人の学習能力は素晴らしく優秀で、何度か経験すればパターン化されて先読みして行動できるのです。だから例えば物語の展開なども、予想がついてしまうわけなのです。しかし、いつもそのパターンの先読みが当たるとは限らないのです。
『マスカレード・ホテル』はベストセラー作家東野圭吾の新作です。主人公はベテランホテルウーマン山岸尚美、彼女は上司から緊急の呼び出しをされます。そこで彼女は、ホテルで事件がおこる可能性があるので刑事を潜入させる、その教育指導係をして欲しいと言われます。しぶしぶ承認する彼女、しかし、彼女の前に現れたのは、接客業にはほど遠い男でした。やがて明らかになる事件の全貌、それは想像を絶する連続殺人事件だった‥‥。
ホテルが舞台のミステリーです。ホテルが舞台と言えば、私は石ノ森章太郎のマンガ「HOTEL」を思い出します。で、この『マスカレード・ホテル』のいくつかのエピソードが「HOTEL」のエピソードと似通っているので、読み始めてまず思ったのが、これって「HOTEL」の焼き直しではないか、東野圭吾もネタがつきたか、ベストセラー作家も落ちぶれたもんだな、とかなり冷ややかな評価をしておりました。特に、冒頭のホテルの客とのやりとりが繰り返されるところでは、想像した通り予想通りの話の進み方だったので、作者との推理合戦で勝ったような気分で読んでおりました。物足りないなどと思っておりました。ところが、この若干、緩慢な前半を過ぎて後半、一気に話が加速、クライマックスまで畳み掛けてきます。そして、その加速する事態にも予想通りに進むので、完全にしたり顔で読んでいきましたら、最後で脳天に一撃を食らうような犯人と結末、やられた! と思わず声を上げてしまうくらいでした。完全に騙されました。これは作者がある程度読者が先を読んでくる事を、始めから意図して構成したのでしょうが、しかし、推理小説作家がよくやる読者に対するミスリードが一切なし、正々堂々と物語を書いているので、なんで気がつかなかったんだろうと悔しくて仕方がありません。面白かったけど、実に面白くないです。こうなった以上は映画化希望です。山岸尚美は真木よう子でお願いします。