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カテゴリ:ジャズと人生と仏法を語る(全15回・完)
「♪魂の人間讃歌 ジャズと人生と仏法を語る」
最終回 勇気の調べを青年と共に〈下−1〉 音楽は希望! 全人類を救う 誰もが「美の価値」の創造者 挑戦を続ける二人のモットー ショーター氏:常にこれから! ネバー・ギブアップ─決しあきらめない─ ハンコック氏:恐れなく! 確信と決意の人生を 池田SGI会長: ショーターさん、ハンコックさん、お二人のジャズの創造の旅路は、半世紀を超えます。 この50年を振り返って、ジャズの世界で一番大きな変化は何でしょうか? また、これから五十年後のジャズの未来の姿をどう想像されますか? これは、私たちの盟友である日本の芸術部の友から寄せられた質問です。 ウェイン・ショーター: 何よりも大きく変わったのは、ジャズの「音」ではないかと思います。つまり、ジャズの定義および表現方法です。1920年代に始まり、30年代、40年代、50年代、60年代と、それぞれの時代に、伝統的なジャズと結びついた独自の顕著な要素と表現方法がありました。言い換えれば、「人間の心」を奏でる「音」として、ジャズはこう奏でられるべきだという、ある形式のようなものがありました。しかし、今のジャズには、そのような意味での束縛はありません。 ただ、今でも、ほとんどのグループが、ややもすれば、「ジャズとは、こう演奏すべきもの」また「ジャズは、伝統的に、こんな特徴を備えた音楽である」と考える傾向があります。そして、そのような固定的な考え方だけで音楽が規定されてしまう場合があります。 これからの50年間、音楽界には、大いなる創造の作業が必要とされます。人間社会未踏の道を切り拓く創造的な啓発の波が次から次へと生み出され、それらがのあらゆる分野に浸透していかなければならないと思います。 ハービー・ハンコック: これは大変に難しい質問ですね(笑い)。というのは、私自身がその渦中にいるからです。 仏法では「自行化他」と説きますが、私たちは自分のために実践するとともに、他者のためにも実践すべきです。わが人生をその価値ある日々の積み重ねとして見るならば、ジャズも、全ての側面において、「自分のためと同時に他者のための実践」であり、そういう観点から見ていくように心がけています。その意味において、「即興性」や「対話性」といったジャズの特性は、熟視すべき重要な資質であると思うのです。 私は、これらのジャズの特性は、豊かな人生を生きるために必要なものであると考えており、それらが最大限に生かされることを望みます。単に音楽演奏のみならず、日常生活の中でも生かすことができるものであることを知つてほしいのです。 池田: 自分のためと同時に、他者のために実践する──ともすれば利己主義に流されがちな現代において、芸術も、学問も、宗教も、目指すべき本来の方向性が、ここに示されています。 歴史家のトインビー博士が、私との対談で、核兵器や環境破壊など人類の生存を脅かす諸悪の原因は、人間の貪欲性と侵略性にあり、それは自己中心性から発すると指摘されていたことが思い起こされます。 そして、その自己中心性とは「一人一人の心の中の革命的な変革によってのみ、取り除くことができる」と喝破されました。さらに、そのために果たす「宗教の啓発の力」に注目され、私たちの「人間革命」の思想に大いなる期待を寄せてくださったのです。 音楽と宗教は、人間の魂を啓発するという目的を、深い次元で共有しているといってよいでしょう。 人々を鼓舞し、励まし、勇気を生む音楽の律動は、一人のうちにとどまることはありません。一人の魂を揺さぶる音楽は、予想もできぬ速さで一気に広がり、多くの人々の心を普く潤していくものです。この音楽のみずみずしい波動性こそ、社会を若々しく蘇生させゆく源泉ではないでしょうか。 ショーター: そう思います。 よく他のミュージシャンたちが、私たちのところへ来て、「なんで、君とハービーは、そんなに若々しいのかい?」と聞きます。若い世代の人からは「あなた方は年齢からして、もっと“お年寄り”だとと思っていました!」と驚かれます(笑い)。 「9・11」の米同時多発テロの後、このような声がさらに寄せられるようになりました。これも、信仰を持った私たちが、音楽だけでなく、普段の生活においても、人に希望を贈りたいと挑戦しているからだと思います。 池田: お二人がいつまでも青年の輝きを放つのは、未来を見つめ、若い世代の育成に汗を流しているからでしょう。 御書には「年は・わか(若)うなり福はかさなり候べし」(1135ページ)と仰せです。妙法という音律を唱え弘めゆく人生が、その通りの軌跡となることは、それこそ世界の多宝の友が示されている通りです。 喜劇王チャップリンが、「あなたの最高傑作は?」と聞かれて、「ネクスト・ワン(次の作品さ)」と応じたことは有名です。お二人のこれからの「夢」は、何でしょうか? これは、未来部の友からの質問です。 ハンコック: 私も、いつも「最高傑作は、次の楽曲であってほしいと思います」と言います。私かそのような姿勢でいるのは、「前向き」であることが常に最良だと考えるからです。 過去に自分が何をなしたかは分かっています。やったことは既に、私の持ち物なのです。無くなるわけではありません。いわば、ポケットやカバンの中にあるのです。ここに、ずっとあるのです。しかし、次のステップをどうするか。それが最も大事なことです。私たちが踏み出す、次の一歩は何かということです。 ショーター: 偉大な作曲家でバンドリーダーのデューク・エリントンも同じことを語っていましたね。 私が「これから」抱く夢は、人々と会い、人々から聞き、老いも若きも多くの人たちが、創造的作業の交流に参加することの価値に目覚め、その価値をつかむための手助けをすることです。 その創造的作業に必要となるのが、冒険的な探究、冒険心に基づく発見、そして、感謝の心を持って未知の事柄を学ぶことです。それは、冒険心を伴った感謝の心です。これは、とても大きな仕事ですので、私には「これから」なすべきことが実に、たくさんあります。 池田: どんな立場になっても、感謝の心を忘れない人には、生命の張りがあります。その報恩の心から、後輩たちへの献身の行動も生まれます。 法華経の宝塔品の会座には、釈尊と多宝如来のもとへ、十方分身の諸仏が無量無数の国土から、こぞって来集します。 それは一体、何のためか? 「開目抄」には、「未来に法華経を弘めて未来の一切の仏子にあたえんと・おぼしめす御心」(御書236ページ)であると説かれています。焦点は「未来」です。「未来」に生きゆく「青年」たちのためです。 これが法華経の世界です。ゆえに、私たちは命ある限り、青年と共に、青年のために、勇敢に前進あるのみです。 お二人から、日本、そして世界の若き芸術部の友にメッセージをお願いします。 ショーター: 芸術部は、世界の中で人間の尊厳を高める、価値ある活動をしています。その目標は、より深いレベルで人間的な芸術を触発することにあります。 芸術部メンバーの活動は、やがて見事に花開き、多くの人々を感動させる日が来るはずです。その時、皆が感嘆の声をもらすことでしょう。 ハービーと私は、その手助けをしたいと、いつも語り合っています。 ハンコック: そうです。私は絶えず、アメリカの芸術部の友一人一人に、特に自身の人間性の開発のために、より時間を使うように励ましています。 人間としての成長こそが重要です。なぜなら、自己の内面にあるものが、自らの芸術によって語られる物語の源泉となるからです。 その意味では、「あの音」や「この和音」といったことを問題にするよりも、むしろ、自分の芸術分野と異なる社会環境に生きる他の人々と交流していくことが、極めて重要なのです。 最もよい例が、あの「スーパーマン」を演じた名優クリストファー・リーブです。 彼は乗馬中に転落して、首から下が完全に麻痺してしまいました。しかし、その苦難ゆえに、同じく身体の麻痺に苦しむ人々に大きく貢献していくことができたのです。 もちろん、誰も、そんな事故に遭うことは望みません。しかし彼は、事故後、その状況に対応して、新たな舞台で、自身の人生の新たな目標に挑戦し、終に、より大きな人類への貢献を実際に成し遂げました。 私は、もし偉大な芸術家になりたければ、「最大の情熱と熱意を持って強く生きなければならない」と心から思います。 当然、芸術の道具や技術も持たねばなりません。練習や訓練も必要です。しかし音楽家は、音楽それ自体以上に、他の人々と関わり合うことが、特に重要なのです。(つづく) (2011年12月5日付 聖教新聞)
最終更新日
2011.12.12 16:23:18
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