000000 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

漆黒の蝶

要らない。

ああ、そうかもしれないね
愛だってお金で買えるんだもの
心だってお金で買えるんだもの

だからこの世は消費者と加害者で構成されていて
傷付けられない人間から、いち早く処分されていく

ほら、見てよ
どうせこの細くて白い指だって
誰かを切り刻むために伸びてるんだ


そんな事ないと叫ぶ奴が居た。
そいつは大声で啖呵を切り、泣いて叫んで怒鳴り散らせと訴えた。
そういう事があってこそのナントカだと。
俺は恋人だのとかいう言葉を言えない人間だったから、君は実に馬鹿だな、と
心の中で大衆と同じように笑いながら、そうだね、と相槌を打ったのだ。
それを誰が酷い人間だというだろう。
それを誰が居なくなった方がマシだなんて言えるのだろう。
曖昧な人間だ、と自分で言って苦笑する。それくらいならまあ許せるだろうけど。

そして其奴の隣で、静かに静かに泣いてみた。
心の中では笑っていたのかも知れない。笑って、嗤って、狂うほどに。
それでも泣いたんだよ。静かに、静かに、可笑しくなるほどに。

「もしも君だったら、俺はスチール缶みたいに蹴ったくられて泥だらけにされて最終的にピアニッシモとか詰められる訳?
それでもいいよ。それでも俺にしていい事だったのなら。
でもさ、俺にして良い事だったのなら君にもして良いことなんじゃないの?
君だって弁当箱みたいに蹴ったくられて割り箸で穴開けられて砂まみれになって最終的にラップと離ればなれになっても良いって事じゃん」

「別の値札貼られても良いって事」

「そういう事じゃなくてさ・・」

君は別に、泣きそうでもなくただ淡々とどこかを見ていた。
それがどうした、というような態度に少しだけ見えていたのかも知れない。
だから俺だけ泣いて馬鹿みたいだって自嘲気味に笑ったり泣いたりを一人で繰り返していた。

「琥珀色にカーテンを染めてそのまま寝たりきりになった王様。
無責任と言われようと何だろうと王様は病気にかかってしまいました・・って言ったって偽善?」

「何それ。しょうがなかったって言いたい訳」

「そうじゃない・・いや。そうだけどさ・・でも、とにかくあなたの為の事だから」

ミキサーの話と同じように、小さな国の王様の話だってあんまり好きじゃなかった。
何というか、限りなく自分の中にあった蟠りが、憎悪や嫉妬なような気がしてまた泣けてしまった。
それは自分がとんでもなく醜い生き物だったから、とかそいう嫌悪ではなかった。
寧ろそれは可笑しくて、笑い出したい程度だった。
その涙が、一体どんな所から湧き出る感情なのかがわかなくてそれでも追求することはしなかった。
ただ君がやっぱり憎たらしく見えて、俺はまた逃げ出したいと思ったのだけれど。

「俺のためだったのなら、何でもかんでも詰め込められれば良かったのにね」

それはただ、俗に言うわがままとかいう奴なのかも知れなかった。
でもやっぱり同じ事だ。
俺のわがまま、君のわがまま。
して良いこともなければ、悪いこともないんだ。それはお互いに、お互いに・・。


だから本当は、もう何もかも辞めてしまおうかと諭してしまうつもりだったのに
逆になんとなくここで引いたら負けかなという雰囲気にされてしまったような気がして。
それでも下らない話をしながら、お前なんか、と心の中で言い続けていた。

お前なんか、お前なんか。
それでも好きだって言うのは、所詮俺の中の違う奴だ。

またそう言い聞かせて、終えるしかないのだろうけど。


「またね、なんていうなよ。こんなばりばり絵の具縫ったくられた缶なんて、リサイクルされないんだぞ」


半分冗談で、半分は本気だった。
本気率100%で言ったって、どうせ自分が虚しいだけだったから。
そんなのしてみないとわかんないじゃん、って君は言ったけど。
俺はやっぱりそれには同意できなくて。
だってしなくたって分かる事なんていっぱいあるんだし。
そっちの方が、分からないよ。
でも言わなかった。
またね、と手を振りながらも、心の中では全然そんな事なかったのと同じように。
寧ろ、もう会いませんように、だとか、滅びてしまえ、だとかそう思っていたって事と、同じように。


だから俺は逃走するしかない。
この指が、きっとまた自分と誰かを引き裂いてしまう前に。
言い訳なんてさせるなって、警報をならす奴も居るからさ。

ああ、言えよ。 弱虫だってさ。


そしてまた俺は、どこかのパーツが外れる音に耳を傾けたのだけれど。


Next


Copyright (c) 1997-2020 Rakuten, Inc. All Rights Reserved.