成できない、もっとたくさんのことが、どれだけ達成できるかを示したいのです」と。それは一緒に作業することによってのみ可能です。新しい発想であり、新しい物事の見方です。 ショーター 私はジャズとは創造性に「目覚める」ことだと思っています。 以前、私か知り合った何人かのクラシック音楽の演奏家が、私たちのステージを見て、コラボレーションを申し出てきたことがありました。 さらには、私たちのコンサート終了時に、一人のクラシック音楽のピアニストが私たちの楽屋を訪ねてきて、私の楽団の仲間の一人に語りかけてきたこともありました。 「いやあ、君らの演奏は実に新鮮だね! 私には、本物の人間性から発せられる音楽と、現代的で巧みであるが、事前に準備された音楽との違いが分かるんだ」と。 これに対して彼は答えました。「僕らが望むのは、よくデザインされた巧みな音楽ではなく、人間味のある音楽、生命を目覚めさせる音楽です」と。 池田: 新しい創造への勇気、若々しい生命の冒険──それは、国境を超えて人々に愛される、ジャズの魅力ではないでしょうか。(下−2につづく) (2011年10月29日付 聖教新聞)
最終更新日
2011.10.30 14:20:15
コメント(0) | コメントを書く
[ジャズと人生と仏法を語る(全15回・完)] カテゴリの最新記事
|