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ロマンチック中年男の独り言 DVDレビュー、収集物、趣味全般、日々想うこと

耕一の災難


耕一の災難 wrote by aosaga369




「やべっ、寝過ごした。」
目覚ましを見ると、すでに8時前だ。
ユキはまだ隣でのんきに寝息を立てている。

耕一は歯も磨かずに、急いで着替えると、部屋を飛び出し、駅まで全力疾走した。
駅まで5分、新記録だった。ホームに向かう階段を駆け上り、駆け下りると
すでに到着していた電車に飛び乗った。

「9時過ぎには会社に着けるはずだ。」
この電車なら、遅刻は免れないが、たいして遅れないと耕一はホッとした。
さんざん走って荒かった息が落ち着くと、前に立つ女性が目に入った。




女性は体の左側を耕一に密着させて、ドアの窓から外を見ている。
20代半ばくらいだろうか、ストレートのロングヘアが美しく、
すっとした鼻筋のしたには、小ぶりだがぷっくりした唇がちょっとセクシーだ。
最近はやりの光沢のあるリップを使っているせいで、ふくよかな唇が強調されている。

「仲間由紀恵に似てるかも(笑)。ラッキー。」と頭に浮かんだ。
耕一は視線を下げると、女性の胸元が目に入った。
開いた胸元の奥から、ブラがのぞいている。

「この仲間由紀恵は巨乳系か(笑)。」と思った。
しばらく視線をそらすことができずに、耕一の顔は自然にゆるんでいた。

突然女性が耕一の方を向いた。
ゆるんだ笑みを浮かべていた耕一だが、バツの悪さについ寝たふりをした。

おそるおそる目を開けると、女性がこちらを向いて笑みを浮かべていた。
その美しい笑顔に、つい引き込まれるような気がした。
女性は耕一に声をかけようかどうしようか、躊躇しているようにも見えた。

「○○○○~、○○○○~。」
その時、駅名を告げるアナウンスがして、電車はホームに滑り込んだ。
ドアが開き、耕一も女性も流されるように電車の外に押し出された。
ホームに立った耕一はまわりを確認したが、先ほどの女性はもういなかった。
あるいはこの駅で降りたのかもしれない。




思いがけない美女との接近遭遇が、
ほんのわずかな時間で終わってしまったことがチョット惜しかった。
がすぐに耕一は押されるように電車に詰め込まれていった。
今度は出口に近いつり革に掴まることができた。

目の前には女子高生らしい女の子が座っている。
耳の後ろあたりの両側をゴムで止めた、ツインテール系だった。
赤いリボンのセーラー服にチェックのミニスカート。
ミニスカートからは健康そうなナマ足がすらっと伸びている。

「こんどはお菓子系か(笑)。」
まつげの長い美少女だった。
両側で結んだ髪が、少女の丸い顔を強調しているようだ。
そしてまだ幼さの残る面差しと対照的なナマ足のまぶしさがイヤでも目についた。

「やべっ、あんまりジロジロ見ちゃまずいだろ。」と我に返って、
耕一は意識を反らそうと目を閉じた。

「プッ、きゃはははっ!」
少女の笑い声に、耕一はハッとなった。
どうやら居眠りしていたようだ。
こちらに笑顔を向けている少女の顔が目に入った。

「かわいい笑顔だな(笑)」と素直に思った。
耕一も誘われるように、知らずに笑みを浮かべていた。

「ネー、お兄さん(笑)、狙ってるの?」
少女が楽しげに声をかけてくる。

「オレに言ってるんだよな。」
耕一は左右をを見ながら、心の中でつぶやいていた。
「狙ってるって?」と耕一が声をかけた時に、
「△△△△~、△△△△~。」
と駅名を告げるアナウンスがして、電車はホームに滑り込んだ。

耕一はまた押されるようにホームに出されてしまった。
さっきの場所に戻ったが、少女は居なかった。
彼女もこの駅で降りたのだろう。




さっきの少女といい、その前の女性といい、何か変だ。
電車通勤で今までこんなことはなかった。
しかし耕一はその理由に全く見当がつかなかった。
電車は、いつものように耕一を会社に向かって運んでいる。

電車が大きく揺れて、耕一は隣の男性に寄りかかっていた。
「んん」
野太い声が、すぐ横から聞こえた。
ちらっとのぞき見ると、パンチパーマでサングラス、やけに体格もいい。

「ヤバイ、あっち系の人か。」耕一は震え上がっていた。
「早く駅に着いてくれ」目を閉じて祈っていた。
男が耕一の方を見ているのが雰囲気でわかった。
「寄りかかっただけじゃないか、頼むから早く!」
ほんの数分のことだったが、耕一は生きた心地がしなかった。

「◇◇◇◇~、◇◇◇◇~。」
「やっと着いた。」ホッとした耕一は、あるいは声に出して言っていたかもしれない。
電車から出た耕一は急いでその場を離れようとしたが、
「おい、オマエ!」とさっきと同じ声が追いかけてくる。

知らん顔して、行ってしまおうと早足になったが、
混んだホームではなかなか前に進まない。

「おい!」と声は近づいてくる。
「何で追ってくるんだ。」耕一は焦った。

ホームの端近くで、すぐ後ろから「おい!」と声をかけられた。
耕一は観念して振り返ったが、足がもつれて、景色がぐるっと回った。
耕一の体は線路に落ちていた。

「いて!」
顔を上げると目の前に電車が迫ってきている…。
耕一の意識は遠ざかっていった。




「よかった~(笑)。」
目の前に、目に涙を浮かべたユキの笑顔があった。
やけにまぶしいと思ったが、病院のベッドだった。

「この人が助けてくれたんだよ。」
さっきの男が笑顔で立っていた。
「危なかったな。」
野太いが、優しさをにじませた声で言った。
男は山下だと自己紹介した。

耕一は男がしゃべるのを黙って見ていたが、
そのサングラスをとった笑顔がやけにかわいくて、
吹き出しそうになるのを必死でこらえていた。




「耕一が駅でケガしたって連絡もらって、急いで来たんだよ。」
「電車が耕一の落ちた線路に来てたら、危なかったって。」
「隣の線路でよかったね(笑)。」
「打撲だけだから、すぐに退院できるって。」

「意識を失う前に見たのは隣の線路を走る電車だったんだ。」
と耕一は今自分が無事だった訳を理解した。




「ゴメンね。そのまま外に行くなんて思わなかったから…。」
「山下さん、耕一に恥かかせると悪いからって、
ホームに出るまで声をかけなかったんだよ。」
「でもさー、その顔ちょっとウケるよ(笑)。」




ユキが鏡を持ってきた。
「片目つぶってみて。」
鏡には片目をつぶった、自分の顔が写っていたが、
まぶたには黒く大きな瞳が描かれていた。
もう一方にも同じような瞳が描かれていた。

耕一は今日の不可解な出来事の意味をやっと理解した。
「オレは芸人か!笑いなんか狙ってねえよ!」
少女の言葉を思い出して、つい口に出していた。

「えっ、なに、ホントにゴメンね(笑)。」

「なかなか目を覚まさないから、悲しくなって泣いちゃったんだけど、
耕一の顔を見るとつい笑っちゃって、ホント、ゴメンね(笑)。」

ユキがいつもの屈託のない笑顔を浮かべていた。

「目が覚めた時の…。」
あっけらかんとしたユキの笑顔を見ながら、
「ユキ~、ホントかんべんしてくれよ~。」
の文字がゴシック太字72ポイントで、頭の中を占領していた。



おわり

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この話はフィクションです。実在の人物とは全く関係ありません。


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