カテゴリ:雑記帖
きのふは寺田寅彦の手ぬぐいの蛇のはなしを書いた。
もうひとつ寅彦の蛇のはなし。 『丸善と三越』といふ随筆から。 丸善は書店。三越は百貨店。 三越の話の箇所にかうある。 「一階から二階へ人を運ぶためにエスカレーターを運転している時が ある。ある人は間違えてこれをライスカレーといった。これはあまり 気持ちのいい物ではない。あの手すりの上をすべって行くゴムの帯も なんだか蛇のようで気味が悪いと言った人もある。」 エスカレーターの帯の蛇だ。 しかもエスカレーターとライスカレーを間違へてゐる。 いいなあ。 おもしろい。 惜しむらくは「ある人」の話であつて、寅彦自身の感想でない点だが。 それにしてもあのゴムの帯が蛇に見えるかなあ。 でも人によつては何でもない物が気味悪かつたり、怖かつたりするものだ。 ぼくは小さいころ手すりではなくて、エスカレーターの階段が 吸ひ込まれていく時がこはかつた記憶がありますね。 寅彦の言葉。 「それはとにかく、われわれの子供の時分には、火の玉、人魂などを ひどく尊敬したものであるが、今の子供らはいっこうに見くびって しまってこわがらない。そういうものをこわがらない子供らを少し かわいそうなような気もするのである。こわいものをたくさんに もつ人は幸福だと思うからである。こわいもののない世の中をさび しく思うからである。」 (『人魂の一つの場合』より) 「こわいものをたくさんにもつ人は幸福だと思うからである。」 名言だとおもふ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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