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すずめ、月へ飛ぶ

すずめ、月へ飛ぶ

失恋で髪を切る男・Aさん

以前、飲食店でアルバイトをしていた時に、隣のお店の社員さんだったAさん(男性・当時25歳)と出逢った。

隣のお店とは言えども、経営している会社は同じであった為、厨房はつながっていて、たまにAさんともお話しする機会があった。

とは言えどもホントに挨拶程度。
なのに突然旅行に誘われたりして、距離感のない人だなとちょっと驚いていた。

季節は秋。
私は同じ店で働いていたアホの美少年とディズニーランドに行ったのだが(17時間耐久レースの日記の彼)、その彼が周りの人達に、二人でデートした事や、手を繋いだ事などを話してしまっていた。

そしてAさんに呼び出された。

いきなり手を繋がれた。
「あいつが繋いだなら俺も・・・」
ここにもアホがいたかとびっくりした。

それから何度もそのAさんに、色んなところに誘われたが全て断っていたのだが。
ある日Aさんは。
休憩中、向かい合う席になってしまった私に、
「よーし、俺のホントの気持ちを見せてやる」
と言い。
ロッカーから自分のカバンを持ってくると。
テーブルの下から何かを差し出す←下から、というのがまたエロい。

それはまさしくも。
ラブレター。

断ろうと決めた私はその手紙を、
家に持ち帰り、即座に捨ててしまった。

断ると決めた以上は、そんなものを自分の勲章のように取って置くのは失礼だし。
彼としても、恥ずかしいから取って置かれたら困るだろうと思ったのだ。

そして数日後。
夕暮れの駅のホームで、
Aさんは私を待っていた。

はっきりとお断りして。
申し訳なさそうにうつむくと、何故かAさんは私の肩を抱き寄せる。何故????

「私には今、好きな人はいませんが。今後もし、誰かを好きになるとしても、それは100パーセントあなたではありません、絶対に」
ひどい言い方だと思うが、はっきり言わないとダメだと思ったのだ。

彼は「送るよ」といい、私の乗り換えるホームまで送ってくれた。

別れ際に彼はため息をつき。
「わかったよ、じゃあ、待ちましょう(フウ)」
・・・え?何ですと???
思わず、
「いえ、待たなくて結構です」
と、サラリと即答で答えてしまっていた。
彼は青ざめると、突然きびすを返し走っていった。

次の日、彼は会社を休んだ。

そして次の日。
彼は髪を切ってきた!

「いやあ、俺、失恋しちゃってさあーーー」
彼は明らかに私を睨みつけながらそう叫んだ。
「お前、Aの事振ったんだってな。可哀相に、あいつお前のせいで髪まで切ってさ・・・」
何人の仕事仲間にそう言われたか知れなかった。

そしてその日の休憩時間。
多分わざと私とAさんを同じ時間に入れたのだろう。
休憩室にAさんが一人きり。
とても気まずい沈黙の中で、突然Aさんが電話をはじめた。

「あ、もしもし、俺だけどさ。 俺、失恋しちゃったんだよね!だからムカツクからさ、憂さ晴らしに焼肉でも付き合ってくれよー。 まじでさ」

ま、また私を睨んでいる。
しかもそんな大声で。
ひえーーー。
私は下を向くしかなかった。

彼は電話を終えると余裕を見せてか。
「これ、食う??」
って自分のサラダを私に差し出すが、
「や、結構です」

・・・。
再びの沈黙。
そしてAさんは言った。
「ああ、あれさーーー、あれ。あれなんだけど。いらないし捨てちゃってくれるーーー???」

あの手紙の事だとピンときた私は。

「あ、はい。もう捨てました」

その瞬間、彼はイスを蹴り上げ出て行った。
彼は泣いていた、ように見えた。

私なりの誠意だったのに・・・。


その後私はバイト先の人達から「冷たい女」と言われ、強い風当たりに耐えるはめに陥った。


しつこいようだけれど。
私なりの誠意だったんです。
ホントです。




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