私の好きな詩

2006/02/01(水)22:03

『結接蘭・破接蘭』-寂しいサソリ-(11/12)

続物語(122)

あと、射手座のクルスが手に入ると、すべて揃いますが、 今日はもともとテスが持っていた蠍座のお話。 「きゃ~、久しぶり~。」 中華料理店の厨房を覗き込んで、うれしそうにテスが言った。 「お!テスか!」 頭にタオルを巻いた、威勢のいい若者が答える。 また、自分以外には愛想がいいテスのことを、 タイミルは横目で見ながら、 何の料理を注文しようかと考えていた。 席につくと、 当然のように酢豚を頼んだテスが、はずんだ感じで 「幼馴染なの。」 とうれしそうに説明する。 ここはテスが生まれ育った村で、 長い旅の途中、近くまで来たついでに寄ったのだった。 「随分仲よさげだな。」 あからさまな嫉妬が伝わらないように気をつけてそういってみる。 幼馴染、嫌な言葉だ。 タイミルは以前の婚約者のレナ姫も、 幼馴染のもとへと帰っていったことを思い出している。 「兄弟みたいにして育ったから、  あたし他に家族っていないしさ。」 タイミルはチャーシューメンを、 テスはパイナップル入りの酢豚を食べた。 湯気が上がっていてとてもおいしかった。 暗闇の中にキラリと光るクルスを、 幼いテスは見つけてしまった。 よく一人で遊んでいた森のすみっこで、 木の根の奥にできた空洞の中、 なぜかそこには綺麗な首飾りが、 空中に浮いているように見えていた。 手をのばしても、届いているはずなのに手触りがなく、 夢中になって、細かくたれさがる根をかきわけた、 全身が土まみれになって、 日がすっかり暮れてしまった頃、 やっと掴んだそのクルスを首にかけると、 得意げになって家に帰ったというのに、 自慢すべき家族の姿はそこにはなかった。 自分以外のすべてが火の海の中、 燃えてしまっていたのだ。 畑仕事をしている婦人にクロッテスは、 「おばさんただいま!」 と声をかけた。 幼馴染の母親でもあるその人は、 テスの親代わりになって育ててくれた人だった。 「まぁ、あんた!いい男捕まえたわね!」 背の高いタイミルの姿を見て、彼女はそういった。 「違うわよ。やーねー。」 やーねー。なんて同意を求められてもタイだって複雑だ。 「おばさん、あたしもう行くけどまたね!」 近くには行かないままで、大声でそうつげる。 「テス!」 答えるおばさんも大声だ。 「いつでも帰ってくるんだよ!」 声では答えずに、テスは両手を広げて大きな丸をつくってみせた。 「よかったのか、もっとゆっくりしなくて。」 あまりにもあっさりとしたテスの態度に、 タイミルが質問をした。 「いいのよ、別れが辛くなるだけだし。」 「だけどお前・・。」 「あんた男のくせにうざい。」 「・・・。」 テスの口の悪さは、 もしかするとさっきの婦人のせいなんだろうか。 「あと一個クルスが揃ったら帰るからさ。」 言い返さないタイミルを気づかってテスが言った。 「なにが望みなんだ?」 歩きながらタイミルが聞いてみると。 「期待なんてしてないわ。  ただ、ほら、やっぱりねって言いたいだけ、  神様なんていないのよって、 ちゃんと自分で納得してわかりたいの。」 テスは自分の首にかかっている複数のクルスに手を触れた。                      scorpio-結接蘭・破接蘭-   →    

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