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晴ればれとBlog

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新型コロナウイルス感染症関係

2020/05/20
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〈危機の時代を生きる〉新型コロナウイルスの克服へ
東海大学医学部・山本典生教授に聞く


 新型コロナウイルスの正体を知ることが、私たちの身を守るための第一歩――そう主張するのは、ウイルス学を専門とする東海大学医学部の山本典生教授。現在の研究で分かっていることや、一人一人ができる感染防止法などを電話で聞いた。(聞き手=加藤伸樹)

新型コロナウイルスの感染メカニズム
 ――新型コロナウイルスについて、研究が進む中で分かってきたことを教えてください。
 


 ウイルス感染は、ウイルスが体内の細胞と結合し、自らの遺伝情報(RNAやDNA)を複製させていくことで広がります。新型コロナウイルス(SARS―CoV―2)の感染は、まだ謎が多いものの、人間の細胞膜にある「ACE2」というタンパク質と結合することから始まると判明しています。私自身、これまでSARS(重症急性呼吸器症候群)の研究をしてきましたが、そのきっかけとなるタンパク質と同じです。
 


 ACE2の量は臓器によって違いますが、肺の奥にある細胞で多く発現しています。そこでウイルスが増殖するため、気道の比較的浅いところで増殖するインフルエンザウイルスと比べて、重症肺炎が起きやすいのでしょう。またACE2は、心臓や腎臓などの細胞表面にもあることから、感染が多臓器不全にもつながると考えられています。
 


 
 ――これまでも重症化のリスクが高いといわれてきた心不全、呼吸器疾患などの基礎疾患のある方は、やはり注意が必要ですね。
 


 一般的に、高齢者や基礎疾患のある方は、ウイルスに対する炎症反応が起こりやすいことが分かっていますが、新型コロナウイルスの感染メカニズムから考えても、こうした方々を感染から守らなければなりません。またACE2は血圧を調節する役割を担うタンパク質なので、感染による血圧の乱れが人体に悪影響を及ぼしてしまう高血圧の方も注意が必要です。
 


 ACE2は最近、舌の細胞にも発現しているとの報告がありました。そうしたことが背景で「何を食べても味がしない」という味覚障害につながっている可能性も指摘されています。


既存の薬の転用で人命を守る
 ――世界で今、研究者がウイルスの解明に当たりながらワクチンや新薬を開発しています。実用化の見通しを教えてください。
 


 ワクチンは急ピッチで開発が進んでいます。安全性や有効性を調べるため、通常は実用化までに数年を要しますが、1年半程度で実用化されるものも出てくると思います。ワクチンは体の免疫系に働き掛け、体内でウイルスへの抗体(抵抗力)をつくらせるものですが、今回のウイルスは、その抗体が、かえって症状を悪化させる可能性も指摘されています。開発されたワクチンの安全性などは、慎重に見る必要があります。
 


 また治療薬の研究も精力的に行われています。新薬をゼロから開発するには、一般的に10年以上かかるともいわれますが、10年後に特効薬が開発されても、目の前で起きている感染症の治療には使えません。そこで、別の病気に対して既に開発された薬を、今回の治療に転用するという研究が進められています。現時点で治療薬候補として挙げられている薬剤は、ほとんどがこの枠に入るものです。

ワクチンや治療薬の開発は今、世界中で進む(デンマーク、AFP=時事)
 ――「アビガン」や「レムデシビル」など、有効といわれる薬が次々と出てきていますね。
 


 薬には、さまざまな形でウイルスの動きを制限する働きがあります。「ファビピラビル(アビガン)」と「レムデシビル」は、どちらもウイルスのRNA複製を抑える薬です。アビガンは抗インフルエンザウイルス薬、レムデシビルは抗エボラウイルス薬として開発されましたが、作用メカニズムとしては、これらのウイルスに限定されないと考えられます。そのため、今回のウイルスへの転用が早くから検討されました。
 


 私たちの研究グループでは、エイズの薬として既に実用化されている「ネルフィナビル」が、今回のウイルスの増殖を抑制することを見いだしました。このほか、喘息薬の「シクレソニド(オルベスコ)」、抗寄生虫薬の「クロロキン」や「イベルメクチン」、リウマチの治療薬「トシリズマブ(アクテムラ)」なども有効と期待されています。
 


 現状、どの薬が最もよいかという結論は出ていませんが、例えばアビガンは副作用の面で妊娠中の方には使用できないなど、特定の薬だけでは対応できない方も出てきてしまいます。また将来、そうした薬に耐性を持つウイルスが現れる恐れもあることから、薬の選択肢を増やすことが、多くの人の命を守ることにつながると考えます。


「石けん・アルコールに弱い」「自己増殖できない」
 ――“目に見えない敵”ということもあって、不安を感じている人もいます。
 


 ウイルスは、電子顕微鏡を通さなければ見えない大きさです。まさに目には見えない敵ですが、人類にはウイルスからの「挑戦」に対し、巧みな技術と知恵で「応戦」してきた蓄積があります。その中で、これまで不治の病と恐れられたエイズも、今では効果的な薬が見つかりました。今回も、絶対に希望はあると考えています。
 


 また新型コロナウイルスは、未知の部分が多いものの、分かっていることはあり、全く弱点がないわけではありません。ウイルスの正体を知り、その弱点を踏まえて行動すれば、一人一人も身を守る「応戦」ができると思います。
 
 


 ――ウイルスの挑戦に応戦する中で、人類は希望を見いだしてきたのですね。今回のウイルスの弱点と、私たちにできる応戦の方法を教えてください。
 


 一つは、新型コロナウイルスの膜(エンベロープ)は、石けんやアルコールに弱いことが分かっています。ですので、小まめに石けんを使って手洗いしたり、アルコール消毒したりすることで、感染リスクを減らすことができます。
 


 またウイルスは体内の細胞と結合しない限り、自己増殖できないことも弱点の一つでしょう。それを防ぐためにも、接触感染と飛沫感染への注意が大切です。
 


 接触感染は、ウイルスが付着した手で自分の口や鼻を触ったり、その手で食べ物などを食べたりすることで起こります。飛沫感染は、くしゃみや咳でまかれたウイルスを含む飛沫を、自分の体内に取り込んでしまうことで起こります。
 


 こうしたウイルスの弱点や感染の特徴を踏まえた上で、むやみに自分の顔を触らないよう心掛けたり、密集、密接、密閉という「3密」を避けたりすることが重要です。また、マスクは“ウイルスがマスクの繊維を通過してしまうので効果がない”と言う人もいますが、手に付いたウイルスが口に入ることを防ぐ効果があることから、感染予防にも有効と考えます。

小まめな手洗いは有効な感染症対策(スイス、EPA=時事)
ウイルスからの挑戦に人類の絆で応戦
 ――ウイルスの正体を知ると、どこに気を付けるべきかが明確になります。
 


 人との間隔を空ける、対面ではなく横並びで食事をするなど、政府の専門家会議が提言する「新しい生活様式」も、こうしたウイルスの弱点を踏まえて行動することを意味します。大事なことは、正しい知識をもとに、何が感染につながるのかを一人一人が考えて生活することです。
 


 また感染症には、人と人の接触を避けなければならない面があることから、地域や社会を分断してしまう側面があります。その点、現代は電話やメールなどで周囲の人々と連絡を取り合うことができ、その中で正しい知識を共有したり、不安に思う人々を支えたりすることもできます。そうした励ましの絆も、立派な感染症への「応戦」につながるのではないでしょうか。
 


 今後も、新たなウイルスのパンデミック(世界的流行)が起こらないとも限りません。私は、そうした時代が来たとしても、人類が乗り越えていける「応戦」の土台を今、創価学会の皆さんと手を携え、築いていきたいと思っています。


【プロフィル】
 やまもと・のりお 1969年、千葉県生まれ。医師、医学博士。東京医科歯科大学大学院ウイルス制御学講座助教、国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第5室室長、順天堂大学大学院感染制御科学講座准教授などを経て現職(基礎医学系・生体防御学)。


 ご感想をお寄せください。


 kansou@seikyo-np.jp
 ファクス 03―5360―9613


(2020年5月20日 聖教新聞)







Last updated  2020/05/20 12:00:06 PM
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2020/05/19

​<新型コロナと今後の社会> 

Gaviワクチンアライアンス オコンジョ=イウェアラ理事長に聞く

自国優先ではなく人類益へ連帯を
 新型コロナウイルスがもたらした危機を受けて、社会の在り方が改めて問われている。開発途上国の子どもたちへの予防接種支援を行う国際団体「Gaviワクチンアライアンス」のンゴジ・オコンジョ=イウェアラ理事長に話を聞いた。(聞き手=南秀一)

――Gaviが設立された経緯を教えてください。
 
 まず、このたびの新型コロナウイルス感染症で亡くなられた全ての日本の方々に、心からの哀悼の意を表したいと思います。また、医療従事者をはじめ、感染症との闘いの最前線で尽力されている皆さんに、この場をお借りして、世界中が感謝し、応援していることをお伝えしたいと思います。
 
 Gaviは発展途上国の子どもたちにワクチンを提供するため、2000年に世界経済フォーラムの年次総会で発足しました。ユニセフ(国連児童基金)やWHO(世界保健機関)、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などと連携しながら、これまで7億6000万人の子どもたちにマラリアをはじめとする感染症の予防接種を提供し、1300万人以上の命を守ることができました。
 
 治療する方法が存在するにもかかわらず、国に経済力がないために子どもたちが命を落とすことなど、あってはなりません。私たちは今後5年間で、さらに3億人の子どもたちに予防接種を提供することを目指しています。

命を守り経済を守るために
 ――ワクチン開発への投資は、持続可能な社会を築いていく上でどのような意義を持つのでしょうか。
  
 今回の世界的な感染拡大は、ワクチンの本質的な重要性を明らかにしました。殺傷力、感染力ともに強力なウイルスから身を守るためには、ワクチンが唯一、継続性ある解決策なのです。
 
 新型コロナウイルスがもたらした損失は、経済の側面でも計り知れません。IMF(国際通貨基金)の発表によれば、本年の世界全体の実質成長率はマイナス3・0%に落ち込むと予測されており、世界中で多くの人々が職を失うことになります。西アフリカで起きた“エボラ危機”の際も、同地域では収入が激減し、多くの失業者が生まれました。
 
 その教訓から学ぶべきは、効果的な治療法の発見に注力しなければ、世界経済は大きな損失をこうむるということです。その意味でワクチンへの投資は、命を守るためにも経済を守るためにも重要なのです。

ワクチンは世界の「公共財」
 ――新型コロナウイルスのワクチンは、世界中で熱望されています。開発された場合、先進国にも途上国にも平等に行き渡る仕組みをつくることはできるのでしょうか。
 
 まさにそれこそ、私がWHOからCOVID―19ワクチン開発のグローバル特使に任命された理由の一つであると思っています。
 新型コロナウイルスのワクチンは、世界中で研究・開発が進められています。いつ開発されるかは、まだ分かりませんが、一部の国や企業がその利益を独占してしまう危険性があります。そうならないために、世界の民衆の声が大切なのです。
 
 つまり、経済学の用語になりますが、開発されたワクチンは世界の「公共財」であるという認識に皆が立つことです。万人に提供可能なワクチンが開発されたとして、いかなる団体、個人も、その知的所有権にしがみついてはなりません。誰人も、ワクチンを必要としている人に十分提供できるようにすることを妨げてはならないのです。そのためには、ワクチンが世界の公共財であると宣言することです。
 
 莫大な資金を投じたワクチンの権益を省みないことには、葛藤もあるでしょう。まして現下の経済状況では、そうした思いは強くなるのかもしれません。
 
 だからこそ今、世界が一つになって人的資源、物的資源を出し合い、貧しい人も豊かな人も誰もが平等に扱われるようにすることが重要です。自己の利益を超えて、人類の利益という視点に立てるかどうか​

――ここに、今回の危機を通して人類が直面している課題があります。
 
 全ての生命には等しく価値があります。お金がないことが、医療を受ける順番が後回しにされ、ワクチンを手にする前に死ななければならない理由になってはならないのです。

保健制度の強化が急務
 ――保健衛生分野における対応として、今後、各国にどのような変化を期待しますか。
 
 今回の危機を経て、世界が以前と同じ状態に戻ることはないでしょう。とりわけ二つの点で、大きな変化があります。
 
 一つは、世界の連関性のさらなる深まりです。新型コロナウイルスの感染拡大は、旅行や貿易、物流などを通して、いかに私たちが分かちがたくつながっているかを、世界に改めて思い知らせました。
 
 世界のどこかで起きたことは、即座に他の場所に影響する。それはつまり、これまでのような自国優先の内向きの態度では、かえって人々を危険にさらすことを教えています。もちろん、自国を優先すること自体を否定するものではありませんが、パンデミック(世界的大流行)のような事態に対しては、団結し、協力しなければなりません。私たちは態度を改めなければならないのです。
 
 もう一つは、保健制度の脆弱さです。先進国でさえ、検査キットやマスク、病床が不足するという事態が起きました。低所得国の状況はさらに悲惨です。次のパンデミックに備えて、世界的に保健制度の強化が急務です。
 
 今後、薬品や医療器具等のサプライチェーン(部品の調達・供給網)の在り方も変化していくでしょう。この期間、医療品や設備を海外から買い占めるという事態がありました。どの国も国内の需要を満たせるだけの体制を整えていくことになるでしょう。それは保健体制の強化にもつながるものです。

フランスで新型コロナウイルスの研究に取り組む科学者。今、世界各地でワクチンの開発が進められている(AFP=時事)
一人では解決できない
 ――創価学会青年部も、SNSやウェブサイトを通し、あらゆる感染症のワクチン量産に向けてGaviが進める署名キャンペーン「Sign For Life」への協力を呼び掛けています。次代を担う青年に、改めて今回の危機から学ぶべき教訓を教えてください。
 
 青年の皆さんに心に刻んでほしいのは、人類が直面している課題は、誰も一人では解決できないということです。だから連帯し、協働することが不可欠なのです。
 
 今回のようなパンデミックは、残念ながらこれが最後ではないでしょう。多くの科学者が、新型コロナウイルスは北半球で秋ごろに再び勢力を強めると予想しています。いずれにしても今後、世界的な感染拡大がないとは言えません。
 
 大切なのは、今、準備をすることです。ワクチンを世界の公共財と宣言することをはじめ、持続可能な社会へ動きだすべきは今であるということです。
 
 皆が問題解決に協力できる社会の構築に向けて、共に頑張りましょう。

【プロフィル】ンゴジ・オコンジョ=イウェアラ 経済学者。アジアやアフリカ、ラテンアメリカ等で30年以上にわたり開発に携わる。ハーバード大学で修士号、マサチューセッツ工科大学で博士号を取得。ナイジェリアの財務大臣、外務大臣、世界銀行副総裁などを歴任し、2016年より現職。

 Gaviの活動の様子は​コチラ​。
 
 署名キャンペーン「Sign For Life」は​コチラ​。

(2020年5月19日 聖教新聞)







Last updated  2020/05/19 12:07:36 PM
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2020/05/17

青年部と医学者による第6回オンライン会議から

「新しい日常」を考える――
    <危機の時代を生きる> 一人一人が自分らしく価値を創造する時 「できないこと」より「できること」を前向きに

 新型コロナウイルスの感染状況を踏まえ、青年部の代表と医学者らが「『新しい日常』を考える」をテーマに第6回オンライン会議を行った(14日)。


感染防止対策を習慣とする
 志賀青年部長 政府は39県の緊急事態宣言の解除を発表しました。残りの8都道府県は、21日をめどに感染状況と解除基準を照らし合わせ、可能であれば31日を待つことなく、解除する考えが示されています。


 一方、厚生労働省は4日、新型コロナウイルスの感染拡大防止の取り組みが長丁場(ながちょうば)になることに備え、政府の専門家会議の提言を踏まえた「新しい生活様式」を公表しています。

 最新の感染状況を踏まえ、今後の私たちの意識と行動について、考えていきたいと思います。
 ​


 菖蒲川(しょうぶがわ)新潟大学特任教授 現在、各地の新規感染者数は減少傾向にあります。これは、緊急事態宣言の下、「人との接触8割減」や「休業」など、皆さんの努力の結果であるといえます。


 しかし、行動制限を緩和(かんわ)した韓国などで再び感染が拡大しているように、日本でも、意識が一気に緩(ゆる)むと感染拡大が再燃する可能性は十分にありえます。たとえ今は感染者数が少ない地域でも、油断はできません。宣言解除は決して、何もかもが元の通りでよいとの“青信号”を示しているわけではないのです。今は、経済活動とのバランスを慎重に取りながら、感染を制御していく段階です。


 「新しい生活様式」が提示された目的は、どこまでも、自分が感染しない、感染させないこと。そして、医療崩壊を起こさせないことにあります。ただ、重く捉(とら)える必要はありません。一人一人が実践してきた、密閉・密集・密接の「3密」を避ける行動とともに、身体的距離の確保、マスクの着用、手洗いの励行といった基本的な感染防止対策を習慣化していくことが求められていると思います。


 
正しい情報を基に正しく恐れる
 西方男子部長 共同通信社が10日に発表した世論調査では「新しい生活様式を採り入れたい」との回答が86%に上りました。多くの人が、前向きに「新しい日常」に取り組もうとされています。
 その一方で懸念されているのが、感染者や医療従事者、営業している飲食店などへの中傷行動です。一見、冷静な判断を失っているような中傷行動は、どうして起こってしまうのでしょうか。
  
 藤原東京医科歯科大学教授 一概には言えませんが、次の三つの心理的要因があると思います。
 
 一つ目は、ストレスのかかった状況にあると攻撃性が高まってしまうということです。精神分析学者のフロイトや動物行動学者のローレンツらによれば、そもそも攻撃行動は、人間が生存するための必須(ひっす)の本能であるともいわれています。今回の長い自粛要請(じしゅくようせい)による不自由さ、感染への不安などのストレスが攻撃性を高めていることは容易に想像できると思います。その攻撃対象が他人に向かえば、激しい言動になるということです。さらに言うと、自分に向かえば過度な不安状態に陥ると考えられます。
 
 二つ目は「自分は自宅待機しているのに、なぜ、あなたは外出しているの?」「自分は我慢しているのに、なぜ、あなただけが得をするの?」といった心理です。日本は欧米諸国に比べ、社会・地域における人々の信頼関係(ソーシャル・キャピタル)が強いのが特徴です。この「助け合い」の精神が強ければ、人々の連帯を促進し、あらゆる困難を乗り越える力になります。一方で、この副作用についても正しく認識しておく必要があります。
 日本には「当然、皆、自粛(じじゅく)するよね?」という空気があります。これは、地域住民が相互に監視し合う「インフォーマル(公的でない)」な統制で、“ただ乗り”を許しません。このような自粛の状況で誰かだけが得をすることを許さない雰囲気になるわけです。
 それによって、外出・出勤せざるを得ない人、店を営業せざるを得ない人らが「自粛せずに自分だけ好きなことをしている“ただ乗り”の人」と一括りにされ、厳しい目が向けられます。これは、「感染した人が悪い。自業自得」という風潮も生んでしまいます。

 三つ目は、新型コロナウイルスの感染確率を“あるか、ないか”の二択で考えてしまう心理です。ネガティブ(否定的)な感情はポジティブ(肯定的)な出来事が起こる主観的確率を低めるとの研究もあります。


 例えば、政府が示した基準などに沿って営業する飲食店で食事をする場合、感染する確率は低いのですが、もちろん「0」ではありません。感染の確率を二択で考えてしまうと、少しでも可能性がある場合、あたかもリスクが「100」に近いかのように感じる心理が働きます。そうなることで自身の恐怖心があおられ、排除・攻撃の方向に傾いてしまうのです。
 


 ここでは3点を挙げましたが、まずは、誰にでも、冷静な判断を失ってしまう傾向があることを認識することです。中傷行動は、誰のためにもなりません。こうした非難が繰り返されると「症状があっても伏せておこう」「行動履歴を明かさないようにしよう」と判断する人が増え、結果的に、感染経路を追えないなど、感染拡大防止を妨げます。やはり大切なのは「正しい情報」を基に「正しく恐れる」ことです。冷静に判断し、賢明な行動をとっていきたいと思います。



「一人の命の大切さ」見つめて
 大串女子部長 医療従事者とそのご家族、また人々の生活に欠かせない仕事をされている方々に、心からの敬意と感謝を述べさせていただきたいと思います。
 


 「国際看護師の日」の5月12日付の聖教新聞に、看護に携わる皆さまへの感謝を込め、池田先生がかつて白樺の友に贈った長編詩の抜粋が掲載されました。これは英語などに翻訳され、世界の医療従事者をはじめ多くの人々から大きな反響が寄せられています。


 新型コロナウイルスに向き合う中で、尊敬や感謝の心を広げることは、世界の諸問題を克服する鍵(かぎ)ともなるように感じます。あらためて私たちは今、この感染症をどのように捉えていくべきでしょうか。
 


 藤原 新型コロナウイルスに感染したことを「自己責任」にさせないことが重要でしょう。これは、貧困や障がい者への差別・偏見にも通底します。


 新型コロナウイルスは未知の感染症です。誤解を恐れずに言えば、誰しも感染する可能性がある。また、すでに無症状感染者である可能性もあります。感染はもはや誰の責任でもありません。ゆえに、感染してしまった人を非難するのではなく、そこから先のことに目を向け、その人の命を守る。感染を広げないために、周囲も共に努力していく。こう捉えていくべきではないでしょうか。


 
抗体検査、抗原検査なども“見えない恐怖”を軽減するために有用かもしれません。しかし、抗体などの有無によって新たな差別や分断を生み出しては本末転倒です。この点も注視していく必要があります。


 また、医療崩壊を防ぐことも、経済活動を回復させることも、命を守るために欠かせません。医療と経済が対立するようなことがあってはなりません。あらゆる人が「一人の命の大切さ」に目を向け続ける日常を築く時であると思います。
 


“誰も置き去りにしない”挑戦
 西方 新型コロナウイルスと「共に生きていく」という視点が注目されています。そうしたことも含め、「新しい日常」を充実させるポイントは何でしょうか。
  


 藤原 「新しい生活様式」については、「こんな細かいことまで指示されたくない」などと考える人もいるかもしれませんが、感染拡大防止には不可欠なことですし、前向きに捉えていくべきだと思います。


 行動経済学の理論に即せば、人の選択は、設定された初期値(デフォルト)に強く影響を受けます。例えば、多くの人は、パソコンやスマートフォンの初期設定をほとんど変えません。それでも、十分に使いこなすことができます。一方で、その設定を変更し、より自分に合った使い方を工夫する人もいるでしょう。「新しい日常」を模索していくこともまた、“初期設定”の変更といえます。
 


 今後、都市部と地方、また緊急事態が続く地域と解除された地域などで、方針や要請が変わってくることが予想されます。さらに言えば、医療従事者や飲食店の経営者、1人暮らしの方など、個々人の状況によって生活様式が「違う」ことは当然です。


 だからこそ「新しい生活様式」を前提としながら、それぞれの状況に合った「新しい日常」を築くことが重要ではないでしょうか。


 皆が「違う」ことが当たり前に受容され、尊重される社会は、きっと豊かな日常をもたらすはずです。
 


 勝又創価女性医学者会議議長 ピンチをどうチャンスに変えていくか、変わってはいけない部分を大事にしながら今後の環境にどう適応していくかが問われていると思います。何事も前向きにチャンスと捉えて、新たな挑戦へ一歩を踏み出し、価値を見いだしていくことが重要ですね。
 

 
庄司創価青年医学者会議議長 私も自粛期間、医療現場に身を置きながら、仕事、家庭、生活など、自分にとって本当に大事なものは何か、どう生きるべきかを考えさせられました。
 

「できないこと」が強調されてしまいがちですが、そうではなく、「これもできる」「あれもできる」と、「できること」を見つけていく中で、自分らしい「新しい日常」を模索して、日々、価値創造していきたいと思います。


 
志賀 この自粛期間、「子育ての大変さや妻の苦労を知り、家族の存在のありがたさが実感できた」「仕事上の新たなアイデアや工夫が生まれた」等、今まで気付かなかった価値を発見した方は多いと思います。私もその一人です。
 


 「新しい日常」を考えていくに当たって留意しなくてはならないことは、それぞれの状況が異なることです。その「違い」を排除すれば、分断が生まれる。そうではなく、「違い」を尊重しながら、「連帯の心」を広げていく。「誰も置き去りにしない」、そして「一人を大切に」という創価の思想が、ますます重要になってくると思います。


 
トインビー博士は、池田先生との対談集の中で「人類の生存に対する現代の脅威(きょうい)は、人間一人一人の心の中の革命的な変革によってのみ、取り除くことができる」と述べています。そして「心の変革」を促す力こそ宗教による啓発(けいはつ)であると洞察(どうさつ)しています。
 


 私たち学会青年部は、「新しい生活様式」を参考にしながら、引き続き、感染防止の意識を持ち、賢明な行動をとっていきたい。そして、電話やSNS、オンラインツールなどを活用しながら、どんな状況にも価値を見いだす「価値創造の哲学」を語り広げてまいりたいと思います。


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 (2020年5月15日 聖教新聞)







Last updated  2020/05/17 11:00:05 AM
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2020/05/16

〈危機の時代を生きる〉
新型コロナウイルスの克服へ

総合診療医(家庭医)のまなざし――
 石川県内の病院で「総合診療医」として勤務する、吉岡哲也さん(48)=石川県七尾市、地区幹事(誓願長〈ブロック長〉兼任)、総県ドクター部長。


 従来の専門診療科が臓器や疾患に焦点を当てるのに対し、総合診療は身体の疾患(しっかん)だけでなく、患者の精神面や生活環境、家族関係にも着目し、総合的な医療を提供するため、「家庭医療」とも呼ばれる。
 新型コロナウイルスがもたらす危機の中で、吉岡さんが見つめるものとは――。(記事=掛川俊明、野田栄一)


人のために、それが“真の健康”
 石川県の新型コロナウイルスの感染者数は280人超(5月15日時点)。都市部に比べて総数は少ないが、人口100万人当たりの感染者は、東京都に次いで、全国で2番目に多い。
 4月30日、全国を対象とした緊急事態宣言が続く中で、ウェブ会議アプリを使って吉岡さんに話を聞いた。
 勤務する病院に、新型コロナウイルスの感染者は出ていない。だが、市内の感染症指定医療機関では、看護師への感染が起きた。


 「常にあらゆる事態を想定しています」。実際、「発熱した」という人が急に外来に来た時は、駐車場の車中で病歴を聞き、他の患者と接触しないよう誘導し、診察を行った。
 アメリカで7年間、現地の診療に携わった吉岡さん。感染が爆発的に拡大した米国で働く医師に連絡を取ると、中には、自分が感染したという人もいた。
 コロナ禍にあって、世界中の人々が等しく環境の変化に直面しており、影響を受けていない人などいない。「あらゆる人が“生き方”を問われているように感じます」と吉岡さんは語る。
 “不安”を感じるのは当然。だが、それを前にして“自分のため”だけを考え、衝動的な行動に走るのか。
 それとも互いの理解に努め“みんなのため”に賢明(けんめい)な行動をとるのか。「その分かれ道で、信心と創価学会の同志の存在が大きな力になります」​


 医師は、幼い頃からの夢だった。


 1987年(昭和62年)、関西創価高校に入学し、創立者・池田先生との出会いを重ねた。
 「色心不二(しきしんふに)」や「依正不二(えしょうふに)」などの仏法哲理を学び、理想の医師像を描いた。「病気だけを治しても、幸福になれるわけじゃない。体も心も生活環境も、その人を丸ごとサポートするのが、本物の医療ではないか」


 しかし、当時は臓器別の専門医が一般的。「頑張っても頑張っても、目指す医療が見えてこなかった」。そんな医学部5年の時、「総合診療」を知り、「“これや!”って直感した」。 
 日本には、まだ専門医がいない中で、自分なりに総合診療に近づこうと、卒後研修では多くの診療科を回り、さらに離島医療にも携わった。どんなに多忙でも学会活動に励み、折伏にも挑戦した。
 2001年からは、総合診療の先進国であるアメリカへ留学し、現地で専門医資格を取得。米国に残る選択肢もあったが、後進の育成のため、08年に帰国した。


 吉岡さんは今、改めて総合診療の意義を実感している。「家庭医は“何かあったら相談できる”存在。それが、患者さんの“心の安心”にとって助けになるんです」
 新型コロナウイルスの感染が広がる中、各診療科をつなぐ橋渡しの役割も求められる。“相談窓口”として、総合診療の医師が担う役割は大きい。


 現在、オンライン診療が注目されている。離島など、地理的に制約がある地域はもとより、都市部においても、負担の軽減や働いている人が休憩時間で診療を受けられるといった利点が考えられる。

 医療へのアクセスのしやすさに期待が高まる。
 コロナ禍にあって、吉岡さんは「電話診療」を始めた。「高齢者も多く、すぐにオンラインってわけにはいかなくて」


 病院での感染リスクを心配し、来院を控える人も多く、電話診療は好評だ。
 かかりつけ医として、普段の病状や生活が分かっている患者であれば、電話診療でも変化を理解でき、より適切なアドバイスができる。
 しかし、それが分からない初診となると、判断は難しく、アドバイスが正確に伝わるかという不安も大きい。


人生観、価値観にも配慮する医療
 「オンラインは利点も多いですが、日常の診療の大半がそれに代わるのは難しいと思います。会って分かることも多い。この期間を経て、改めて“直接、会うこと”の価値が高まるんじゃないでしょうか」
 当たり前だったものほど、失って初めてその価値を痛感する。それは“健康”も同じかもしれない。吉岡さんは、「多くの人たちが、自身の“健康観”を見つめ直す必要があるのでは」と訴える。
 それは、“病気がなければ健康”“病気があるから不健康”という単純なものではない。検査を受けたら必ず白黒がつくというものでもなく、病気が分かれば治す薬が確実にあるわけでもない。
 医学が大きく発展しているとはいえ、こうした不確実な部分は、「いまだに私たち医師が毎日、直面している問題です」。
 だからこそ、「診断の精度や治療の効果だけでなく、患者さんの人生観や価値観にも配慮することを心掛けています」と。毎日、真剣に祈り、患者一人一人に合った最善の対応を模索している。
 御書に「一身の安堵(あんど)を思わば先(まず)ず四表の静謐(しひょうのせいしつ)を禱(いの)らん者か」(31ページ)とある。吉岡さんは「健康についても、同じではないかと思うんです」と言う。
 例えばインフルエンザの予防接種は、“自分のため”に受けると思われがちだが、それに加えて多くの人が免疫を形成すれば、病気の流行を抑えられる。


 自分だけの健康から、“自他共”の健康へ――。


 池田先生は「『健康』とは何か。その結論は『菩薩の生命』です。人のために戦い続ける一念――それが真の『健康』だと私は思う」と語っている。
 医師として、仏法者として、吉岡さんは見つめている。


 「毎日、健康を祈り、“人のために”と賢明な行動をとることが、自分の健康を増進することにつながる。そして、励ましてくれる同志がいる。これって本当に心強いですよ」

 ●ご感想をお寄せください。
 kansou@seikyo-np.jp
  ファクス 03(5360)9613


(2020年5月16日 聖教新聞)







Last updated  2020/05/16 08:39:01 AM
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2020/05/13

​〈危機の時代を生きる〉千葉大学 近藤克則教授 
長期化するコロナ禍に立ち向かう
  身体的距離は保ちながらも、人とのつながりを切らさない

 「緊急事態宣言」の延長を受け、新型コロナウイルスとの闘いは長期化が見込まれる。今回の「危機の時代を生きる」では、千葉大学の近藤克則教授に、社会疫学の観点から、この“長期戦”において必要な視点などを語ってもらった。(聞き手=志村清志・村上進)​


 ――新型コロナウイルス対策の長期化に伴い、今後、どのような視点が大切になってきますか。


 今月4日、政府は「緊急事態宣言」の延長を発表。東京や大阪など13の特定警戒都道府県には「人との接触の8割減」の継続を呼び掛ける一方で、新規感染者数が限定的になった地域については、社会・経済活動の再開を一部容認しました。
 また政府の専門家会議は、ウイルス対策の長期化を見据(みす)え、特定警戒都道府県以外の34県を対象に、外出自粛(じゅしゅく)の緩和(かんわ)を可能としつつ「新しい生活様式」を提示。人との距離はできるだけ2メートル空ける、マスクの着用、帰宅後の手洗い・顔洗いの実践、また「3密」(密閉、密集、密接)の回避(かいひ)やテレワークの励行などの具体例が示されています。


 このことは、コロナ禍との戦いが新しいフェーズ(局面)に入りつつあることを意味するでしょう。私たちの生活は、ウイルスとの“共存”を想定した段階に移行しつつあるともいえます。
 今までは、新型コロナウイルスの感染を防ぐため、とにかく外出を控え、人との交流を極力減らす対策が取られてきました。しかし、長期化していくこれからは、「どうすればウイルスに感染しないか」という視点は変わらずに持ちつつも「いかに自分の健康を維持できるか」という視点を持つことが大切になってきます。


 私の専門である社会疫学は、病気を生み出す社会的要因を調べ、どのように予防するかを研究する学問です。その観点から、外出や人との交流が制限された状態が続くと、健康に悪影響を及ぼす可能性が高まると分かってきました。なかでも、高齢者は注意が必要です。
 実際、私が代表を務める日本老年学的評価研究(JAGES)プロジェクトの研究によれば、外出や人との交流が少ない高齢者は、そうでない場合に比べ、うつや認知症、糖尿病などを発症する可能性が高いという結果が出ています。
 また最近、世界保健機関(WHO)は、感染防止のために人との間隔を取るという意味の「ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)」という言葉を、「フィジカル・ディスタンシング(身体的距離の確保)」に言い換えるようになりました。ソーシャルには社交などの意味があるため、「他人と疎遠(そえん)になる」という誤ったイメージを連想させる恐れがあると判断したからです。
    ウイルスの感染防止対策が長期化する中で、ストレスや孤独(こどく)を感じやすくなっている今こそ、身体的距離を保ちながらも、人とつながり、健康を維持することが大切になってくるでしょう。


健康維持のために適度な運動を 退屈せずに時間を過ごす工夫を
 ――私たち一人一人が健康を維持するために、どのような心掛けが大切ですか。


 適度な運動や散歩は、気分転換や健康維持のために必要です。
「屋外での運動や散歩なども、ともかく自粛、控えるべき」と誤解(ごかい)している人もいるようですが、政府の発表する「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」では、「屋外での運動や散歩」は「生活や健康の維持のために必要なもの」とされ、外出の自粛要請の対象にはなっていません。「3密」を避けることや、帰宅してからの手洗い・うがいなど、細心の注意を払いつつ、定期的な屋外での運動などを心掛けてほしいと思います。


 また、自宅にいながら熱中できるものを見つけることも大切です。意外に思うかもしれませんが、人間は、仕事が多忙なときや緊張を感じるときだけでなく、「暇(ひま)」や「退屈(たいくつ)」な状況に対してもストレスを感じます。やることが何もないことも、健康に良くない影響を与えるのです。
 休校が続き、家にいることが多くなったため、精神的に不安定になる子どもが増えているようです。このことも、退屈に感じる時間の増加が原因かもしれません。
いずれにしても、退屈せずに時間を過ごす工夫は必要です。もともと趣味などをお持ちの方は大丈夫かもしれませんが、特に持っていない方は、これを機に探してみても良いでしょう。


 ――健康を損なうリスクが高い高齢者のために、関わる側が意識すべきことはありますか。


 高齢者と一緒に住んでいる場合、家事などの役割を分担することは有効でしょう。


 最近では、行政が高齢者に「役割」を提供する事例も出てきました。
 千葉県松戸市では、「松戸プロジェクト」と称して、高齢者の健康寿命を延ばすために、さまざまな地域活動を推進しています。あるグループは、ウイルス感染が流行するようになってから、高齢者にマスクを作ってもらい、それを介護施設や保育園などに寄付しているそうです。こうした作業なら、自宅にいてもできるので感染リスクは低く、取り組みを通して、社会とのつながりを実感できます。このような取り組みが、各地で推進されていくことを期待しています。


 また近隣の方や、遠方に住む親戚などに“声掛け”をすることも大切です。


 人との対面交流が難しい状況ではありますが、電話やメール、SNSなどを使って交流するだけでも、健康促進に寄与します。JAGESプロジェクトの調査によれば、月に1回でも笑う機会があると、主観的健康感(自身の健康に対する自己評価)が高まるという結果が出ています。
 これといった用事がなくても、コミュニケーションを取ってほしいと思います。その中から困っていることや悩みを打ち明けてくれる場合もあるでしょう。


交流や助け合いの蓄積が、困難乗り越える「鍵(かぎ)」に


 ――社会疫学の観点では、人の健康は、その人の努力だけでなく、生まれ育った環境や地域、仕事や所得などの社会的環境によっても左右される側面が強いとされます。コロナ禍の長期化は、そうした「健康格差」に、どのような影響を与えるのでしょうか。


 現在の日本社会では、低所得の人が増えています。その状況は、健康格差の拡大にもつながっています。感染流行が長期化すると、景気が冷え込み、その格差はさらに広がるでしょう。
 特に社会的に弱い立場に置かれている人ほど、失業などの経済的なリスクが高まります。その結果、生活の見通しが立たない不安から、うつや自死に追い込まれる人や、健康習慣がさらに悪化することによって健康を損なう人が増えてしまうのではないかと懸念しています。
『ソーシャル・キャピタルと健康・福祉』(ミネルヴァ書房)


 ――近藤教授が編集・著述された『ソーシャル・キャピタルと健康・福祉』の中では、健康格差を是正するために「ソーシャル・キャピタル」(社会関係資本)の役割について言及されています。


 社会疫学では、人と人との交流や社会参加、助け合いの規範の度合いを「ソーシャル・キャピタル」と定義します。人と人とのつながりや結束を社会的資源とする考え方です。
 健康格差を是正するためには、行政による経済的なサポートも必要ですが、地域におけるソーシャル・キャピタルを豊かにすることも有効だと考えられています。人とのつながりが多ければ、励まし合ったり、悩みを相談したり、有益な情報を共有する機会も多くなり、その結果、健康の促進につながるからです。
 コロナ禍における健康格差の問題は深刻ですが、こうした危機的な事態だからこそ、地域のソーシャル・キャピタルの力が問われてくるのではないでしょうか。
 2011年に東日本大震災が起こった際、被災地では「助け合い」の精神が育まれ、ソーシャル・キャピタルが豊かになったといわれています。今回の感染拡大も同様に、私たち一人一人が励まし合い、協力し合うことでソーシャル・キャピタルの力を発揮して、困難を乗り越えることができると思います。日本社会には、その“ポテンシャル(潜在能力)”があると信じています。


〈プロフィル〉
こんどう・かつのり 1983年、千葉大学医学部卒業。2014年から千葉大学予防医学センター教授に。一般社団法人日本老年学的評価研究機構で代表理事も務める。国立長寿医療研究センター部長を兼務。主な著書に『健康格差社会への処方箋』『長生きできる町』など。
  


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(2020年5月13日 聖教新聞)







Last updated  2020/05/13 12:10:04 PM
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2020/05/11

​〈危機の時代を生きる〉 寄稿 音楽ジャーナリスト 三光洋氏
新型コロナ禍”と闘う欧州のクラシック界

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、世界各国でコンサートホールの閉鎖が続く中、クラシック音楽界では、オペラや演奏の無料配信が実施されている。欧州の歌劇場や楽団、奏者は“新型コロナ禍”の試練に、どう立ち向かっているのか――。フランス在住の音楽ジャーナリスト・三光洋氏に、都市封鎖、舞台芸術の現況と併せて綴ってもらった。
新型コロナウイルスの蔓延で、3月初旬以降、欧州各国で演奏会やオペラ公演が中止され、現在に至っている。
 フランスでは3月8日から1000人以上、13日からは100人以上の集会(演奏会、オペラ、演劇、映画)が禁止された。17日からは外出禁止令により、市民は必要最小限の食料や薬の買い出しと、自宅の周囲1キロ以内での一日1時間以内の運動以外は、家から出られなくなった。
 夕方、内務省書式の許可証を準備して散歩に出ると、レストランやカフェ、ホテルが閉まり、普段なら観光客や市民でにぎわうモンマルトルの丘も静けさに包まれている。
 欧州の都市では一日の仕事を終えた人々が、いったん家に戻り、着替えてから演奏会やオペラハウスへと足を運ぶ。劇場前には開演前や休憩時間に談笑する人々があふれ、終演後には周囲のカフェやレストランで友人や家族とひと時を過ごす。
 こうした日常は疫病によって、またたく間に消えてしまい、扉の閉まった劇場の前には人影もなくなった。
収入減で窮地に立つ歌劇場、歌手ら
 舞台芸術に携わる奏者や俳優たちにとって、公演中止は失業を意味する。オーケストラの正規団員は給与所得者だが、オペラ歌手やソロのピアニストはフリーランス(自由業)だ。舞台がなくなれば、その日から生活の手段を断たれてしまう。
 3月15日には人気テノール、ロベルト・アラーニャを筆頭にフランスやベルギーのオペラ歌手が連名で声明を発表し、「クラシック音楽の演奏会場、歌劇場が閉鎖され、公演が全て中止された。この結果、主催者からの一方的な契約破棄が相次いでいる」と窮状を訴えた。
 フランス国内の楽団、地方歌劇場、オペラ音楽祭の43団体の連合協議会のロイック・ラシュナル代表(ルーアン歌劇場総監督)も「文化産業でも特にクラシック音楽界が打撃を受け、皆がパニック状態に陥っている。チケット代金の返却や正規職員の給与、演奏家への報酬を払わなければならないが、歌劇場の通常予算内では無理だ」と国の支援を求めた。
 こうした中、バリトン歌手ルドヴィック・テジエは公開書簡をエマニュエル・マクロン仏大統領に寄せた(4月12日付「ル・モンド」紙)。
 「今、早急に手を打たなければ音楽、中でもオペラは消滅してしまう。太陽王ルイ14世時代からフランスを偉大たらしめてきた芸術を援助してもらいたい」と緊急性を訴えた。
 テジエの簡潔にして明快な文章には音楽に対する真率な思いと将来への深い危惧が込められており、読者に感銘を与えた。
各国・州政府が経済支援
 こうした音楽家たちの懸念に、いち早く応えたのは独政府だった。モニカ・グリュッタース文化大臣は3月11日に「私たちは音楽家を見捨てない」と声明を出し、25日には500億ユーロの支援を発表した。この緊急特別措置によりドイツ在住であればフリーの音楽家も簡単な申請書類を提出するだけで、3日後には銀行口座に5000ユーロ(約60万円)が入金された。
 また、ミュンヘンを州都とするバイエルン州は国の援助に加え、音楽会が再開されるまでの期間、州内の演奏家に月額1000ユーロ(約12万円)の支給を決めた。
 仏政府は3月18日に総額2200万ユーロの緊急支援策を発表したが、これは音楽だけではなく、メディア、映画も含めた金額で演奏家個人にどの程度の援助がいきわたるかは不明だ。
 その一方、国に頼るのではなく、独自に音楽家救済に乗り出した地方歌劇場もある。
 仏政府の禁止令により全土のオペラハウスが活動を停止した時、南部トゥールーズのカピトル歌劇場では3月28日に初日が予定されていたジャン=フィリップ・ラモー作曲「プラテ」(新演出公演)のリハーサルの最中だった。歌劇場監督は「不可抗力による公演中止」を理由に出演音楽家への報酬支払いを停止せずに、個々人のケースに応じて補償金が支払われるように対処した(4月6日付キリスト教系日刊紙「ラ・クロワ」)。
オペラや演奏を無料配信――観客との絆保つ
 これはお金の話ではないが、歌劇場やオーケストラは家に閉じ込められた観客たちとの絆を休演中、どうやって保持していくかにも心を砕いている。
 日本でも滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールがリヒャルト・ワーグナー作曲「神々の黄昏」を無料配信して話題を呼んだが、欧州の歌劇場も競って配信に取り組んでいる。
 パリ国立オペラでは観客なしで上演された3月10日のジュール・マスネ作曲「マノン」が無料で配信され、公式サイトだけで1週間で視聴の数は36万9000に達した。「居間にいてオペラをたのしむ」という新しい観劇スタイルが生まれるかもしれない。

 個人の演奏家もネット配信により「コンサートの出前」に乗り出した。パリ在住のピアニスト、児玉桃さんが仏国営放送フランス・ミュージックとピアノ製造会社スタンウェイから依頼を受け、自宅でロベルト・シューマン、細川俊夫、モーリス・ラヴェルの作品を演奏したのは、その一例だ。
 仏中部のポワチエでは音楽院の生徒たちが毎日、曲を演奏したビデオを市内4カ所の老人保健施設に配信して、肉親の訪問さえ受けることができなくなっている300人の高齢者たちに、ひと時の安らぎを届けている。
 歌劇場には奏者、歌手だけでなく、照明や大道具といったオペラ公演に欠かせない裏方がいる。パリ国立オペラとマルセイユ歌劇場の衣装係は、オペラ歌手やバレエダンサーの衣装作りが本来の仕事だが、フランスでは品薄のマスクをオペラ衣装用の綿素材を使って自宅で縫っている。完成したマスクは病院や赤十字社に届けられ、医療関係者が使用している。​
一日も早い終息と公演の再開を待望
 4月に入ってから、ドイツ、オーストリアといった医療崩壊を免れた国々が段階的に社会活動を再開し始めているが、いったん陰性になっても再度陽性となるケースさえある新型コロナウイルスが、いつ終息するかは誰にも分からない。多くの人が集まる音楽会が再開されるのには、まだまだ時間がかかりそうだ。バイロイト音楽祭(ドイツ)やエクサン・プロヴァンス音楽祭(フランス)といった夏の音楽祭も中止を相次いで発表している。
 それでも、家から出られず友人や家族との交流がかなわない環境にあって、音楽がどれほどの救いになるかを、誰もが実感したのではないだろうか。演奏会やオペラ公演という“人間にとって最高の場所”が一日も早くよみがえってほしいと祈るばかりである。


【プロフィル】
 さんこう・ひろし 1961年、兵庫県生まれ。東京大学文学部仏文学科卒。86年、国際ロータリー財団奨学生として渡仏。パリ第8大学、パリ国立高等音楽院=高等師範=トゥール大学合同音楽学課程で、音楽史と音楽美学を学ぶ。現在、欧州の音楽、演劇について雑誌「音楽の友」、チャコットウェブマガジン「ダンス・キューブ」などに寄稿している。フランス演劇・音楽・ダンス批評家協会会員。


 (2020年5月11日 聖教新聞)







Last updated  2020/05/11 07:57:37 AM
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2020/05/10

〈危機の時代を生きる〉

フリーランスの挑戦――パニック障害と向き合うカメラマン


 フリーランス(個人事業主)のカメラマンとして働く鶴本正秀(つるもとまさひで)さん(31)=東京都杉並区、男子部部長=は長年、パニック障害と向き合ってきた。
 “見えない障がい”が突き付けてくる、生きることへの不安。その中でつかんだカメラマンの仕事だったが、新型コロナウイルスの感染が広がり、撮影の仕事はゼロに。
 先行きの見えない危機の中で、もがきながら新たな挑戦を開始した青年を追った。(記事=掛川俊明)

誰かの希望になれる自分へ
 2012年(平成24年)12月、真冬のアイスランドは日照時間が短く、昼ごろにようやく太陽が顔を出した。
  創価大学を卒業して大学院に進んだが、修士課程の途中で1年間、休学してイギリスへ。現地で働きながら、リュックサック一つで5カ国を旅した。
​

 アイスランドで迎えたある夜、息も凍るような寒さの中で、空高く輝くオーロラを見た。視界いっぱいに広がる星の多さに驚き、思わずカメラを向けた。


 「三脚がないと撮れないのも知らなくて、息を止めておなかの上にカメラを乗せて撮った」
 シャッターを切ると、不思議な安心感に包まれた。「こんなにきれいなものを撮れるなら、人生って楽しいかも」


 自分を覆っていた苦しさから、一瞬だけ抜け出せた23歳のあの夜、「カメラで生きていこう」と決めた。
 高校2年の時から、パニック障害に悩まされた。軽度のうつ病、睡眠障害もあった。
 

「自分と社会が、すごく離れている感覚」。学校にも通学路にも、人はたくさんいるのに、隣にいる人が遠く感じられる。
 満員電車に乗ると、息ができなくなった。途中で何度も降りては休み、4時間以上かけて学校に着くと、保健室で過ごした。
 

「えたいの知れない不安に襲われて、電車にも教室にも“いる”ことができなかった」
 大学に進むと、症状はいくらか和らいだが、「何となく生きているだけ」だった。


 電車での通学、友人たちとの食事。「普通の学生にとっての“当たり前”ができない自分なんて、存在してていいのか……」


 自分と向き合うこと自体が苦痛だった。
 そんな日々の中で、あの夜に見つけた、カメラの魅力。
 

 イギリスから帰国し、大学院を修了後は、高校の非常勤講師として働きながら写真を撮り、活躍の機会を模索した。
 だが、一向に芽が出ない。悩みが重なったある日、薬を大量に服用してしまう。


 意識がもうろうとして、気付けば渋谷のスクランブル交差点に立っていた。


 “もう終わりだ……”。その時、携帯電話が鳴った。
 「どこにいるんだ、帰っておいでよ。待っているから」――電話の声は、創価学会の男子部の先輩だった。ボロボロに泣きながら、家に帰った。

 そんな14年、両国国技館で開催される総東京の創価青年大会に出演することに。「初めて本気で信心しようと決めた」
 男子部の先輩と一緒にひたすら唱題した。


 地元会館での演目の練習は人が多く、圧を感じて参加できない。それでも別室で唱題し、練習後のミーティングには必ず出席。「毎回、全員の前で決意を発表して」。みんなの拍手がうれしかった。
 大会当日は、先輩の配慮で、人に囲まれない一番端で舞台に立った。“池田先生に応えたい”との一心で、最後まで、みんなと一緒に歌いきることができた。


 「信心で自分自身と真正面から向き合った時、心の底から池田先生を感じました」
 その後も男子部の仲間は、どんな時も寄り添ってくれた。皆に励まされながら、初めての個展を開催。
 16年3月には教員を辞め、フリーランス(個人事業主)のカメラマンになった。
 祈りに祈る中、ハワイでのミュージックビデオの撮影の仕事が舞い込み、その後は、大手企業の広告写真を担当。ドキュメンタリーなど、動画の仕事にも携わるようになった。
 27歳のある夜、気付いたら「寝落ちしてて」。それまでの10年間は、睡眠導入剤なしでは寝付けない生活だった。


 翌朝、目覚めると、自然に眠れたことに驚いた。以来、薬は服用していない。


 本年2月ごろから、新型コロナウイルスの影響が出始めた。3月に入ると、撮影の仕事は全てキャンセルに。


 企業の動画プロジェクトのアドバイザーの仕事だけが、何とか残った。
 これまで屋号も付けずに、“鶴本正秀”として仕事をしてきたが、今、フリーランスの厳しさを実感している。


 会社組織に守られるわけでもなく、事業所と比べれば、行政の支援も手薄だ。それでも「自分は、この生き方を貫きたい」。
 誰もが一番になろうと激しく競争する業界で、周りと比べるのではなく、「目の前の一人と向き合い、作品を見てくれる“あなた”にとっての一番を目指したいんです」。


 はた目には分からないパニック障害に悩んだ10年間。“見えない障がい”に向き合った自分だからこそ、傷ついた誰かを癒やす一枚の写真、一本の動画を作りたい。
 あの日の創価青年大会に、池田先生はメッセージを贈った。
 「君たち創価の青年が世界の友とスクラムを組み、人類の宿命を転換する平和と共生の100年へ、新たな大潮流を起こしていってくれ給え!」
 今、この青年への期待を、自分への呼び掛けだと受け止めている。


 鶴本さんは、3月末には、花見に行けない人のためにと、撮りためた桜の映像を編集して「リモートお花見」の動画作品を無料公開した。


 また、「ステイホーム(家にいる)は、新しい自分への挑戦の時間」と決め、3次元コンピューターグラフィックスを学びながら、知人のプログラマーとAR(拡張現実)の勉強を始めた
 祈り抜く中で、つい先日、オンラインでの写真講座の依頼、さらにアメリカからの動画編集の仕事が決まった。
 男子部の部長として、メンバーとは通話アプリやウェブ会議で、日々、顔を見合わせて励まし合う。一方で「アナログでしか伝わらないものもある」と、部員への激励のはがきも書いている。


 かつてない危機に直面する今だからこそ、祈り抜いて、誰かの希望になれる自分へ、新たな挑戦を続ける。
  (掲載写真は全て本人提供)


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 (2020年5月10日 聖教新聞)







Last updated  2020/05/10 03:10:04 PM
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2020/05/09

〈危機の時代を生きる〉
新型コロナウイルスの克服へ

フリーランスの確信――困難に向き合う服飾クリエーター
 川井彩乃さん=三重県桑名市、女子部本部長=は、フリーランス(個人事業主)の服飾(ふくしょく)クリエーター。
​

 専門学校を卒業後、都会での仕事を選ばず、地元に戻って、オンラインで日本各地の顧客と信頼を育んできた。
 新型コロナウイルスがもたらす今回の危機に、彼女は、その強みと限界、両方を感じている。(記事=橋本良太)


自分だけの幸福も、他人だけの不幸もない。
 4月15日、国の緊急事態宣言が全国に拡大される前日。川井さんへ取材の電話をかけると、いつもと変わらず仕事を進めていることを教えてくれた。
 地下アイドルの衣装やメイドカフェのユニホームなどを請(う)け負(お)っているが、公演や店舗営業が休止される中、製作のキャンセルはなかった。


 顧客(こきゃく)の地下アイドルからは「自粛(じしゅく)が明けたら、すぐ新しいコスチュームで勝負したい」との思いを聞いた。
 川井さんは実家近くの旧宅を作業場としている。「業界で活躍したい同世代の多くが都会へ出て行く」のを見つめながら、故郷でフリーランスとして活動してきた。
 「もともと実家だったアトリエは、築40年。ボロくて、オシャレさのかけらもない」と笑う。だが固定費はゼロ。インターネットがあれば、全国、世界の顧客ともつながれる。
 実際、川井さんはSNSで、さまざまな経営者と出会い、仕事の幅を広げてきた。北海道など遠隔地の顧客とは、ネットで打ち合わせし、製作状況を共有する。
 それゆえ、現在の社会状況でも働き方は変わらず、経営のダメージを抑える結果となっている。しかし、戦略的に将来を見越したわけではない。むしろ、フリーランスの形に行き着く前は「自分は社会不適合者なのか」と感じるほどに悩んでいた。

 中高一貫の進学校に通ったが、進路に悩み、高校3年から“保健室登校”に。卒業後、名古屋の服飾専門学校に入った。
 だが膨大(ぼうだい)な課題、アルバイト生活、失恋にも疲れ、休学して1人暮らしのアパートにひきこもる。
 “私がいなくても、今日も地球は回る”と悲観し、布団にくるまっていた時、信心に励む祖父の口癖(くちぐせ)を思い出した。


 「生命は三世永遠。今を大切に生きなきゃいかん」
 自ら祈るようになり、休学中に自主ブランド「R―Liberty」を設立。復学、卒業を経て8年、フリーランス一本でやってきた。
 周りに合わせなくてすむ自由な働き方ではあるが、そこには、生きる責任と重圧が一体であることも知った。
 「私って弱いですよね」と、女子部の先輩に打ち明けたことがある。「誰と、何を比べてそう思うの? 強いか弱いかは、自分自身で決めるのよ!」
 思いがけない内容と力強さに心打たれ、“私には覚悟(かくご)と忍耐(にんたい)が足(た)りない。強く生きてみせる!”。そう決めて、自身の道を、切り開いてきた――。
 国の緊急事態宣言の延長が正式に決まった5月4日、再び川井さんへ電話をかけた。


 「ここまでインターネットの流通が影響を受けるとは想像以上です」。川井さんが語るのは、生地の仕入れの現状だ。
 4月、中部3県でもメジャーな生地店が休業した。ネット発注に希望を託すも、川井さんのニーズを満たす品質の生地は次々品切れ状態で、入荷のめどが立たない。
 「製作はオンラインで共有できますが、物が手に入らないと……。社会から、アナログな部分がゼロになることはないと痛感しました」


 衝撃(しょうげき)は大きい。だがそれは、絶望(ぜつぼう)や悲観(ひかん)とは違う感覚だという。


 川井さんが“コロナ禍”で始めたことがある。御書の「立正安国論」の研さんだ。
 「一身(いっしん)の安堵(あんど)を思わば先(ま)ず四表(しひょう)の静謐(せいひつ)を禱(いの)らん者か」(31ページ)――自分自身の安泰を願うならば、まず世の中の平穏を祈ることが必要、との日蓮大聖人の仰せ。
 池田先生はこの御文を拝し、学会は“自分だけの幸福や安全もなければ、他人だけの不幸や危険もない。この生命観に立って、社会と世界全体の安穏を祈り、対話と連帯を広げてきた”と振り返っている。
 川井さんは地元女子部の“華陽姉妹”たちと、毎日、定刻に、それぞれの家で唱題を開始した。


 仲間には、不眠不休で働く医療関係者や、福祉関係者も。張り詰めた中で尽力する様子を電話で聞き、気付かされたことがある。
 「それぞれの場所で困難に立ち向かう仲間がいるから、私も冷静でいられる。そして、祈れるからこそ、勇気が出る。後輩のメンバーには、『100回頑張って変わらなくても、祈りで変えていけることがある。それくらい、祈りってすごい力があるんだよ』と伝えています」
 未知のウイルスと向き合い、社会のあり方も姿を変えようとしている。


 川井さんは「“何もできない”と思うときでも、命があれば、祈ることができる」と。そんなしなやかな強さをもって、今を生きている。


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(2020年5月9日 聖教新聞)







Last updated  2020/05/09 03:00:04 PM
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​​​​信仰体験  闘うイタリアの医療従事者たち
 世界中で猛威(もうい)を振るう新型コロナウイルス。感染が拡大する中、医師や看護師をはじめ、多くの医療従事者が、その脅威(きょうい)と最前線で闘っている。命を救う懸命な行動が続く。イタリアの医療現場で使命を胸に奮闘(ふんとう)するメンバーを、メール等を使って取材した。​


看護師 アレッサンドロ・ソッレンティーノさん
使命を胸に患者に寄り添う
 【アレッサンドリア】新型コロナウイルスの感染拡大を報じるニュースに、看護師のアレッサンドロ・ソッレンティーノさん(28)=男子部部長=は心を痛めていた。「現場に駆け付けて、一人でも多くの患者を苦しみから解放してあげたい」
 だが、そんな当初の思いに反して、想像を絶するペースで感染者が増大。勤務先の医療現場は非常事態になっていく。
 「院内であらゆる予防措置を講じていましたが、残念なことに何人かの同僚(どうりょう)が感染してしまいました。自分も感染するかもしれないという恐怖(きょうふ)。多忙を極(きわ)める中で、感染力の強いウイルスに適切な注意が払えているだろうかという不安。しかし、唱題をする中で使命を果たすんだと強く思えるようになったんです」
 幼少の頃から持病を抱えて生きてきた。看護師になったのも“今度は自分が誰かのために”との思いからだった。

 コロナとの闘いが始まって間もなく、ある男性患者を担当した。集中治療室の患者は家族と面会謝絶。連絡も取れないままだった。


 “つらく苦しいに違いない。何かできることはないか”。ソッレンティーノさんは専門家チームの医師に相談し、スマホのビデオ通話の使用を提案した。


 通話の様子を見守る医師や看護師。そこには男性患者の流す大粒の涙と笑顔、スマホ画面の向こうの妻にキスを送る姿があった。感動の再会に、ソッレンティーノさんも胸を熱くした。


 命と向き合う医療現場の最前線。少しの油断もできない緊張の連続。

「だからこそ、患者の思いに寄り添う一人でありたい。学会の中で教わった“生命尊厳の生き方”“一人を大切にする行動”が求められていると思うんです。誰かではなく、私がそれを体現していきます」


看護師 アントネッラ・ガッリーナさん
大悪を大善に変えていく 
 【トリノ】「私に一体、何ができるだろうか」。新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた頃、アントネッラ・ガッリーナさん=婦人部副本部長=は自問しながら、唱題に励んでいた。
 3月、勤務先の病院から「手術室の担当から新型コロナウイルス感染症患者のための集中治療室の担当に」との連絡が入った。
 未聞のウイルスへの恐怖と、当分は子どもたちに会えなくなるという現実。「いざ目の前に突き付けられると悩み苦しみました」
 不安を打ち払うために祈った。そして自身の使命を見つめ直した。その時に拝した御聖訓が、「我並(われなら)びに我が弟子・諸難ありとも疑(うたが)う心なくば自然(じねん)に仏界にいたるべし」(御書234ページ)。“そうよ、今こそ私の使命を果たす時!”。心は定まった。

 新たな現場は、今までとは全く違っていた。長年、看護師を経験してきた彼女でさえ、「どこか現実離れしているような感覚(かんかく)に陥(おちい)った」と。


 初日に、新型コロナウイルスに感染し搬送されてきた女性は、出産間もない若い母親だった。


 「泣いているわが子と引き離され、抱くことさえできない。私も子を持つ母親。彼女の苦しみが痛いほど胸に迫ってきました」


 ガッリーナさんは夫を病で亡くした。その時、寄り添い励ましてくれたのは学会の同志だった。池田先生の励ましの言葉を支えに、信心で乗り越えた体験があるからこそ、患者が一日も早く家族と再会できるように祈り励まし続けた。病状は順調に回復し、無事に退院。ガッリーナさんは、朗報を自分のことのように喜んだ。


 「感染拡大の終息は、まだ先かも知れません。しかし、この大悪を必ずや大善に変えていきたい。私たちは、それを成し遂げることができると信じています」


医学生 ダニエーレ・ロッフレードさん
一人じゃないから闘える
 【ミラノ】突然だった。病院から「24時間態勢での勤務になる」と告げられた。
 ダニエーレ・ロッフレードさん(29)=州男子学生部長=は、新型コロナウイルス感染症患者の集中治療室が担当になった。
 臨床分析の研究員と看護師の経歴がある彼は医大生。学費と生活費のために、週末だけ循環器内科の看護師として働き、苦学していた。しかし、この緊急事態で生活は一変した。
 連日、増加する感染者数と死者数。イタリア国内で伝えられる報道で当初、恐怖と不安に心が覆(おお)われた。「甚大な感染リスクに身を置くことになる。そんな状況で冷静な判断ができるだろうか。自分に患者の命を救うことができるだろうか」
 勤務先に足を運ぶと、同僚も同じ思いを抱いていた。それでも、自分たちがやらなければならない。命を救うために。
 
 一分一秒を争う緊迫した医療現場は、まるで戦場のようだった。極度の緊張の連続。交代で睡眠を取る時も、なかなか寝付けない。不安が頭を離れない。「ちゃんと手を消毒したか? その手で顔を触っていないか? もしも誤ってウイルスに感染していたら……」
 恐怖心に打ち勝つために祈った。池田先生の『開目抄講義』で学んだ地涌の菩薩の使命と誓願の生き方。それを思い出した。勇気が湧いた。
 医療用ゴーグルやマスクで覆われているため、互いの顔は見えにくい。しかし、笑顔を心掛ける。ほんの一言でも思いは伝わることを知り、緊急事態の中で同僚と強い絆を結ぶことができた。
 「人は一人では生きていけないことを痛感しました。この経験は、きっとかけがえのないものになると思います。池田先生の励ましに支えられ、同志の題目に守られていると感じられる今だから、はっきりと言えます。『一人じゃないから頑張れる』って」​​​


(2020年5月9日 聖教新聞)







Last updated  2020/05/09 01:07:33 PM
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2020/05/06

​〈危機の時代を生きる〉
米ジョンズ・ホプキンス大学 公衆衛生大学院 ジェレミー・シッフマン教授に聞く
途上国での感染抑止と医療支援を
 米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、新型コロナウイルスの感染者数は全世界で360万人、死者は25万人を超えました(5月5日時点)。WHO(世界保健機関)は、中南米やアフリカでの感染拡大が懸念され、パンデミック(世界的大流行)は「終息には程遠い」としています。感染者数が世界人口の25%から30%に上ったとされるスペイン風邪の流行以来、100年に一度の危機に国際社会はいかに立ち向かうべきか――。同大学の公衆衛生大学院と高等国際問題研究大学院で、国際保健政策を研究するジェレミー・シフマン教授にインタビューしました。(聞き手=樹下智記者)​


 ――米国では感染者数が118万人以上、死者は約6万9000人となり、ともに世界最多です。
 私は疫学者ではありませんから、政治学者として所感を述べると、米国の感染拡大が深刻になった要因の一つは、政策担当者が感染症の専門家の意見を軽視したことだったのではないかと考えます。もちろん全員ではありません。私が住むメリーランド州の州知事は、専門家の見解に基づいて政策を決定しています。一方、政治的な圧力に反応し、専門家の指摘を採用しない州知事がいることも確かです。
 今回のコロナ危機に際し、専門家ではない多くの人がメディアに露出し、感染症との闘いについて“ああすべきだ”“こうすべきだ”と騒ぎ立てています。トランプ大統領が、新型コロナウイルスの感染者への治療法として「消毒液の注射」を挙げ、問い合わせが殺到し、実際に洗浄剤を誤用する人がいる状況は、その最悪の例です。必要なのは、国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長のような、科学的な根拠をもとに本当に何をすべきか提案できる第一人者の声を、全ての人が聞ける機会をつくることです。


 ――教授は一方、専門家も科学的根拠を示すだけではいけないと指摘されています。
 これまで途上国の医療体制の充実のために、専門医による政策担当者への働き掛けを支援してきました。多くの専門家は、科学的根拠やデータを示せば十分だとする傾向があります。もし人々が耳を傾けなければ、それはその人たちの責任であると考えてしまうのです。
 しかし社会科学の研究が示すのは、証拠やデータは絶対に必要ですが、政策担当者や人々の行動を変えるには不十分であるということです。人々がどのように現状を捉え、どのような悩みを抱えているのか。その心に寄り添う努力がなければ、根拠やデータも行動変革にはつながりません。ですから、専門家だけではなく、正確な情報を、人々の心に届く形で伝える役割を担う人たちも重要です。
 日本では、専門家の意見を尊重する傾向が強い。それは感染症との戦いでは必要なことです。日本の皆さんには、米国社会の苦しみを経験してほしくないと切に願います。


「危機と怠慢の連鎖」を断つために
 ――教授はジョンズ・ホプキンス大学のウェブセミナー「新型コロナウイルス感染症との闘い――東アジアからの政策的教訓」で、「危機と怠慢(たいまん)の連鎖(れんさ)」を終わらせる重要性を主張されました。
 2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、09年の新型インフルエンザ、そして今回の新型コロナウイルスの世界的流行へと続く、国際社会の対応の経過を観察すると、流行が終わって危機感が薄れ、次の危機への準備を怠(おこた)り、また危機を迎える「連鎖」が見られます。危機が終息(しゅうそく)した時こそ、「次の危機」の準備をすべきです。
 SARSを経験した台湾や香港は、その危機を真剣に捉え、今回の新型コロナウイルス対策の準備ができていました。15年に中東呼吸器症候群(MERS)を経験した韓国もそうです。米国とは初動の対応が違いました。東アジアの多くの国々や地域は、他より、政府も社会も、新型コロナウイルスにうまく対応できているように見えます。
 この「危機と怠慢(たいまん)の連鎖」に終止符を打つには、国内の国民意識と制度改革のみならず、多国間の協調と、国際的な保健機関の強化が必要になります。情報の透明性や科学的根拠に基づいた対策の検証は不可欠ですが、特定の国や団体、または人物を「スケープゴート(いけにえ)」として批判するだけで、協調体制を後退させては逆効果です。


 ――今後、途上国における新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されています。
 先進国であれ途上国であれ、全ての人の生命は平等に価値があります。
 「ソーシャルディスタンス(社会的距離)」の政策は必要不可欠ですが、人によって影響が違う。米国は貧富の格差が大きく、多くの人が経済的な損失を被(こうむ)って大変なことになっていますが、耐えられる人もいます。途上国では、新型コロナウイルスの感染拡大で深刻な貧困(ひんこん)に直面し、感染症よりも飢餓(きが)で亡くなる可能性が高まっています。
 今回のコロナ危機で陰に隠れていますが、世界では今この瞬間も、マラリアやエイズで亡くなる人が大勢います。麻疹(はしか)のワクチンが接種できなくて助からない子どもたち、医療体制が脆弱(ぜいじゃく)なため亡くなってしまう妊産婦がたくさんいるのです。コロナ危機の影響で、こうした途上国の人々の命を救う、国際医療体制の能力が低下していることを忘れないでほしい。
 だからこそ、自分たちの命を守るためにも、コロナ危機の一日も早い終息のために、国際社会は協力しなければなりません。WHOへの支援も含め、日本にはその主導的な役割を担ってもらいたい。今、自分自身を、大切な家族と友人を、新型コロナウイルス感染症から守る闘いは、救えるはずの世界中の人々の命をも救うことにつながると信じてほしいのです。


 <プロフィル>

Jeremy Shiffman 1999年、ミシガン大学で博士号を取得。途上国の保健政策、国際保健ネットワークを研究。アメリカン大学教授を経て、2018年、公衆衛生の分野で全米トップを誇るジョンズ・ホプキンス大学「ブルームバーグ公衆衛生大学院」に特別教授として迎え入れられた。同大学・高等国際問題研究大学院の教授も兼任する。


(2020年5月6日 聖教新聞)







Last updated  2020/05/06 01:25:36 PM
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