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ロマンチック中年男の独り言 DVDレビュー、収集物、趣味全般、日々想うこと

ウサギの旅


ウサギの旅 wrote by aosaga369



ウサギは北に向かって旅をしている。
なぜ北か、傷心旅行は北行きと決まっている。
ウサギは心に傷を負って旅を続けている。
足取りも重く、今日もウサギは北に向かって歩き続ける。




故郷を出てからどのくらいたっただろう。
出発の頃はまだ暖かったお日様がいつのまにか、
強くきびしい光にかわり、それもだんだんと傾いて、
近頃は風が冷たくなってきた。

自慢の毛皮もずいぶん汚れて、迷彩服のようだなと思った。
「このまま戦争に行ってもおかしくないな。」
「戦場で人殺しするのも、お似合いかもな。」
ウサギがつぶやいた。




まだ学校に通っていた頃
先生が性善説と性悪説の説明をしていた。

ウサギはひとの本性はどちらだと思うかと聞かれて、
「生まれたばかりの赤ん坊は白い状態だけど、」
「大人になるに従って、世の中のホコリに汚れて、」
「だんだん黒くなっていくのが運命だ。」
と答えた。




ウサギには友達がいた。
一番大事な友達だった。
いつもいっしょにいて
友達がいない人生なんて考えられなかった。

ところがある日突然友達はいなくなった。
事故だった。
ウサギの目の前で起こった事故だった。
その日からウサギは笑わなくなった。

まわりのひとたちはウサギを疑った。
でもウサギはいいわけしなかった。
ウサギは目の前で友達を亡くしたことに責任を感じていた。

裁判でウサギが殺したことになり、刑務所に行った。




「今日はこの辺で寝よう。」
大きな木の根元で横になった。
歩き疲れた体が鉛のように重かった。

「世の中不公平だ。」
「幸せな人もいれば不幸な人もいる。」
「金持ちもいればビンボウ人もいる」
「しかし死だけが誰にも平等に訪れる。」
「金持ちにもビンボウ人にも、必ず死が訪れる。」
誰かがしゃべっている。
知っている顔のような気がするが、
思い出せない。

そこで目が覚めた。
夢を見ていた気がするが、覚えていない。
しばらく忘れていた友達の顔が浮かんだ。
それもすぐに忘れて、
ウサギはまた北に向かって歩き続ける。




刑務所の暮らしは決して辛いモノではなかったが、
孤独な生活は友達のことをイヤでも思い出させた。
夜はすることもなく、いつまでも暗い天井を見つめていた。

刑務所をまじめに過ごしたウサギは
予定より早く出ることになった。
刑務所から出たウサギは故郷に帰ったが、
ウサギの居場所がすでにないことに気づくのに、
時間はかからなかった。




旅の途中ウサギは教会に立ち寄った。
ただ歩き疲れた体を休めたかっただけだった。
教会の奥にその神様ははりつけになっていた。

「主は私たちの身代わりになったのです。」
奥から黒いローブの神父が出てきた。
「私たちすべての罪を背負って、」
「主は行かれたのです。」

神父はウサギに問いかける。
「お話しなさい。」
「あなたの罪はすべて主が背負ってくださいます。」
その時はじめてウサギは気づいた。
友達を助けられなかったことが
ウサギの罪だったのだと。




刑務所から帰ったウサギに、故郷のひとたちは冷たかった。
通りを歩いていても、すれ違う人は目をそらす。
話しかけても、皆うつむいて足早に去ってしまう。

友達の家にも行ったが、誰も会ってくれなかった。
生まれ育ったこの土地にもう居場所はないのだと思った。
ウサギはわずかな財産を処分して、旅に出た。




ウサギは今日も旅を続ける。
お日様の光も弱くなり、
吹く風も冷たくなって、つらく感じるようになった。
風が行き先に立ちふさがり、ウサギの足取りを重くしていた。

もうあたりは暗くなっていた。
見渡す限り地平線で、寄る辺もない平原だった。
「穴を掘って寝よう。」
疲れた体でウサギは穴を掘った。
全身が隠れるほどの穴を掘ると、
潜り込んで、集めた枯れ草を
ふたにしてその日は何も考えずに寝た。




静かだった。
でも目が開けられないくらい光にあふれている。
その光の中に友達の顔が浮かんでいるような気がした。
その顔は笑っているようだった。

ウサギは目を覚ました。
また夢を見たようだが、思い出せない。
あたりは静かだ、風の音さえ聞こえない。
ただ外がやけに明るかった。

穴から顔を出すと理由が分かった。
あたり一面雪が積もって真っ白になっていた。
きたないもの、みにくいもの、
すべてを覆い隠して、世界すべてを真っ白にしていた。
見渡す限りの白い世界はまぶしかった。
雪に覆われてすべてが輝いて見えた。

「雪は金持ちにも、ビンボー人にも平等に降り積もる。」
「みにくいものを覆い隠して、すべてを真っ白に輝かせる。」
誰に言うでもなく、ウサギはつぶやいていた。

ウサギは穴からはい出した。
寒いとは思わなかった。
いつのまにか駆けだしていた。
真っ白な雪の野原を全力で走り回っていた。
ウサギの顔には笑みが浮かんでいた。
友達が死んでからウサギは初めて笑った。




その日は雪の中で何とか食料を探して、
穴の中でもう一晩を過ごした。
体がムズムズするのを感じたが、
久しぶりに気持ちよく眠った。




目が覚めると、昨日と同じ一面の雪景色だった。
今日も風音一つしない、しずかな朝だった。
体が軽く感じた。
手を見ると、白い。
慌てて体のあちこちを見た。
あんなに汚れていた毛皮が
全身真っ白な雪毛に生え替わっていた。

「あなたの罪はすべて主が背負ってくださいます。」
神父の言葉が不意に浮かんだ。

涙が出た。
友達が死んだ時も出なかったのに、
涙が出た。
いつまでも涙が止まらない。
「神様…、」
涙でそれ以上言葉にならなかった。

ウサギは泣いて、心が軽くなったようだった。
今までの汚れた毛が抜け落ちた以上に
ウサギは軽く感じた。
穴から出るとウサギは歩き始めた。
汚れた毛がすべて生え替わって、
真っ白になったウサギは南に向かって歩いていた。




ウサギがこの後どんな風に生きたのか、
誰も知らない。
ただこのときウサギはずいぶん泣いたので、
ウサギの目は赤くなってしまったのかもしれない。

終わり

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