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漆黒の蝶

漆黒の蝶七周年記念。


「私と俺の昔話。」


昔の話をしませんか。
まだ私の髪が短かった頃の話。

昔の話をしませんか。
まだ俺の瞳が黒く澄んでいた頃の話。


世界を創ろうだ何て微塵も考え無かった頃。
電線の張り巡らされた空を仰ぎ、例えば、死ぬ前に何をしたいだとかと思っていた。

世界がただ黒いだけだと思っていた頃。
愛情不足の色が溢れた部屋で、今も昔も変わらない事なんか無いだとかって思ってた。


私も
俺も

歳を取る。
いつまでも幼く何ていられない。

今は幼い彼女もいう。

「いつか私もなるだろうか?産んだり刺したりするだろうか?」

幼さを棄てた彼女はいう。

「いつか私もなるだろうか?愛でたり微笑んだりするだろうか?」


「ねえ、君はどこに行ったの?」


昔の話をしませんか。
まだ私の意味が分からなかった頃の話。

昔の話をしませんか。
まだ俺の意図をつかめなかった頃の話。


例えばこれから先
いつか憧れたものになれなくたって。

例えばこれから先
突然思い知らされてしまったって。

厭わないと言ってよ。


「私は君に名前をつけた。」

「だけど俺はその名前を棄てたよ。」

「それも良いかもしれないね。私もそうしたから。」

「本当にそう。そうだね・・。」


僕らは蝶のようなものかもしれないね。
名前を変えなきゃ、姿を変えなきゃ進んで行けない。

それでも全てのメタモルフォーゼを終えてしまえば
後は死を待つだけなのかな。


「俺は君に逢ってしまった。」

「でも私は端から切って行ってしまったね。」

「それも良かったかもしれないね。俺だってそうしてしまったから。」

「本当にそう、そうかな・・。」

「俺が切ってしまったんだから。」

「本当にそう。そうだね・・。私も切ってしまっていたというのにね。」


不必要なものを切り捨ててしまわなくてはと。
誰に教わったワケでも無いのにね。


僕らは唄のようなものかもしれないね。
流れたなら流れっぱなしで、何処にも残ったりはしないんだし。

だから書き写してしまいたいと
頭を掻き毟ったりするんだよね。


それに何の意味があるの?と
誰の為になっていくの?だと

聞かれたとしたって答えられないし

ああ どうして私は無力なんだと
泣きたくなったりするけれど


「俺が存在する為にはそう、」


それの何が無意味なんだ?と
誰の為になっていくの?だと

もしも聞いてしまったとしても

ああ どうして俺はバカだっただろうと
泣いても許してくれないでしょ


「私が存在する為に?」


全てはそうであると
きっと言ってくれると信じていた。


「俺は消えてしまいたかったのかもしれないね。」

「私もそうだったのかもしれない。でもどうしてだろうね。」


どうして
両手を伸ばしたりしたんだろうね。

どうして
名前を変えてまで。


「分からないよ」

「分からなくていい」


ただ


ああ


追い掛けたかったのかも知れないね。

本当は


追い掛けたかったのかも知れないね。



両手を伸ばしたりして。
名前を変えたりして。



「ねえ、ありがとう。私と会ってくれて」

「うん。俺もそう言いたかったのかもしれない。」



もうすぐ追いつくと思ったら、また離された。


だけど、そうだね。

ようやくだけど、分かってきたね。



世界は


「造れて」


「黒くなくて」



昔の話をしませんか。
まだ私の髪が短かった頃の話。

昔の話をしませんか。
まだ俺の瞳が黒く澄んでいた頃の話。


それが終わったら次に会った時は。

明日の話でも、しましょうか。



end


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