裾野末廣大々叶。
JR線八王子驛と甲州街道を斜めにつなぐユーロードを會場に開催された、ご當地傳統藝能の祭典「伝承のたまてばこ」を觀覧する。八王子の傳統藝能と聞くと、私はまず車人形を思ひ浮べる。人形遣ひが箱車に座って人形を操る独特な人形芝居で、二昔以上前に池袋の東京藝術劇場で「葛の葉」を觀たことがあり、正直なところ伴奏の説教節が辛氣臭くて退屈した記憶がある。それ以来となる車人形の今回の演し物は「東海道中膝栗毛 赤坂並木~卵塔場」で、喜劇らしく人形の動きに十返舎一九の滑稽本の挿繪を髣髴とさせるものがあり、また人形を背後で操る人形遣いの動きが、まるでその影法師のやうで興味深かった。八王子に藝妓がゐるとは今回まで知らなかったが、舞臺の踊りよりも脇の屋臺で司會を兼ねながら三味線を彈き唄ふお姐さんにいかにも花街の人らしい雰囲氣があって、むしろそちらに目と耳が惹かれる。あきる野市に傳はる野辺囃子神樂は二演目繼承する神樂のうち「大蛇退治」を上演し、神話の世界を素朴な音色と華やかな装束で彩り、民衆娯樂の粋を再現する。まだほかにも番組はあったが、私が觀たのは以上で、ステージイベントと云ふと決まってジャリどもの感電踊りだの婆さん連のヘソ踊りだのばかりでウンザリさせられるなか、日本の傳統藝能に特化したかういふ催しは裾野を廣げる意味でもぜひ續いてほしいと願ふ。たとへ一人であっても、觀たい人は必ずゐるはずだから。