「飲酒運転できないクルマ」の開発はなぜ「無駄」なのか。
みなさん、こんにちは。 またしても間が開いてしまいました(^^;。 その間、埼玉県川口市で痛ましい事故が起こってしまいましたね。ドライバーは「助手席に置いたカセットのテープを入れ替えようとして脇見をした」と供述しているそうですが、通常、そういうことをする前には前方の安全を確認するはずで、現場の状況を考えれば、30人以上いる園児の列は、100mぐらい離れていたって発見可能なはずです。別の供述「渋谷や池袋で遊んだ後、戸田で仮眠して帰る途中だった」ということから考えると、居眠り運転だった疑いが非常に強いです。 さて、標題の件。そろそろ業界人のコメントや論評も出揃って来たようですね。 この件でまず考えなければならないのは、「飲酒運転は故意犯であり確信犯であり、多くの場合常習犯である」ということです。だからもし仮に、標題のようなクルマができたとしても、常習的な人は絶対に買いません。 では、義務化すればどうか、というと、これも「悪質な人ほど抜け道を考える」と想定するべきです。しかも、現在、検討されているような「呼気中のアルコール濃度を検知してエンジンがかからなくする」というシステムでは、破るのは簡単です。 ぼくが飲酒運転常習犯なら、ビーチボールか自転車の携帯用空気入れを用意するでしょう。そして酒を飲む前にビーチボールをふくらましておき、たらふくのんだ後は、飲酒検知器にビーチボールの空気を送り込むか、自転車の空気入れをシュッとやってエンジンをかけるでしょう。 もっと簡単なのは、酒を飲んでいる間、エンジンを切らずにアイドリングさせておくことです。これでは防止装置の出番などありません。 また、「××しなければエンジンがかからない」というシステムでは、別の問題が発生します。ぼくは信号や踏み切りで日常的にアイドリングストップを心がけていますが、そのたびに検知器をふーふーしなければならなくなったら、たぶん面倒でアイドリングストップなどしなくなるでしょう。宅配屋さんも困るでしょうね。 というわけで、「呼気中のアルコールを検知する」または「××しなければエンジンがかからなくする」という方法では、悪質な人にはまったく効果が無いことがわかると思います。 あるいはこうした装置を今後の新車に義務づけたとしても、常習者が検知器の付いていない古いクルマに乗ってしまえば意味がありません。検知器が付いていないと車検を通らないようにして、古いクルマに強制的に付けさせるという方法もありますが、「後から付けられる」ということは「簡単に外せる」ということと表裏一体なんですね。 そこで考えられるのは、「飲酒運転特有の運転操作のムラを検知して、徐々にエンジンの出力を下げ、最終的に止めてしまう」ということです。ついでに装置が作動した段階でハザードランプを通常の2倍の速度で点滅させれば、端から見ても飲酒車両であることがわかりますし、路上で止まったときも後続車に危険を知らせることができます。 ハードウェア的には、最近、流行の姿勢制御装置(ESPとVSCとかVSAとかVDIMとかメーカーで呼称はバラバラですが)の加速度センサーや操舵角センサーを使えばできるでしょうから、そういう装置のついているクルマならコストアップにはなりません。 問題なのは「飲酒運転特有の運転操作のムラ」というのをどの程度正確に把握できるかということです。何かが飛び出してきたのを回避した操作でこの装置が働いてしまっては、わずらわしくて使い物になりませんからね。車内のアルコール濃度と併用したとしても、センサーを塞がれちゃったら終わりです。 さらにこの方法では、ある程度は走れちゃいますから、その間に事故を起こす可能性は排除できません。古いクルマには後付けできないし、新車でも「価格が勝負の軽トラックにまで付けなきゃならないの?」という問題も出てきます。 それに飲酒運転はクルマだけの問題ではなく、原付きやスクーターだって可能です。常習者なら「クルマがダメなら原付きで行くか」ということになるでしょう。 つい先だっても、もとフォーク歌手が原付きで飲酒傷害事故を起こし、それを苦に自殺してしまいました。(まあ2輪車なら人を撥ねる前に自分がコケるかも知れないし、破壊力はクルマより小さいから被害の軽減にはなるでしょうが) というわけで、この件は残念ながら、ハードウェアに頼るというのは誤った解決策であり、そこにマンパワーを裂くのは無駄でしかないんです。さしあたってできるのは、厳罰化と法の抜け穴(逃げ得)をふさぐことと、周囲にも責任を負わせるようにすることぐらいしかないんですね。 今朝の毎日新聞にも「厳罰化しただけで事足れりとするのは無責任」などと頓珍漢なことが書いてありましたが、「それで事足れり」などと考えている人などほとんどいないはずです。技術に明るい人ほど「ハードでの対策は困難」ということがわかっていますから、トヨタの渡辺社長も「効果がわからず、導入の時期は明示できない」とコメントするしか無いんです。(飲酒運転が防止できなかった場合のPL問題も出てきます) しかもこの問題は、飲酒運転だけの問題ではないんですね。冒頭に上げた川口の事故はシラフでしたし、携帯電話運転も相変わらず減っていません。「クルマというのは、操作を誤れば人を殺す可能性のある凶器である」 ということを自覚しているドライバーが少なすぎるところに、根本的な問題があるんです。 となれば、過失であれ何であれ、人を殺してしまったら死刑になる可能性を明示してプレッシャーをかけるしかありません。(適用するかどうかは、事例別に裁判で決めていけば済むことです) 残念ながら、この件に関してはぼくにも有効な解決策を提示することはできません。 ひとつ、方法があるとすれば、AT限定免許の全廃と、AT車を体の都合でクラッチ操作のできない人限定にするということです。常にクラッチとトランスミッションを操作しなければならないとなれば、酩酊状態では発進すらおぼつかなくなるでしょうし、携帯電話を持ちながら運転するのは困難になるでしょう。 ま、実現することはありえないでしょうけどね(--;。