199217 ランダム
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ふらっと

ふらっと

Operatio 1

「総員に告ぐ。本艦はこれより第一種戦闘配置に移行する。メカニックおよびデッキ要員は至急モビルスーツ(MS)発進準備にかかれ!繰り返す・・・」
マゼラン級宇宙戦艦『ナツカゼ』艦内に放送が流れ、急に慌しくなって来た。
「ハッチ開放五分前ノーマルスーツ確認」
無重力の支配下にある艦内では走る事が出来ずに、通路の壁を蹴り勢い良く宙を飛ぶか、リフトグリップに使い、レールに沿って移動するかのどちらかである。
青いパイロット用ノーマルスーツを着た男は後者を選択した。
「少尉、戦果を期待します!!」
ノーマルスーツを着込んだ見知った砲撃手の一団と擦れ違う。
既にヘルメットを被っているためか、言葉を返さず、親指を立ててそれに応えた。
通路の角を一蹴りしたところで、デッキに到着した。
巨大な空間の無重力に身を任せ、漂いながら自分の機体を目指す。
ヘルメットからはオープン回線にしたままにしていたせいで、威勢のよい声を張り上げているメカニックマン達の声が耳に響く。
「少尉、こっちです!」
『ビンソン計画』での建造艦は簡易MS運用能力を得たが格納庫といっても本来はMS専用のものではなく、宇宙戦闘機用の為、当然18m級人型のMSでは狭く入らない。
船底に無理やり、MSの固定ラックを取り付けたものでしかなかった。
赤い機体が並ぶ中1台だけ胸の部分が青いカラーリングされた機体のコックピット近くにいるメカニックマンからの無線だと判り、ノーマルスーツに備えられた圧縮ガスロケットを調整して飛ぶ。
「何だ『ライトアーマー』じゃないのか?」
「整備間に合いませんよ、ただでさえ少尉が使う機体は特注品ばかりなんですから」
「その割には普通のジムでもいいのに、胸のカラーが青になってるのは?」
「その辺はメカマンの心意気ってやつですよ!!『蒼い閃光』が赤いMSに乗ったらさまにならんでしょう?!」
連邦軍にはパイロットにパーソナルカラーを持たせるという考え方そのものが無い。
機体の塗装は彼が戦闘機乗りだった頃からされていて、その頃の戦果を考慮して許可された極めて稀なケースである。
「ついでに少尉用に駆動系のチューニング変えてますから、どノーマルジムより扱い易いですよ、武装はライトアーマー用のビームガンを使ってください」
「了解した」
今日の自分の愛機になる青いジムのコックピットに座り、シートベルトを締め終わるとほぼ同時にハッチが閉じ、起動スイッチをOFFからONに切り替えた。
機体を固定していたラックが外れ、発進ランプがレッドからグリーンに変わる。
「スタンバイOK、シフォン・ロマーネ発進する!!」
アクセルペダルは踏むのと連動して圧倒的な重力の壁が襲い駆り、発進された勢いがそのまま跳ね返ってくる。
続いて同じ小隊のアービス・シャイアン准尉のジムキャノンが射出された。
「救難信号?!」
「輸送機が偵察中の『スカート付き』に引っかかったらしく追撃を受けそうだとの事です」
オペレーターのミユキ・ムラサメ伍長の顔がサブモニターに映し出され、シフォンの疑問に答えた。
公国軍の宇宙用MSで陸専用として良好な戦火をあげたドムに空間戦闘用に改修した機体でザク変わる主力機として運用されていた。生産施設を流用できる為生産性も高く広く戦場に配備され、連邦兵士からはその形状から『スカート付き』との別称で呼ばれている。
「もしかして、エリオス准尉が乗ってる輸送機?」
アービスが、サブモニターに移るミユキに聞き返す。
「そうです。他にもモスク・ハン博士や新型機や少尉の機体のパーツが同乗しています」
「つくづく苦労性だな、エリオス准尉は・・・無事に戻ってくれないと、うちの小隊再編されちゃいますね」
MS小隊編成は通常3機で1小隊を形成する。これはジオンの編成を真似たものだが、連邦軍はそれに独自の運用思想を盛り込んだ。小隊内に1機砲撃戦用MSもしくは長射程・大火力の火器を装備したMSを配備して後方支援させるというものである。これにより前衛2機、後衛1機という小隊内での役割分担が出来上がる。前衛は敵機に接近し近距離攻撃を行い、後衛が後方から強力な火器でそれを支援する。これが連邦内で確立されつつあるMS小隊運用の基本戦術であった。
「確かに・・・尚更輸送部隊を落とされるのは面白くないな」
シフォンは肩を少しだけすぼめ答えた。
最前線で戦う兵士達を支えるものは闘志だけではない。どんなに優秀な艦でも燃料が無ければ動かず、いかに強力な武器も弾薬が無くなれば役に立たない。補給線の確保と補給部隊の運用は、最前線の確保と維持には欠かせない極めて重要な存在なのだ。
「急ぐぞ!」
シフォンはスロットルを絞り、合流地点に急行した。

コロンブス級補給艦『キタカゼ』は空母的な運用が行われている。両舷に設けられた巨大なカーゴベイが特徴で、双胴船のような艦形となっていて、船体の大部分を積載スペースとしているため、搭載機数は最大でMS8機が限度と考えられている。
「駄目です!これ以上は・・・とても振り切れません!」
『キタカゼ』パイロットがモスク・ハン博士に泣き言をいった。護衛をかねて搭載された宇宙戦闘機セイバーフィッシュは既に撃墜され、泣き言の1つも言いたくなる。
「参ったねどうも・・・よりによってこんな貴重品ばかり運んでる時に・・・」
(いや、だからこそ狙われたのか?)
「博士、自分が新型で出ます。敵の足を止めますので、その隙に・・・」
「いやそれはそれでマズいな准尉」
こんな輸送機撃墜するのは、簡単なはず・・・それをこのタイミングまでしないのは無傷で手に入れたいはず・・・」
「前方より機影2、友軍機です!」
『キタカゼ』パイロットの声に安堵感が漂う。
「間に合ったか」
モスクも同じ気持ちだった。

「少尉、2時の方向『スカート付き』3機です!」
ヘッドセットから、アービスの声が飛び込んでくる。シフォンはモニターを2時方向に切り替えると、ザク用のマシンガンを持ったリックドムが1機。ジャイアント・バズーカ持ち2機を視認した。
シフォンの声が響く。
「キャノン砲だ、撃て」
ジムキャノンの右肩に装備された240mmキャノン砲が発射される。
次の瞬間、ドッグファイトが開始された。
最初の接触で更に一撃で敵機を落とすのが、最良の選択だ。脳裏にかすかな不安がよぎるが、気持ちを押し殺し機体の右腕に持ったビームガンを構えた。ビームスプレーガンの改良型で一撃離脱の戦法に対応し易い様に連射性能が強化されている。銃の外見も軽量・コンパクトな物に換装されている。照準機をヘッドレストの脇から取り出し、ターゲットに敵機を捉える。トリガーを引き絞り、銃口から無音の宙に閃光が走る。
閃光に貫かれた『スカート付き』が炎を上げて倒れていく。ジェネレータは作動しなかったらしく、核爆発の光はなかった。
引き続き、近くにいた『スカート付き』に照準を合わせ、トリガーを絞り、これも撃破した。
最後の『スカート付き』はヒートサーベルを抜き、シフォンのジムに迫る。シフォンは巧みにスラスターを操り、ヒートサーベルを避けビームサーベルを2本抜いた。リックドムとジムがすれ違う。ジムが反転した時、リックドムは炎の球に包まれた。
「はぁ、一気に三機撃墜ですか・・・」
アービス准尉がため息とともにつぶやいた。
「全機健在、損害輸送機に若干の被弾あり、しかし、航行には問題無い。」
シフォンはサブモニターで『ナツカゼ』ブリッチを呼び出した。
「こちら『ナツカゼ』了解しました。帰投してください」


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