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ハイキングまでの約1ヶ月、私達は会うことが出来なかった。 長期出張や妻との外出が重なり、週末時間を作ることが難しかったのだ。 それでもメールのやりとりは続いていたが、疎かになりがちだった。 春香さんのメールもトーンダウンしていたのが分かったが、仕方ないと思っていた。 約束の日、私達は春香さんの最寄駅に5時に集合の予定だった。 快晴で、空はすでに白んでいた。 私は車に乗り込み、待ち合わせの場所に向かった。 妻に山登りの話をしたのは2日前だった。 なかなか山登りの話が出来ず、ぎりぎりになってしまった。 私は自分で作った偽の山登り計画をもう一度頭の中でおさらいをして、妻に切り出した。 「私、起きないから自分で支度してね」とあっさり言われておしまいだった。 私は拍子抜けをしたが、リビングの至るところにジョギングの雑誌や山登りの本が おいてあったので、妻にはごく自然なことだったらしい。 『同僚』と行くということまで話をせずに終わってしまった。 「もちろん自分で支度するよ」 前日の夜はなかなか寝付けなかった。 初めての山登りに興奮しているのか、春香さんと二人で行くことに興奮しているのか 自分でも分からなかった。 寝られたのは2、3時間だったと思う。 それでも頭はよく冴えていた。 4時45分頃、私は駅の近くの駐車場に着いた。 5時を過ぎても春香さんは現れなかった。 30分を過ぎて、メールをしてみたが返信はこなかった。 その後10分おきにメールをしたが、1通も返信は来なかった。 春香さんは来なかった。 この計画はお流れになったのだ。 私はとぼとぼと駐車場に向かった。 家に着くと愛犬のショコラが尻尾をふりながら迎えてくれた。 私は別室で寝ている妻を起こさぬよう、そっと寝室に向かった。 「どうしたの?」 私が寝室に入ると妻が顔を出した。 「同僚が突然体調を崩したらしいので、山登りはなしになったんだ」 「あらら、延期になったのね。仕方ないわね。今日はゆっくり寝なさいよ」 私は頷いてパジャマに着替えた。 延期、ではないと思う。 不甲斐ない私に対する春香さんの決別の意思表明のように思えて仕方がなかった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Aug 6, 2010 10:41:38 PM
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