平成学童ドキュメント
【さよならを言えなくてごめんね】特別編
「 やめてザッキ~ それだけは!
泣く子も黙る学童裁判 」
後編
。
私が学童に来るまで
学童の子供たち(低学年)の気持ちをぎゅっと握っていたのは
彼らより3つ年上の豪ちゃん、その人だった。
勉強にしても 運動にしても 年上の豪ちゃんは 何でもこなせて
低学年の子からしたら 豪ちゃんは憧れの存在だった。
ただ 豪ちゃんが彼らのボスで居られたのは もう一つ 裏の手回しもあってね
豪ちゃんの親戚にあたる赤居ミキオなら その裏の手回し。。
なんだろうって 想像つくだろうけど・・・。
昔話の桃太郎が
猿やキジを仲間にするために キビ団子渡してたように
豪ちゃんも お家から 低学年の子が食べたくなっちゃうようなチョコ菓子とかスナックを持ってきて おやつ以外の時間に 学童の低学年の子にあげてたんだよ^^
そういう 賄賂があったから
豪ちゃんが道を外れたことしても みんなダメだよって言えなかったの。
私もね、
夏休みに そんな場面を横目でみてた。
ただ お菓子食べてる時の子供たちはお互いに突っつくこともなく・・
仲良く豪を中心に遊んでたからね?
このことで イチイチ怒ったりは 私はしなかった。
ところが 学童もんだい箱 最初の開封日・・。
ニタニタしながら 私の傍にやってきた豪。
豪はねぇ~ ドラえもんで言うところのジャイアンみたいな性格の子だったから(笑)
ま、少々乱暴なとこもあるけど 傷つきやすいピュアな一面もちゃんと持ってて・・。
まさか 日ごろ面倒みてる年下の子が 自分の悪口を書いていようなんて 思ってもみなかったから
自信気に もんだい箱から出てくる手紙を見ていたわけ・・・。
ところがね
1通目
゛しゅくだいをやってるときに ごうちゃんがぼくのノートにらくがきした どうにかして”
2通目
゛ごうちゃんがなげたボールが あたしにあたった やめるようにいって”
3通目
゛ぼくがあそんでたプラレールの列車をごうちゃんがけっとばした”
もんだい箱に入ってた手紙をひらくたびに
豪ちゃんの悪口ばっか書いてあったの・・・。
さすがの豪ちゃんも これにはキレた。
私が持ってた投書をいきなり引っ張りビリビリーっと目の前でちぎると
『ちっくしょーー!
だれぇ?! こんなの書いたのわー😡』
『ひどいよっ みんなそろって 豪ちゃんの悪口書いて~!』
あまりのリアクションに
その場に居た低学年は寄り添うように一塊になってブルブル・・・。
ふと学童の玄関みたら
他の学校より ちょっと下校が遅くなった準之介が立ってて・・
「ど、どうしたの?みんな」
「また豪ちゃん怒ってるけど。。。何かあったの?」 って。
おそらく豪にとって これは初めての経験だったと思うんだ・・。
彼はイイとこのご子息だからねぇ?
お家でも保育園でも 傷つけられることなく それまでホイホイ煽てられて過ごしてきた坊ちゃんでしょ? まっさか それが自分が面倒みてきた子弟に悪く言われるなんて 思ってもみなかったんだと思うんだ。
でもこれは
彼の人間的成長には大きく役立つと 私は心に思っていた。
さっき豪ちゃん、悪口書かれた紙きれを私の目の前でビリビリちぎってたけど・・
その時の彼の表情には 何か余裕っていうの?
こんなこと不自然に思うかも知れないけど・・ちょっと笑ってたんだわ彼(^_^;)
おそらくね・・・彼は今まで子分に引き入れてた学童っ子たちに本音言われたことなかったんだと思うんだ。 それが私が設置したもんだい箱を通して 知ったもんだから・・あいつらー!って怒りながら
嬉しかったんだと思う 本音で自分をいじってくれた彼らのことを。
だけどね・・ 演技とは言え すんごい形相で低学年の子睨んでたから?
みんな真に受けちゃって(^▽^;)
萎縮しちゃって何も喋れない状態になっちゃったの。。。
これじゃ~また 豪ちゃんの力でねじ伏せられて 彼らおとなしく言う事聞く生活に戻っちゃうなぁ・・。
せっかく互いに心を開けるチャンスなのに
子供たちだけに任せたらきっと 元の木阿弥で終わってしまう・・。
一体どうしたものやら?
そこで私は ひとつのパフォーマンスを思いついた。
私が間に入って 豪ちゃんの子分どもの声をきいてやろっ!
私は豪が目の前で破った手紙と 残る2枚の投書を子供たちの前におき
いつも豪と遊んでる子供たち一人一人に聞いてみた。
まず最初の手紙にあった 宿題中に豪ちゃんがらくがきしたって件・・
『なぁ?風
おまえは 自分のノートに誰かが落書きしてきたらどう思う?』
風:「ぶっとばす そんなことしたら」
『そうか・・じゃ~その相手が豪ちゃんでも ぶっとばせるか?』
スッと小さな眼を豪の方に向け その凄い形相に恐れおののく風。
じゃ
2通目のボールの件・・。
ノン、大がふざけてなげたボールがお前に当たったらどうする?
ノン:「えっと・・あたしもなくかもしれない。。
だけどね?ザッキ~・・
男の子って 時々ふざけすぎて そういうことすることもあるから。。
今度からしないでねって いう」
『なるほどね 男の子は時々ふざけちゃう・・・か。。』
『じゃ、ノン ボール投げた相手が豪でも ちゃんとその気持ち伝えられるか?』
私の問いに 思わず口をつむぐノン。。
じゃ
3通目のプラレールの件・・。
『準之介の遊んでた積み木を誰かが蹴っ飛ばして ダメにしたら どうするおまえ?』
「ぼくもノンちゃんとおんなじかな・・。
弟も家でそういうことやるから・・頭にきたとき。。
でもぼく またやり直すから ぜんぜん そのくらいで怒んないよ」
『そうか 準之介の弟は やんちゃなのか』
『豪が同じことやっても お前 弟みたいに思えるか?』
「そりゃーダメだよォ~ 弟はまだ4歳だもん 豪ちゃんは小学5年だよ?」
『そっかぁ~保育園の子がおもちゃ蹴っ飛ばしたら許せるけど豪が同じことしたらダメなのか。。』
「うん」
一通り 子供たちに 投書の件きいた後・・
私は法廷ドラマの裁判官のように テーブルの中央席に座り
『それでは これより 問題を起こした豪ちゃんの処分について
先生が2つの 判決を用意したので
みんな どちらかに手をあげてください。
それによって 今回の学童裁判の判決を決めたいと思います
泣いても笑っても これが最後です』 そう発した。
緊張したまなざしで 低学年の子の顔をみつめる豪ちゃん・・・。
はじめてみる複雑そうな表情だった・・。
自信家の彼が 面倒みてやった低学年に裁かれるのだから・・複雑に決まっている。
それではひとつめの判決
『たとえおふざけにしても今回の件は絶対ゆるせない!
海老沢園長に報告して 豪ちゃんを他の学童に入れてもらう
その判決がいいと思う人?』
この時の子供たちの表情・・・。
すごく興味深かった。
今だから白状するが・・
わたしはこの時、低学年の子たちの判断に
ある期待をこめていた。
強引な賭けではあったが・・
夏休みの間、彼らと過ごし 彼らの心に思いやりの心がちゃんと存在することを把握していたから・・。。
「ザッキ~
ぼくもうこんなのやだー
やめよォ?」
最初に口をひらいたのは 優等生の風だった。
空:「そうだよ ぼくもやだ
豪ちゃんがかわいそうだよ」
続いて言葉を発したのは風を尊敬する別学校の空・・。
いつも豪に虐められてる呈までもが
「まちがいはだれにでもある、つぎからイケナイことをやらないようにすればいいって・・
うちのかあちゃんがいってるよ?」
なんて言い出した。
さすがは名門 桃ノ木大学の教授たちの息子。
私が放り投げた 物議を人道で返すとは・・なかなかだ。
ほんとに将来が楽しみな子供たちばかりだ。
なーんか 私が一番 悪い人みたいじゃん(^^;)
『そうか・・
みんながそう言うんだったら
第1回目の学童裁判はこれで終結するよ
あとの事は みんなで話し合ってきめな?』
その場にいた低学年、みんなコクンとうなづいて
豪ちゃんのもとに寄っていった。
ひとりだけ・・・
あらまーやーねの準之介だけが私に
「ねーねー ザッキ~?
どうして裁判終わっちゃうのぉ?
もうひとつの判決って 一体何だったのか?
ぼく すんごく気になるんだけどぉー」
そう言いながら 私の右腕をぶーらんぶーらん揺らしていた(~_~;)
その後も
年を変え 被告人席に立つ子供も変えして
何度か学童裁判は行われたが・・
必ず誰かが涙を流すって伝説が 口伝えで触れ回って?
私が 『じゃ、学童裁判やる?』って法廷記録を取り出そうとすると
「やだーザッキー!それだけはやんないでー もうけんかやめるからー」 って・・・。
子供たち逃げ回っちゃって(^^;)
時には歌のおにいさんで培ったパフォーマンス力も 役立つものだなと^^
うちの腕白坊主たちを見ながら 笑っていた あの頃・・。
普通の学童指導員と預かり児の枠を超えてたよね・・。
ここまで子供たちの心に入っていく先生なんて きっとどこにもいないって我ながら思ってる。。
だって普通の指導員は そんな預かり児一人一人の成長考えて救いの手なんて差し伸べないでしょ?
そういう時間無いもの。たくさんの子を見なくちゃいけないんだもの・・。
普通は 下校した子供たちを施設に連れて帰って
おやつ食べさせて 外遊びに付き合って?
とにかく安全に過ごさせて保護者に手渡すって言うのが指導員の役目だから・・。
それだけで手一杯だと思う。
なかなか 子供たち間のトラブルに小一時間とか割いて
彼らの気持ちをきいてやってるなんて指導員は 居ないと思う・・。
私も 桃ノ木の学童離れてから 色んな指導員と子供たちの様子を傍ら見させてもらったけど・・
ザッキ~先生ほど 親身になって子供に付き合ってる指導員いなかったもん(^▽^;)
この子たちの為なら 自分はどうなってもいい・・。
それくらい 彼らの事が大好きでたまらなった。
どんなに怒っても 私の手をぎゅっと握って離さない子供たちを
何が何でも守らなくっちゃって・・。
こんな私の思いがね
ちゃんと豪ちゃんに届いてたこと・・。
凄くうれしく思ってる。
~終わり~