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トンイ長いあらすじ(小説風)完全版一覧1~60話 byちょびかじり コピペ厳禁よ

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2019年02月26日
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トンイあらすじ 51話 「宣戦布告」

クムの授業が宮中の楼閣で行われていた。

雲鶴と机を向かい合わせてのマンツーマンだ。

クムは見慣れない本が自分の書袋に入っているのに気づいて不思議に思った。ところがその書物が何であるか知っている雲鶴は、これは大変なことになったぞと嫌な予感がしたのである。

表紙に昭鑑録と書かれたそれは、漢王朝歴代王の善政と暴政を記録したもので、世子だけが読むことを許されたものだった。

案の定、待ってましたとばかりに赤衣と青衣らが武官や槍兵らを従え、姿を現した。世子の書物を盗んだ犯人を捜していたのだった。

「なぜここに世子だけが読める書があるのか!」

威厳あるひげの老官が怒鳴りつけた。

「さぁ…。書に足が生えたのですかな?」

雲鶴は皮肉を込めてとぼけてみせた。

変わり者の雲鶴が相手では話にならん…

そう判断した赤衣は手っ取り早く白状しそうなクムの方に矛先を変えた。

「王子様は昨日の未の刻に東宮殿にいましたか?」

クムは口ごもったままである。まずいことにその時間には世子と一緒に内医院に忍び込んでいたので、打ち明ける訳にいかなかったのだ…

赤衣の老官はこれはますます怪しいと思ったのだろう。クムをかばおうとする雲鶴に向かって説明を求めた。

そればかりかこの後、この老官は王様の部屋へも参上し、事を大きくした。

「王子様は未の刻に何をしていたか答えられなかったのでございます!」



クムは未の刻のことを当然トンイ母さんにも尋ねられた。

クムはしょげかえりながらも、弁解だけはきっぱりした。

「私は盗んでいません。本当です!」



トンイもクムの無実をもちろん信じてはいたのだ。きっと何かか話せない事情があるのだろう。

それより問題は、クムを陥れようとする手が宮中にうごめいているという事実の方だった。

世子の座をクムが狙うのではないかと危惧した輩が、本の事件を都合のいいように利用しかねなかった。


西人のイングクは便殿に重臣たちが集まるのを見て、右相がまた何を企んでいるやらと苦々しい気分になった。

案の定、右相は仲間を率い王様に抗議を申し出たのだ。

「この書は世子がヨニン君にあげたと言っているのだぞ!」

王様はかなり腹に据えかねた様子で声を荒げた。

これにはさすがの右相も黙り込んだ。追い打ちをかけるようにハン内官が2本の巻き物をうやうやしく王様に渡すのを見て、重臣らは何事かしらと思った。


「トンイを内命府の正1品嬪に格上げする!」


「まさか…!」

その発表がなされると重臣らは、もはや書物の紛失事件など忘れたように一斉に驚いた。


オクチョンはヒジェから事の真相を聞かされた。

わざと世子の書物をクムの持ち物へ忍ばせたのは他でもないヒジェだという。

「ちょっとしたいたずらですよ…」

ヒジェは楽観しているようだったが、ヨニン君を犯人に仕立て上げた効果をオクチョンは怪しんだ。

「彼らは当分、例の医女を証拠には使えません。いかにも世子を陥れているように見えますから。その間に我々はトンイとヨニン君を追い出す準備を進めるのです…」

ヒジェはそう自信をうかがわせた。

その日、便殿での会議が終わって表へ出てみると、ヒジェの周りに重臣らが寄ってきた。王様の発表に対抗し、オクチョンを王妃にする方向で意志を固めたようだった。

この風向きの変化をヒジェはもちろん歓迎した。

さっそく会合の約束をとりつけ、その晩にも長屋門で重臣らを出迎えた。

右相他6名ばかりが真新しい頑丈な組木の門をくぐった。別の重臣らも続々と中へ入った。

その日の会合はトンイとヨニン君を消すという結論で幕を閉じた。

帰り際に右相はオクチョンの決断をヒジェから再度確認し、連絡をくれるよう念を押した。


庭の端っこにレンガのアーチ門が見える。

あそこを通りたいのに、あいにく若い女官たちが立ち話をしているのだ。

世子と一緒に様子をうかがっていたクムは、次の瞬間、作りものの大ネズミをポイと放りやった。

女官らの悲鳴があがったその隙に、二人は宮殿を急いで抜け出した。風呂敷の中に庶民の粗末な服を忍ばせ、途中で着替えるという周到ぶりだった。

ずっと宮中暮らしの世子よりも、断然クムの方が外には詳しかった。

もうすぐ中秋だから町で大道芸が見られると聞いて、世子は胸をわくわくさせた。

その頃、宮中ではユン尚宮が、緑の格子扉に向かって世子に呼びかけた。

当然反応はない。

「夕講の時間まで誰も通さぬようにと世子様がお命じになり…」

女官の一人が釈明するので、尚宮もそれ以上は声をかけるのを控えた。

まだ昼間だというのに世子は護衛まで下がらせたようだった。



日が暮れかけ、オクチョンが世子に会いに東宮殿へやって来た。

その頃には雨も降ってきた。

ユン尚宮は明かりの洩れる障子越しに、再び声をかけてみた。

やはりいっこうに返事はない。

突然嫌な予感がして部屋へ乗り込んだ。
そうして屏風前の寝床から布団をめくりあげたところ、ひじ用枕があたかも人のように寝かされていた。


宮中はたちまち大騒ぎになった。

いち早く監察府に世子の失踪が伝えられ、ヨンギのいる内禁衛も動き出した。

さらにクムもいないことがわかった。

王命により禁軍と都の兵をすべての動員がなされ、似顔絵を手にした兵士らが町のいたるところで聞き込みを開始した。


トンイは自分で心当たりの場所を捜した方が早いと思った。

中秋が近いから大道芸を見に行ったのではないかー

胸リボンを手早く結んで着替えながら、チョンス兄さんを呼ぶようポン尚宮に頼んだ。



市場は昼にイベントがたくさんあったらしく、相撲の土俵の痕がまだ道端に残っていた。

夜になって人通りは減ったと言っても、まだ店主と言葉を交わし品定めをする客もいる。

チョンスや若い女官がさんざん捜し回るなか、雨が激しくなっていく。トンイの衣もびっしょりになった。

宮中を抜けだしたとしてもバレる前に帰ろうとしたはずだ。

それが戻ってないというのは何か問題があったのだろう…


ふと見ると市場近くの橋を渡った辺りに、青いふっくらした巾着が落ちていた。

雨の滴るそれは福の字に虹色の宝船や仲睦まじい小鳥、周りに赤い花の刺繍ときらびやかな素材が一緒に縫いつけられた上等品だった。間違いなくクムのものだ。




それより少し前ー

もう夕講の時間だから帰りたかった世子は、クムが踏橋に参加したいというので、もう少しだけ付き合うことにした。

踏橋というのは橋を踏んで無病長寿を祈る遊びである。

線香花火を持つか、手足でリズムを踏むかして渡り、火を入れた燈籠を一斉に飛ばすのだ。

色とりどりの燈籠は高く舞いあがり、世子とクムのも混じって、最後には星と見分けがつかなくなった。

ふわりふわり動くところが本物の星とは違った。


「兄さんの病気が治るようにです」


願いごとを何にしたか世子に聞かれてクムは、はりきって答えた。

悲劇が起こったのはそのあとのことだった。

橋を渡ったところで、ひげ面のゴロツキにぶつかり、その男がぽろりと落とした巾着が、世子の足元へ落ちたのが不運の始まりだった。

世子をスリと勘違いした用心棒らしき男が、肩が肌けるほど世子を引き寄せて文句をつけた。

あまりに無礼な言いがかりに、世子本人よりもクムが焦って抗議を試みた。

「この方を誰だと思っている! この方は…」

言いかけて、世子に止められた。

そもそも無断外出を宮廷には絶対に知られてはならないからだー

世子は覚悟を決めたように、クムをその場に残し、男に連行されていった。


世子はスリの疑いで訴えられ、監獄へ投獄されたのだ。

相部屋の住人は、拷問でマゲがほどけた犯罪者たちだった。

白い着物の上に赤縄をかけられたか細い姿を見て、世子と気付く者はなかった。


そこはどうやら捕盗庁の敷地にある牢屋のようである。

壁は格子で、床にはワラが敷いてあり、監視兵の頭の高さまでの扉には頑丈な錠がかけられていた。

「外が騒々しいが何かあったのか…?」

格子扉へにじりより、世子が監視兵に声をかけた。

すると監視兵は首だけこちらへ向けて無愛想に答えた。

「そんなこと知ってどうする…? 世子様が失踪したんだ」



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トンイあらすじ 52話 「無垢な心」



開け放たれた扉の軒先には“警守所”と白文字の額がかけてある。兵士がかがり火の脇で番をしているところだった。

チョンスが提示した木札を見て、門番は急にきびきびとした態度になった。それには金文字で役職と名前が記してあったのだ。

捜査日誌を見せるよう言われ、専用台に槍の並んだ門の通路からチョンスを招き入れた。

再び表へ出てきたチョンスは、入口の前でトンイが待っているのに気づいた。

「酉の刻に捕らえたスリの少年の人相というのが、どうも世子に似ているようなのです…」

チョンスは言った。


親の名を白状しな。盗んだ金を弁償するなら釈放してやろう

世子はひとまず話にのって見ようと思った。

もちろん王の名を口にはできない。とりあえず庶民のふりをしておいて、外に出た隙に逃げるしかないだろう。

世子はそれらしい家のある集落へと兵士を誘導した。

別れ道へ来て、こっちの方だと示す方へ兵士ものこのこついてくる。道の片側は人の3倍もある高い石垣で、民家に面した方は石積みの低い塀がどこまでも続いている。うまく深みにはまるように、3人は村の奥へ奥へと迷い込んだ。

そのうちとうとう行きどまりになった。

「ここか?」

と兵士が尋ねた。

「そうです」

世子の返事を聞いて、兵士が先に敷地へ入り、家へ向かって声をかけた。

すると家の主人が出てきた。しばらく戸口で話をしている間に、世子はじりじりと後ずさりしはじめ、兵士が気づいた拍子に、くるりと背を向け逃げ出した。

無我夢中で来た道を戻り、途中行き場を失い、やもえず通りへ飛び出した。そうして真っ暗な道へ逃げ込んだとき、背後で何者かに口をふさがれたのだった。

廃屋の陰に体を押しやられたまま、さっきの兵士らが気付かずに、すぐ前の道を通り過ぎていくのを見守った。

彼らがいなくなってから、男はようやく手を離した。

「世子様。驚かないでください。私は禁府の都事です」

怯える世子に、チョンスがかしこまって挨拶をした。


世子は無事にトンイと落ち合うことができた。

そのとき1人で宮廷へ帰ると言う世子を、トンイは頼もしく思ったのだ。

もし一緒に戻れば重臣らからあらぬ誤解を招き、トンイに迷惑がかかることを見越してのことだろう。


ジュシクおじさんはヨンダルとこの騒ぎについて歩きながら話していた。

それが家に戻ってみたら、軒先にクムが座り込んでいる。飛び跳ねるように駆けおりてきて、元気な様子には驚いた。

雲鶴の小屋を訪ねたが留守で、世子を助けて貰おうと思ってここへ来たらしい。

どうやら世子の無事をまだ知らないのだなと思って、クムを連れて宮中へ戻ることにした。その際、石のアーチ門に2人の兵士がいたが、クムのことは踊り子だと言って急場をしのいだ。わざと大きなくしゃみを浴びせられ、しぶきがかかるのを嫌がった兵士が、すんなりその場を通過させてくれた。

おかげでその晩は失踪騒ぎをさほど公に知られることなく、こっそりと宮中へ戻ることができた。


世子の帰宅について、王様はハン内官から聞くこととなった。

世子の護衛を担当する世子翊護司により、無事にお連れしたとのことであった。

しかし虚弱な体質なうえ、疲労が激しかったのだろう…気を失って急きょ医官が部屋に呼ばれる騒ぎとなった。

幸い休めば回復するとの診断がでた。しかし今回のようなことは持病にも良くないと、医者からの忠告がオクチョンのもとへあった。

さらに翌日には騒ぎを聞いた重臣らが、さっそく便殿に集まって一悶着を起こした。

「すべては私家で育ったヨニン君様のせいでございます! 世子翊護司の調査によりますと、ヨニン君様が足止めしたために、世子様がスリに疑われたとか。王様。これは世継ぎの命に関わることです。その罪を問うのに身分や年齢を考慮する必要はないものと存じます!」

クムに相応の裁きが下されるまで、南人、少論とも一歩も譲らない考えだった。


体の具合が落ち着いた世子は、今度は不安にさいなまれた。

クムが処罰されるとは一体どういうことか?

自分の意志とは違う方に事態は流れているのだ。

「ヨニン君は世子の命を狙いました。なぜなら世子の座が欲しいからです」

病み上がりの世子を前に、オクチョンもまた重臣らと同じことを言う。

世子は母の考えに驚き、ひどくがっかりもした。

言いたい事を吐き出した母は、もはや聞く耳さえ持たずに早々に部屋を下がろうとする。

「私の病気のせいですか?」

咎められ、オクチョンは振りかえった。

「私が王位を継げないかもしれないから、ヨニン君を陥れるのですか?」

「それはどういうことですか?」

オクチョンは世子を見つめながら、胸騒ぎを覚えた。

まさか…病名を知っているのだろうか…?

いいや。そんなはず絶対にない。そう自分に言い聞かせた。

「私は自分の病を知っています。子が授からないかもしれないことを…」

世子はついに言ってやった。母と目を合わせようとしつつ、向こうが絶句しているのを見てやっぱり目をふせた。

「それは間違いです。いいですか。わかりますか? 世子はただ病弱な…」

青ざめたオクチョンが必死に釈明しようとする。

「これは私の問題です。ですからもう嘘はやめてください」

オクチョンは悲しみで胸が張り裂けそうになった。オクチョンの目に世子は見るからにうんざりした様子に見えた。


重臣らの訴えを聞いたムヨルが、再びトンイを訪ねて来た。

「世子様の病を公にする…打開策はそれだけです。病を知れば少論の重臣たちは背を向けるでしょう」

しかしトンイは前回と同じく、その提案には取り合わなかった。

~このままではヨニン君が裁かれるのですぞ!~

ムヨルの捨てぜりふがトンイの耳に残る…

どうすればクムを救うことができるのかー?

トンイ自身もまた厳しい決断を迫られていた。


ムヨルのあとに訪ねてきた世子を、トンイは喜んで迎え入れた。

てっきりクムに用があるのかと思ったら、自分に会いに来たと言う。蝶々の屏風席を世子に譲り、トンイは何事かと思って話に耳を傾けた。

「私にはこの座を守る資格がないのです。ですからヨニン君を傷つけたりしません」

世子はそれだけ伝えて、早々に部屋を去った。

でもよくよく考えてみると、トンイにはどうもこの言葉が引っかかったのだ…


その頃ちょうど、おつきのハン内官が袖口に両手を通し、王様の前へ進み出た。

「世子様が至急お目にかかりたいと…」


王様は読みかけの書状を脚付きの盆へ置いて、続きの部屋へ移動した。

そうして輝かしい未来を背負った背の高い世子をそれは頼もしそうに見た。

「話したいこととは何だ?」

一緒に大きな円卓へついてすぐ、王様が尋ねた。




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トンイあらすじ 53話 「憎しみの炎」




東宮殿の入口に立ってオクチョンが世子の帰りを待っていた。

世子がとつぜん王様のいる大殿へ行ったという嫌な噂を聞いたのだ。

母の姿に気付いた世子は庭の廊下から階段をあがり、静かに母の前に立った。

「まさか、王様に病のことを話していませんね?」

母は殺気だっている。世子は苦しそうに目をそらした。沈黙の間、小鳥のさえずりがした。それから涙声で答えた。

「母さん。隠すべきではなかったのです。私にも、父上にも…」

世子はもう取り返しのつかない深い悲しみから、遠い目でうつむいた。

その瞬間、オクチョンはすべてを悟って、激しいショックを受けたのである。

母は慌てている。怒りで狂気じみている。世子が王になることに全力を賭けて、そのすべてが壊れたと知った今、目の縁を赤くし震えた。

世子はそんな母と、今この場にいるのが辛かった。息子のためを思う母についても、起こってしまった事件についても、何とも痛ましい複雑な思いがした。

母は涙で顔を乱して、世子を責めたてる。

「命がけで秘密にしたことを、話してしまったというのですか!」

「どうか私のためと言わないでください。私はこの国の世子です。王になれないと思ったことはありません。父のような王に、真の聖君になりたかったのに、母上は私を罪人に、情けない王にしようとしたのです」

世子は胸の内を吐き出した。そうしてまだ話があるという母を振り切って、逃げるように御殿へ駆けこんだ。


王様からは何らかの反応があるだろうとはオクチョンも予期していたが、かなり息巻いて部屋へ乗り込んできた。

王様が主に確かめたかったのは2点である。

世子の病状が現れたのはいつからか…?

これに対しオクチョンは、1年前に熱病を患ったあとからだと正直に答えた。

病状を隠すためにナム医官を担当にしたことや、私家から取り寄せた薬剤でこっそり治療を試みたことまで、世子はすでに王様にうちあけたようだ。

「病が治らなければ世子の座が危うい。そう考えヨニン君を陥れようとしたのか…?」

これは質問というよりも、もはや王様は完全に疑っていた。

1年もの間、ひた隠しにしてきた罪。幼いクムに罪を着せようと、大臣たちは未だ処罰を求めていた。

王様は腹が立って仕方がない様子で、早々に部屋を去った。それをオクチョンは玄関先の渡り廊下まで追いかけた。

清国で調達した薬だ。だからもうちょっと治るまで待って欲しい。そう泣き叫び、王様の足元にとりすがってまでした言い訳は、しかし今の王様には全く聞く価値のないものであった。


便殿前の石デッキで、クムの処罰を訴えていた重臣たちが、何やら急に慌てふためいてその場を解散した。

西人のイングクはこの光景を奇妙に思ったが、座り込みをやめた右相本人たちでさえ、まだ事情がよくつかめてはいなかったのだ。

右相たちは中止を指図したチャン・ヒジェと落ち合った。

「何かあったのか!?」

「まさか。ただ今は時機でないのです。ですからもうしばらくお待ちください」

ヒジェは曖昧な返事をするばかりだ。

ヒジェが去ったあと、総すかんを食らったような顔で突っ立っていた重臣らに声をかけてきたのは、漢城府のムヨルであった。

「理由が気になりますか…? それなら私が説明できますが」


このあと宮廷では水面下で異様な空気が流れ始めた。

世子を見かけた女官たちはヒソヒソ話をした。

「世子様って病気なんでしょ」

「最近世子様は気力がないようだ」

「近々、東宮殿で訃報があるだろう…」

そんな噂まで掌楽院のファンとヨンダルの耳にも入ってきた。

ムヨルの言ったことが本当か確かめようと、ついには右相がオクチョンの部屋へ現れた。

「世子に問題はありません。ムヨルの策略ではありませんかっ!」

オクチョンは強気で否定したが、右相は何度か食い下がって同じ質問を繰り返した。そうして考え込んだ挙句、とうとう捨てぜりふを残して、引き揚げていったのである。

「もし噂が事実なら、我々も手の施しようがありませんぞ!」

ムヨルの告白は宮廷内の各地に波紋を広げたのだった。


集落の小さな港に、チョンス率いる義禁府の官軍が集まった。

たった一人の犯人を捕えるにしては、相当の数が用意された。

雇い人3人と一緒にちょうど子船に乗り込んだ犯人は、桟橋からロープをほどき、まさに都を脱出する寸前のところで、捕えられたのである。

この逮捕劇の決め手となったのは、故オ・テソクの甥であるオ・ホヤンが訴えた事件による。

最近ゴロツキに命を狙われはじめたというホヤンは1日中布団にもぐりこんで怯えて暮らすようになった。その息子の姿に父テプンが猛然と立ちあがり、執念でそのゴロツキどもを捕まえたというのである。

なぜ息子を狙うのかワケを問い詰めたテプンは、すぐに捕盗庁に行き、裏でゴロツキに指示を出していたという黒幕を訴えた。

逮捕されたのは、前府夫人ユン氏ことオクチョンの母である。

その詳細はソ・ヨンギが王様へ報告にあがった際、明らかにされた。

逮捕されたゴロツキが、オクチョンの母親からトンイとクムの私家へ放火するよう指示されたことと、それをオ・ホヤンの仕業と見せかけようと殺害を企んだ事実を自白したという。


王様からはユン氏への拷問の命が下った。

監察府では関連者の洗い出しも始まり、オクチョンの住む就善堂の尚宮、女官が拘束される事態となった。

知らせを受け、今までヒジェに協力していた少論派などが続々とそばを離れていった。

ヒジェにそれを非難された重臣の一人は、泣きっ面に蜂とでも言うような顔でこう反論した。

「我々が裏切り者ですと? この事態を招いたのは禧嬪様ですよ!」


残ったのは一握りの南人だけであった。一度は見放された少論派を説得してみようと、オクチョンは自ら立ち上がった。

夜になるのを待ち、おつきの尚宮と女官2人を連れてこっそり右相の屋敷を訪ねた。

外出するのに、かんざしは飾りのないべっ甲で、先端の棒が銀のものに取り替えた。緑色の衣は夜の闇にまぎれた。

屋敷の敷地へ入ると、顔を隠していた外套を折り畳んで腕にかけた。神々しい黄色のスカートはお月様のようにたっぷり膨らみ、堂々としたオクチョンらしさを失ってはいなかった。

しかし面会を伝えた執事は、右相の部屋へうがかいに行ったきり、なかなか戻って来ない。

態度をころりとひるがえし、禧嬪様を放ったらかしにするとはあまりに無礼ではないか。尚宮は思わず愚痴を吐いた。

オクチョンだってわかっている。それでもなお心臓をも差し出す覚悟でやって来たのだ。

ようやく姿を現した執事は断りを告げた。

「申し訳ありませんが大監は眠っておられます…」

部屋の明かりは漏れている。恐らく右相を囲んで重臣らが会合を開いているのだろう。

「お願いだ。急用なのだ。もう一度、取り次いでくれ」

オクチョンは食い下がった。

すると執事らしき男は、とても言いにくそうな顔で、仕方なく本当の理由を口にしたのだった。

「それが…今はすべてが終わった深い夜だと。そうお伝えしろと申されたのでございます」


宮廷に戻ったオクチョンは、トンイとクムの殺害計画をヒジェに指示した。

それに伴って、2名の兵士が燈燭房(トゥンチョクパン)へ忍び込むことになった。

燈燭房とは宮中の燈を灯す場所のことである。

兵士はそれぞれの手に油壺を抱え、たくさん並んだ赤い観音扉の一番左から出て来た。壺にはそれぞれ油と書いた赤と黄色の紙が貼られ、ふたにかぶした紙を、ひもでくくって空気を遮断してある。

扉の前で待っていた上官が聞いた。

「量は十分か?」

「火力が最も強いものを盗みました」兵士はささやいた。

兵士らは燈燭房の前庭から、少しかがむようにして門を出ていった。

上官も準備が整ったことをヒジェに伝えに行くことにした。


トンイの御殿へヨンギとチョンスが訪ねたのは、今や窮地に追いやられたオクチョンとヒジェが、何をしでかすかわからないと思ったからである。

「刺客が必ずここへ来るでしょう。ですから警護しやすい殿閣にお移りください」

急きょ予定が決まり、トンイはクムの手を引いて、母のそばを絶対に離れないようよく言い聞かせた。クムはまだ何があったかと、びっくりまなこだ。

ところが御殿の門を出ようとしたとき、騒ぎ声が聴こえた。

ヨンギ、チョンス、トンイが驚いて塀の向こうを見上げると、夕焼けのように広がるオレンジ色が3人の顔に映った。しかしゆっくりと渦を巻いているのは雲ではなく煙だった。

ヨンギらの意表を突いて、なんと世子のいる東宮殿から火災が発生したのだった。


東宮殿の入口では、すでに女官や監察府の女たちも駆けつけ、大騒ぎになっていた。

炎が幕のように吹き上がった。桶を持った兵士らが何十人も緑色をした観音扉の門をぐぐり、レンガ塀のすぐの突きあたりで左へ曲がって姿を消した。

東宮殿の尚宮や内官たちが門の外へいったん出て来たものの、世子が見つからないというので、また戻って行った。

ハン内官が泣きそうな顔で、世子の安否が未確認であることを王様に伝え、王様もすぐさま現場へ飛んだ。


殿閣に火が燃え移り、避難がダメになった。それで別のルートが確保されるまでの間、トンイは暇になったのだ。

クムは早くもトンイ母さんから離れて、御殿の庭をうろついたりしている。

大勢の兵士を率いるチョンス兄さんには、自分たちに付き添って貰うよりかは、世子の救出を優先すべきだ。そうトンイは素早く決断を下した。

それでチョンスはためらいつつも、持ち場を離れることに決めたのだ。

トンイの御殿に兵士を2人だけ残し、直ちに兵を率いて東宮殿へと向かった。

ゴーン…ゴーン…

武官は巨大な吊り鐘のかかった楼閣に立って、太い棒をブランコのように揺らしながら、銅鏡風の花と渦捲き紋様の中央めがけて突いた。

東宮殿へ向かう間、チョンスはふと天をあおいだ。少なくともゆっくりと6度は鳴ったのだ。

近隣の民に火災の鎮圧を呼び掛ける合図である。


ブロックアーチの大門が解放され、民がなだれ込んだ。女たちはエプロンをつけたまま洗面器を抱えて走った。男たちは空の風呂桶を積んだリヤカーをガラガラと引いた。禁火司の上官は、現場へ急げと民を怒鳴り散らす。

禁火司の兵士は、耳と後ろにフードがついたヘルメットに、着物と袴、リボンを後ろで結ぶタイプの袖なしの衣に、とんがりブーツを履いている。火消し棒はてっぺんにカマが突き出た十字の長い棒の下に、のれんのヒモが何本も垂れたものである。

目つきの怪しい4人の男たちは、門から入場したあと、真っすぐ突き進んでいく民衆を横目に、リヤカーをくるりと回転させ、建物と建物の隙間の道へ入り込んだ。

そうして顔を隠すような姿勢で、回廊に沿ってひたひたと走った。建物をつなぐ石橋の下の道をくぐり抜ける途中で、チョンスと一度すれ違いになった。

「どうかされたのですか?」

東宮殿へ急いでいるにも関わらず、後ろ髪を引かれるように立ち止まったチョンスに、部下が心配そうに聞いた。

チョンスは男たちの足元をじっと目で追い、「あれは毛麻蛙だ…」と呟いた。

甲からかかとにかけてヒモで結ぶタイプの上靴で、底に毛を貼ってある。

足音を消すときに履く盗賊用の靴だ…


トンイは塀向こうの災を熱心に見つめて、立ち尽くすばかりだった。風が強くて火の回りが早いらしい。

ふとクムがいないのが気になり、庭を回って見ると、なんと女官らが背中を切られて倒れているではないか!

一人っきりでいたクムの目の前には、とつぜん影のような4人の男が現れた。

クムは慌てて走り出した。体が小さいので御殿の高床の下だって簡単にくぐり抜けられる。ところが驚いたことに4人の男らも同じように平然と高床の下をくぐって追ってきた。

ついには裏庭の端まで行きつき、横並びで4本の刀を突き出し、じりじりとクムに近寄ってきたのだった。

男らが刀を振り上げたそのとき、トンイが滑り込むように目の前へあらわれた。そうしてクムをとっさに抱きしめた瞬間、うめき声をあげた。



2/12/4/26更新

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トンイあらすじ 54話 「欲望の果て」



世子は書庫にいて無事である。そうハン内官から聞いて、王様は天にも昇るような気持ちで大きく胸をなでおろした。

火もだいぶ弱くなり、虫の音が聞こえるほど静けさが戻りつつある。それでもまだ桶を片手に門の中へ駆けこむ兵士の姿が、ちらほらと見られた。

都承旨が随分と慌てた様子で、すぐに宝慶堂へ行って下さいと王様に頭をさげた。

今度は一体何事かと思いきや、なんと淑嬪が危篤だという。

宝慶堂ではチョンスがうろたえトンイの容態を見守っていた。肩の出血を抑えようと医女のあてた布が、みるみる赤に染まっていく。

「早蓮草と黄連解毒湯を用意しろ!」

医官がもう一人の医女に激を飛ばした。

刀の傷が血管まで達して、このまま出血が続けば危ない。

王様が駆けつけたとき、その役割を終えたようにチョンスは部屋を出ていった。

刺客を捕えに行ったのだ。


ヨンギは冷静かつ迅速にすべての城門を閉鎖させた他、赤鼻や武官に兵を率いて城内の捜索にあたらせた。

その間にも刺客らは城内をひた走って、逃げ口を探し回っている。

一方、あずき色の板張りの門では、2人の槍兵が互いを指さし合い、楽しそうに笑っていた。

ようやく指令が届いたと見え、義禁府の兵士らが助っ人に加わり、門扉が閉じられた。

「迎秋門へ行くしかないな…」

刺客のリーダーは悔しそうに鼻にしわを寄せた。

消火活動にあたった市民らが大勢で武官を取り囲み、門を閉めたことに対して抗議を申し立てている。それでも武官は命令が下されるまでは誰も外に出すわけにはいかなかった。

刺客は突如、いいアイデアを思いついた。

「さぁ。みんな帰ろうぜ!」

市民の代表を装った刺客どもが、人混みをかき分け武官の前に出た。すると周りにいた民もがこぶしをあげて賛同し、武官をたじたじにさせたのだ。

そのとき義禁府の兵を連れ、遅ればせながら到着したチョンスが、刺客を一発で見破り声をあげた。

「宝慶堂を襲撃した刺客だ。捕えろぉー!」

市民は驚いて左右に散り、中央には目をぎろりと光らせた3人の刺客のみが残った。

「我々が刺客だなんて何をおっしゃるので…?」

シラを切ろうとする男らだったが、チョンスはその足下に着目した。

足音を消すための毛皮が、彼らの靴底についていたのだ。

「お前の靴…! 毛麻蛙を履いた靴が証拠だ!」

チョンスが叫ぶやいなや、もはやこれまでと言わんばかり、刺客が兵士の槍を奪い取った。

チョンスは槍をかわしつつ石段をのぼりつめると、すばっと飛び降り、さらにはその回転力で敵に足蹴りを食らわした。地面へ倒れた刺客がエメラルドグリーンの薬を自らの口に入れようとしたそのとき、

「黒幕を吐くまでお前らは死なせんーーーっ!!」

チョンスの手から棒が即座に放たれ、腰を抜かした刺客が思わずぽとりと薬を落としたのだった。


義禁府が捕えた刺客はチャン・ヒジェの部下であるとの報告が王様になされた。その翌日には掌楽院にまでその噂は広まった。

王様による声明も出された。

トンイの私家に放火した罪ー

イニョン王妃を呪い殺そうとした罪ー

トンイとクム殺害未遂の罪ー

これらについて、必ず真相を暴くと誓うものである。

王様の強い決意を目の当たりにした重臣らの間に動揺が走った。そんな空気の中で早くもチャン・ヒジェ、オクチョンの母親のユン氏、その関係者らの拷問がはじまった。


拷問は赤い柱の建物に囲まれた義禁府の細長い庭で行われた。

芝生に背もたれつきの硬い椅子が並べられ、背後には黒いとんがり帽子の男らが拷問に使う槍を持って立った。格子柄の衣にズボンとブーツも白黒の組み合わせで、いかにも死の番人を思わせた。

鉄製の足輪、木の足かせ、持ち手を白布でくるんだ焼きごてが、台の上に揃えられた。

しかしチャン・ヒジェと母のユン氏が拷問の末に、罪を認めることはなかった。

そのためヨンギは王様にうかがいをたてに行ったが、ならばオクチョンを拷問せよとのことの返事である。

その指示を王様がとても辛い思いでされたことは、ヨンギにも想像がついた。


就善堂へ義禁府の兵が乗り込んだものの、オクチョンは連行されるのを拒否した。

自らの足で拷問場へ出向くと言い放ったのである。

オクチョンは先頭を堂々と行き、チョンスや大勢の兵士たちが後に続いた。その光景を女官や内官、青衣や赤衣の役人たちの多くが目にしていた。

漢城府のムヨルもその一人だった。彼はそのときオクチョンを見放すまでの過程を思い返していたのだった。

拷問場で兄や母の姿を見たオクチョンは、さすがに動揺を隠せなかった。

ヒジェはヨンギに対して、死んで怨霊となるだろうと声をあげ、母ユン氏もまた私の身を引き裂くがいいと泣きわめいた。

なおも自分を裏切らない2人をオクチョンは深く哀れんだ。そうしてその分の怒りをヨンギにたたきつけるように絶叫した。

ヨンギは顔色をちらりと変えたが、急に前方に向かって会釈した。

オクチョンがハッと白い顔で振り返ると、ちょうど王様が義禁府の門を入ってきたところだった。

自分の今の発狂を聞かれたに違いない……。しかしそれで返って覚悟が固まった。

「ええ。王様! これが真実です。王妃を殺そうとし、淑嬪とヨニン君を狙いました。満足ですか…? これがお望みの答えではありませんかぁっー!」

王様はがく然として、素のオクチョンを見つめた。オクチョンをこのような人にしたのは、自分の罪であるような気がしてならなかった。

ショックのあまりふらふらと義禁府を出ていったものの、石畳で足を踏み外しそうになり、ハン内官が危ういところで王様を支えた。


世子は3日間、仁政殿の何枚もの扉に向かって母上の命乞いを訴えた。

それは夜になっても続いた。食事もぜんぜん取らないので、とうとう気を失い、内官らが慌てて助け起こした。尚宮と女官たちも大勢で心配した。

幸い医官の診察でそう心配ないとわかったが、見舞いにすっ飛んで来た王様にも、

「母上を…どうか母上を…」

と、うわごとを呟くほどだった。

痛ましいのは世子も王様と同じく、母がこうなったのは自分のせいだと思っている点だった。

そんな世子を抱きしめてやることしかできない王様は、本当に申し訳ない思いでいっぱいになった。


そのあとの面会で、王様はオクチョンに最後の言葉を伝えた。

「悪いのはそなただけではなかった…。しかし余は許すことはできない。あまりにも遠くへ来すぎた。…自決しなさい…」

オクチョンは黙っていた。少し笑ったようにも見えたが、やがて挑戦的な目から涙がこぼれ落ちた。

「いいえ王様……私は王様の手によって死にます。たった一つ私が後悔したこと……それは王様を本気でお慕いしたことです。しかしほんの一瞬でも私を想ってくださったなら、私を殺す苦痛から逃れず、少しは苦しむべきではありませんか……?」


王様が今から処罰を発表すると聞いて、重臣らが便殿へ集まった。

女官のエジョンは発表が行われることをトンイにいち早く伝え、ソ・ヨンギもそのときを静かに待っていた。

「余は辛巳年10月8日、罪人たちの処決を下す。チャン・ヒジェとユン氏を含む関与した者のすべてを死刑と流刑に処す。そして禧嬪チャン氏を剥奪し、本日…毒殺を命じる!」



2012/5/3更新

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トンイ55話「新たな対立」

監察府では庭に女官が集められ、チャン・ヒジェが孤島に送られ処刑されること、禧嬪の服毒刑が未の刻に行われることが伝えられた。


露店の通りで人ごみを掻き分け、オ・テプンの妻が一番前に出て鼻息を荒くした。

「あなた。来ましたよ! ユン氏とヒジェです。石を投げましょうよ!」

首根っこにリヤカーを引っかけ、茶色い牛が二匹、歩いて来る。
手綱とリヤカーの持ち手をくさびで留め、それぞれの檻を引っぱっていた。

テプンの妻の罵声につられて、周りの男らがそうだそうだと石ころを拾いあげ、檻が目の前に近づくのを待ち構えた。

いよいよ射程距離に入り、丸太棒の柵めがけて次々に石を飛ばした。
その一つはもろに顔にぶち当たったが、ヒジェは避けようともしない。いまだ無念の気持ちで頭がいっぱいの様子であった。

ヒジェの閉じた目に涙のあとが光った。母ユン氏も罵声を浴び、悲嘆に暮れている。

先頭を行く兵士が、のそりのそり進む牛の手綱を引っ張った。



オクチョンの処刑のため、赤衣の男と共に、宣旨の巻き物の盆を抱えた青衣の男が、いよいよ監察府の尚宮に合流した。

監察府のチョンイムが毒薬入りの器に布をかぶせた盆を持ち、一行に加わった。その後をチョンス率いる義禁府の兵が続いた。

彼らは二階廊下の高架下をくぐり、就善堂を目指した。


オクチョンに近しい役人が未の刻になったことを、一足先に告げに来た。

そのときオクチョンが託した伝言は、役人からハン内官経由で、王様のもとへ届いた。

ただでさえ自分の下した判決に、もだえ苦しんでいた王様の顔は、いっそう青ざめた。

オクチョンは自分の死に際を、王様に見に来て欲しいというのであった。


「禧嬪チャン氏は王命を授けよ!」

外で役人の声がし、オクチョンはハッとした。ついにこのときがやって来たのだ。

皆の前に姿を現したときには、すでに覚悟ができていた。

むしろの上に用意されたお膳が、その瞳に映った。

オクチョンはすとんと正座すると、武官が読み上げる罪状に耳を傾けた。その間、毒薬の入った白い器にじっと見入った。

いつも通り、庭には赤い大きな牡丹が咲いている。トンボがスーッと水平に前を横切り、赤い欄干へ止まった。

文書を読み終わった武官が、くるくると罪状を納めて一歩後ろへとさがった。

オクチョンは立ち上がって、手を額の前で丸くかかげてお辞儀をはじめた。
座り込んで、また立ちあがっては会釈する。
それがあたかも天に向かって挨拶するように周囲には見えた。

オクチョンは心の中で王様に呼びかけた。

 ~王様、約束通りどこかで見てくれていますか…? 愚かな私の最期の欲として、私の姿を覚えておいて欲しかったのです…

その一部始終を、王様はハン内官と楼閣から見下ろしていたのだった。
オクチョンがいよいよ毒薬を飲むのを見て、思わず「あっ…」と声をあげた王様が、届きもしない手を伸ばしかけた。

オクチョンは、みそぎのようにしめやかな姿で血を吐いて倒れた。

今王様の心に思い出されるのは、オクチョンの手を握り締めて歩いたこと……重臣が金冠で大広場に集結した豪華な婚礼の日のこと……
さらには華麗な牡丹が好きだと言った、オクチョンの笑顔だった。

親子三人水入らずの幸せな日々がまざまざと胸に浮かぶと共に、それらが永遠に失われたことに気付いた。


オクチョンが亡くなって雷雨になった。

東宮殿では雨の中を内官や女官の姿が慌ただしく行き交う姿が見られた。

世子は水を飲むことさえ拒んで、授業にも出てこない。

クムはまた前みたいに、一緒に遊んだり勉強したりしたいのに、じっと待つだけの日々が続いていた。


らんたんをさげた執事の案内で、重臣たちが足元の暗い段をのぼり、さらに長屋つきの門をくぐった。歩きながらも討論が途切れることはなかった。

部屋では右相が待ちかまえていた。
賎人出身のトンイを王妃にすべきではない。
その思いが同じであることを、それぞれが確かめあった。

また西人派のイングクの集まりには、シム・ウンテクが参加した。
両派は翌日、便殿で行われた会議で、真っ向から対立することになった。

互いを非難するばかりの重臣の態度に、王様はもううんざりだった。
ところが右相は不本意な顔で、次のように訴えたのである。

「淑嬪様を王妃にすれば、世子様の座が危ないと民たちに宣言するようなものではございませぬか!」


両派のいざこざはトンイの耳にも届いた。

シム・ウンテクとチョンスは、やはりここはクムを守るためにも、当然トンイが王妃になるのが良いという考えだった。

ところがトンイは意外なことを口にした。

「世子とクムどちらも王にならねば……」

「どういうことでしょうか…?」

思わず聞き返したシム・ウンテクに、ヨンギが答えてやった。

「世子様の後に王位を継ぐ世弟のことを言っておられるのだ……」


その晩、トンイは王妃になる意志のないことを王様へ正式に伝えた。
それに伴い金桂臣の若く美しい娘が仁元王妃として迎えられることとなった。

婚礼の儀が終わると、王妃は部屋にあった贅沢品を引き揚げるように命じた。

金の取っ手の引き出しが並んだ家具を、男らが抱えて外へと運び出すのを見ながら、王妃は満足した気持ちになった。
若い王妃は新たな役割を与えられ、やる気に満ちていたのだった。

漢城府の兵曹参判チャン・ムヨルが、王妃の父金桂臣と共に、さっそく挨拶にあがった。

彼らは数年前、全羅道へ暗行御史として派遣されて以来の知り合いである。

父の顔をたてて、王妃はムヨルに親しみの笑みを浮かべ、さっそく今後の相談を持ちかけた。

相談事とは、トンイが王様の寵愛を後ろ盾にヨニン君を世継ぎにしようとしているのか、噂の真相を調べて欲しいというものであった。

ムヨルはトンイのときとは違い、ひとまずこの訪問に関して良い感触を得られたと思った。


監察府のユ尚宮は、今度の内人式で新しく昇格する者の名簿をトンイに手渡した。

成績の優れた者の中から、王妃のために若干名が増員されたのだ。

内人の任命式当日には、監察府の者の他、各部署の尚宮や女官、内官、楽師が内庭へ集められた。

お祝いの言葉をかけて回るトンイに、式がはじまりますので着席なさいますようにと、ユ尚宮が楼閣の方へとうながした。
石段の両側には豪華な花が置かれ、そばに赤帽子の警備兵が立っていた。

とつぜん王妃がお供を連れて押し掛けてきた。
任命式が行われていることを誰かに吹き込まれ、気分を害したようである。

「内命府の長と思っているようですね?」

王妃はトンイに、ちくりと釘を刺した。

が、その言葉にハッと顔色を変えたのは、連絡係のユ尚宮の方であった。

内命府の長は規定では王妃と決まっているが、イニョン王妃が生前、その役をトンイに一任していたために、てっきり今回もそのつもりでいたのだ。

「これからは私の手で、一つずつ正していくつもりです!」

王妃はトンイに向かって忠告した。
絶対の自信を臭わせる物言いであった。


この後、監察府のチョン尚宮は、トンイおつきのポン尚宮にこの件を伝えて心配を口にした。

「大ごとになりそうよ…。王妃様が誤解されているの」

まずいのは王妃がトンイに悪い印象を持ったことだった。



2012/5/10更新





トンイあらすじ56話「王子の婚礼」

ヨニン君の婚礼話を進めようと、王様の客間へ王妃がやって来た。

「宮廷に広がる噂を慎め、世子の座を正すためなのです」

もっともらしい名分を考えたものだ…と王様は思った。

少論派が王妃を後ろ盾としているせいだろう。

王様もクムと同じ年で嘉礼を挙げたとはいえ、我が子となると、やはり幼く見えた。

一応、了承はしたものの、気分はどうもクサクサした。

クムを私家に送り出せば、敵にも狙われやすくなる……

王様はこの動きをどうにかしたかった。

「いいえ、王様。王様がヨニン君のために動けば、噂に油をそそぐことになりましょう。それに世子様もまた傷つくはず。どうか私にお任せください。何としても解決してみせます」

王様は腑に落ちない顔をした。てっきりトンイも自分と同じ考えだと思っていたのだ。

解決する策でもあるのだろうか。


自分がこれから結婚すると聞いて、クムは本当にびっくり仰天した。

「私は婚礼を挙げるのか?!」

ちょこんとあぐらをかいたクムは、長座布団がまるでじゅうたんのように見えた。

その部屋にはきれいな屏風がある。一枚ずつ細い線で白菊が描かれている一方、葉っぱの輪郭や葉脈は荒々しかった。

優しく、また力強くもある絵を背にして、クムは目のふちを赤くし涙目になった。

「私は母上、父上、世子様と一緒にいたいのです……!」

「でも明日には揀擇令が下りるかと…」

女官のエジョンは気の毒にも、そう答えるしかなかった。

揀擇令とは王室の配偶者を選ぶ命令のことだ。

トンイ母さんが様子を見に来て、不安で目をとろんとさせたクムを抱きしめた。 

「心配しないで。この母がそうはさせません……」

それでも不安でたまらないクムは、母さんにしがみついて小さい手の平をあてた。


トンイは庭で青衣の役人に出くわした。

役人は盆に揀擇令の巻き物を載せていた。すでに王妃が命を出したのだろう。

急いで監察府の書庫から儀軌を持って来るようポン尚宮を走らせ、王室の主要行事について手当たり次第に調べた。

それによると世子以外の王子は、母親が揀擇令に関与した古い事例があるらしい。

この裏付けを得たトンイは、さっそく王妃の部屋を訪ねた。

「婚礼の件は王妃様に従います。でもその相手は私に選ばせてください」

王妃は不服な顔をした。でもトンイの方が古株なだけに王宮には詳しいのだ。それにトンイが王妃に就くことを辞退したおかげで、王妃になれたという弱味もある。

王妃はやもえず許可を出してやった。ようはクムを追い出しさえできれば良いのであった。


オ・テプンと息子のホヤンは強引に人だかりの前へ出た。

城壁そばの賑う通りに、揀擇令のビラが貼られていた。


庚年 禮曹参議


 ~すぐにも処女単子を出そう! ~ 

テプンは起死回生の最後のチャンスとばかりに鼻息を荒くした。

ところがいざ帰宅して事情を話すや否や、妻があきれ果てた様子である。

「娘もいないのにどうするのです?!」

それもそのはず処女単子とは、配偶者候補の家門が提出する資料だった。 

「遠縁の親族の娘がいる……!」

テプンは苦肉の策で、何とかコネを作るつもりらしい。

息子のホヤンと一緒に意気込んで出掛けていった。


老論派イングクの資料に目を通したトンイは、ため息をついた。

「資憲大夫や礼曹参判の家系は、名門家で娘も気品があるそうですよ」

イングクはやきもきして言った。これでも最善のを持って来たつもりだった。

その帰り、首を長くして待っていた重臣らの前で、イングクはすっかり肩を落とし愚痴を吐いた。

「どうもよくない」

「でもこれ以上の家門だともっと問題になりますよ……?」

その指摘はイングクにも十分わかっている。とてつもない名門を後ろ盾にしたら、今度こそ王妃が黙っていないはずだ。


房付きのお盆に色とりどりに並んだ角封筒を、青衣の役人がトンイの執務室へ運び込んだ。

トンイは応募のあったそれら処女単子のすべてに目を通した。

トンイが最後の書類を取り出すのを見て、ポン尚宮と女官のエジョンの期待は否応にも高まった。

「この中にはいません……」

トンイは数々の応募書類を突き返した。

これではいつまでたっても決まらないだろう。

そんな風に感じたトンイは、いよいよ自ら決断を下した。


「私が直接、選びます。一人心当たりがあるのです……」



王様にはトンイの言うふさわしい相手というのが、まるで検討がつかなかった。

ハン内官に問いただそうとしたところ、切羽詰まったような顔をする。

確かに何か知っている様子なのに、なぜか言うのをためらうのだ。

王様は何だかそわそわと気持ちが落ち着かなかった。


その頃、前大提学パク・ドンジュ宅にトンイが向かったと聞いて、チャン・ムヨルや少論派の間では大変な騒ぎが起こっていた。

なにしろパク前大提学は、都でも指折りの名家だった。

儒林の影響力は大きく、亡き父は少論の長のような立場にあった。

そんな大人物と婚姻関係を結んで後ろ盾にしようとは…!


ところがトンイはパク・ドンジュの屋敷を確かに訪問はしたが、別の棟に住むソ・ジョンジェと面会した。

ジョンジェは雲鶴の弟子であった。

司馬試に合格した進士で、やはり師匠と同様、朝廷とは無縁の生活を送っている。

この屋敷では弟子の教育係を受けもちっており、手間賃が五両多いと、その場で銭束一本を雇い主へ返してしまうという正直者であった。

そのドンジュの娘が、クムより少し年上だった。

トンイはその娘に会うことができた。

娘はひすい色の茶器にお茶を注いで、トンイに微笑んだ。謙虚でりりしくもある申し分のない娘だった。


噂を聞きつけた村人たちが、わら屋根の粗末な家をわざわざ見に押し寄せ、塀から顔を出した。

「敷地に大木があるだろう? 王気の流れる場所だそうだ…」

野次馬の中には、悔しそうなテプン親子の姿もあった。

薄汚い男が誇らしげに手の平で五を作ってテプンに自慢した。

「この木はウィギョン世子様が自ら植えた樹齢250年の木だよ!」

先代王、成宗大王の父ウィギョン世子様が一時住んでいた所で、宣祖大王もこの書院で学んだとのいわれがあるらしい。

そのどちらもが世継ぎでない立場から、王になった人物であった。


少論派の右相やチャン・ムヨルや重臣が大慌てで対策会議を開いた。

民心ほど恐ろしいものはない…

もしヨニン君があのわら屋根の家で暮らすようになったら、いまに民がヨニン君を崇めだすことだろう。

便殿での会議がはじまるぎりぎりまで、内輪の対策会議は続けられた。


その後、便殿にてチャン・ムヨルが代表して王様に意見を述べた。

「その昔、中宗大王の次子、福城君様が嘉礼の二年後に宮中を出た例があります。私家で命を狙われたことを考えると、安全のためにも宮廷にいるべきかと」


老論派、少論派、南人の皆がクムに例のわら屋根の家に住まわれるより、まだ王宮に留める方がマシだと思ったようだ。

結婚しても宮中にいられる、この期に及んでそんな例まで出してきた。


話はあれよあれよと進んで、クムの結婚式の日が訪れた。

「実感が沸きますか?」

チョンスが本当の伯父さんみたいに声を掛けた。

「まだよくわかりません。私が本当に結婚するのですか?」

いまだにクムは実感が沸かないらしく、つまらなそうにうつむいた。

「そうですよ!婚姻するとは私よりも大人なのですね」

チョンスが励ましがてら笑った。


「クム。嘉礼を挙げる意味は知っているわね?」

トンイが優しく問い掛けた。

「はい! 真の大人になり考えを深めることです」

「そう。守る人ができ、また多くの人を労わる必要があるのよ」

そう聞いたら、クムも何か急に前向きな気分になれたような気がした。


庭の会場には、石橋まで赤じゅうたんが敷きつめられた。その両側には金冠に杓子姿の重臣が並んでいる。

石段をあがったところに祭壇が設けられ、栗、柿、梨、リンゴが金の器に尻を逆さにして盛られている。
小豆や黒豆は脚付きの四角い器に入っており、また長方形の餅が金のお盆へ二段重ねにしてあった。

白い花瓶に葉が挿され、燭台の青い蝋燭が灯された。

王様、王妃、トンイが金龍の背もたれつきの屏風のような玉座についた。

王様は板冠のすだれで顔が隠れている。王妃は台型のかつらで、丸型のかつらをのせたトンイは、幅広の袖を三角に合わせていた。
黄衣に赤や青の裾をのぞかせた女官らも一緒になって、クムの晴れの姿を見守った。

赤衣のクムが座布団の上で、祭壇に向かってお辞儀をはじめた。綿入りの青い絹を着せられたカモの木彫りがクムの方へ、赤布を着たカモは新婦の方へくちばしが向けられている。

新婦はリボン型のかつらを頭にのせた姿だ。尚宮に何色もの垂れ袖を支えられながら、ゆっくりと垂直に沈んでお辞儀する新婦の顔を、そのときクムは初めて見たのだった。


夜になり、クムがようやく眠ってくれたとポン尚宮がトンイに知らせに来た。

なかなか寝ないで子守のエジョンが大変だったと言うのだ。

新婦が母上のように美しかったのがよほど嬉しく、今まで興奮してあれこれエジョンに喋っていたらしい。

「ヨニン君様が早く十五才になればいいのに! 寝床を共にして子を授かるなら、淑嬪様に似た娘がいいですね」

ポン尚宮も大喜びだった。


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トンイ57話「王の密命」

赤鼻の男がヨンギのところに巻物を持って来た。兵の訓練を指導していたヨンギは、その場で巻き物を広げ、不意打ちを食らったような顔になった。

査閲式を取り消すとの命だ。

「何カ月も訓練をしてきたのにどういうことでしょう…?」

部下は不思議がったが、ヨンギもまったく理由を思いつかなかった。

それだけではない。便殿会議の延期や経筵など、数日分の王様の日程が取り消されたのだ。

どこか具合でも悪くされたのかと怪しみ、シム・ウンテクが内医院まで聞き込みに足を運んだほどであった。

そのうち王様より重要な発表があるとの知らせがあり、便殿へ招集がかかった。

玉座のそばに用意された木彫りの椅子に世子が座っているのを見た重臣らは、何か世子と関係のある事なのだと薄々勘付き、場には緊張が走った。

王様は最初から怒っていた。

「我が国の王位継承者はここにいる世子のみである! よって将来のため便殿会議には世子を同席させ、礼曹と工曹の業務について、まずは世子の意見を聞くこととする」

ヨニン君が王位を狙っているとの噂を、きっぱり否定されようとしているのか…

そう感じた重臣たちは、それぞれの反応を表情に浮かべた。王様はさらに続けた。

「もう一つ公表することがある。淑嬪は宮廷外のイヒョン宮で暮らす!」

この瞬間、少論派の右相の口元がニヤリと上がった。

王様はトンイを追い出そうとしているのだ。

ついで工曹にイヒョン宮の修繕を、礼曹判書には出宮の準備をするよう言いつけ、この日の発表を締めくくったのだった。

便殿の石段を下りながら、右相とそのとりまきの重臣らは、皆してほっと胸をなでおろした。小鳥のさえずりの中に重臣らの笑い声まで混じった。ヨニン君はこれで王にならない。めでたしめでたしだ。

一方、シム・ウンテクと一緒にいた老論派のイングクは、今にも泣きそうな声をあげた。

「これはいったい、どういうことなのだっ!」


王様の発表は監察府のチャン尚宮やおつきのポン尚宮、チョンスらをも衝撃の渦に巻き込んだ。


「王様は淑嬪を寵愛しておられたのではありませんか…?」

焦るチョンスの後ろ姿を遠く眺めながら、ムヨルの部下が不思議そうに呟いた。

「あぁ。だから怪しいのだ。誰もが納得できない決定の中には隠された真意があるのかもしれぬ…」

ムヨルはぎらぎらとした目で答えた。

念のためムヨルが部下に調べさせたところ、案の定、王様は発表のあとから都承旨に新たな教旨を下していた。

ところがその教旨がどこの部署へ下されたのかは極秘にされ、詳しいことは何もわからなかった。

ムヨルにはこれら王様の行動が、どうも不気味に思えた。きっと隠された狙いがあるはずだ…


イヒョン宮の修繕作業は淡々と進んでいた。

高床式のお堂に、薄板が何枚も立てかけられている。

二階の役人が、ベッドの柵のようなものを下にいる男から受け取った。

土間のような通路では、角材を二人がかりで運び込んでいる。
朝もやに包まれたお堂は、民家の瓦屋根より頭二つも突き出ていた。静けさの中にも背荷物を担いだ麦わら帽や工事の見物人など、人通りは多かった。


修繕が終わった夜、王様はトンイを迎えにいった。なぜかとても懐かしそうにトンイを見つめて、厳しい処分を下した人というより、悲しみを秘めた人のようだった。

王様はそのままトンイを連れて、イヒョン宮を見に出掛けた。

石積みに建つ母屋は右に折れ、テラス風の柱が並んでいる。瓦屋根が深く沈んで見える一方、障子からは白い明かりが漏れていた。

王様とトンイは殺風景な庭へ立った。ひとけが無く、虫の声がまさに夢の跡のようだ。

「自分が暮らすには大き過ぎるようです…」

トンイは呟いた。

「そうやって平気な顔で答えるのだな。なぜ何も聞かないのだ…?」

王様が哀しそうに聞き返した。

「それは…怖いからです。王様が何を申されるのか…」

発表を聞いて以来、ずっと覚悟はしていたのだ。

何か訳があるのだろう……その理由が告げられるまで、ただ待つしかないと思った。

でもいざこうして王様の眼差しを見て、それが想像以上に恐ろしいことなのだと気付いたのだ。

夜空を眺めていた王様が、ふいに告白した。

「トンイ。そなたはここで暮らす。しかし一人ではない。余もまた一緒にここで暮らすのだ」



 

王妃がトンイにばったり遭遇したのは、東宮殿の庭でのことだった。

一体何の用事で来たのかと王妃が問い詰めたところ、トンイは世子に粥を運ぶところだと言う。

なるほど女官のエジョンが朱塗りの膳を持っている。

王妃は盆に近寄ると、何の断りもなく掛け布をめくって中身を確かめた。

なるほどトンイの説明通りだ。削り粉のような黄色いトッピングが粥にかかっていて、醤油の器、菜っ葉のあえもの、奈良漬っぽい香の物が添えてあった。

「世子の安危に関わります。すぐ下げなさい!」

王妃がむげもなく言い放ったと同時に
、偶然にも世子が御殿の庭へ現れた。

「恐れ入りますが、そんな言い方はおやめください……。淑嬪様は私が宮廷で最も信頼する方です」

王妃は内心びっくりしたようだった。

トンイは母親の宿敵のはず……。それをかばうとは理解がいかなかった。

それにもましてヨニン君の妃にトンイが進士の娘を選んだことが、どうも腑に落ちなかった。
もし噂通りトンイが世子の座を狙うような人間ならば、王気の流れる家に、そのままヨニン君を住まわせたはずだからだ。


*


清に行かせた奏請使が戻ったとの知らせが入った。

清国の密使が王様の要請を受けて、すでに温陽へ到着しているという。

王様はすぐにも彼に会うことにした。

その際、心火症で静養に行くとの発表を出した。

心火症とは神経性の心臓病の一種である。

現地までソ・ヨンギ率いる内禁衛がついていくこととなり、到着後には、陣営の兵士らの警備を徹底させた。

ふと夜空を仰ぐと、メダカのように星が落ちてくるのが見えた。

「悪いことの予兆だろう……?」

ヨンギは長年自分に尽してくれている武官に思わず呟いた。
武官の目には、そうやって微笑むヨンギが、穏やかな中にも、何か疲れたように映った。

「あまりご心配なさらないように……チャ・チョンス都事が宮廷にいるではありませんか」

とりあえずそう声をかけたものの、ヨンギの表情はやはり晴れなかった。


一方この頃までにムヨルは、この四日間の王の密命を把握し終えていた。

王の密命が下されたのは弘文館、司諫院、礼曹、春秋館の4か所である。

そのうち春秋館では太祖大王と太宗大王の記録を再編纂せよとの指示が出されていた。

ムヨルはその両方の書物を手にし、至急、右相の屋敷へと馬を走らせた。

二人の大王の共通点…

それはどちらも退位し、王座を譲っていることに他ならない。

その事実に、はたと気づいた。

王の真意はそこにあったのだ…

つまり世子を王に格上げし、ヨニン君を世弟にするつもりなのだろう。

そしていつかはヨニン君が王となる…

そうなれば将来、まず息の根を止められるのはこの身であろう…

もはや一刻の猶予もならない。

幸いにも王様が宮殿を留守にしている今が最大のチャンスだった。

これはまさに天命とも言えるのではなかろうか。

そのためには王妃の手を借りる必要がある。

ムヨルはそう考えた。


宮殿内を巡回していたチョンスが異変に気付いたのは、春秋館に来てからのことである。

なぜか兵士の姿が見当たらないのだ。

直ちにトンイ周辺の警護を強化するよう部下に告げたところ、まだ若い武官たちが、困ったようにお互い顔を見合わせた。

「実はあなた様に従うなとの命が下されております……。我々は軍曹参判チャン・ムヨル様に従うようにと。判義禁大監様からのご指示です」

チョンスは大きくうろたえた。

とにかく水面下で大変なことが起きているのは間違いない……

急いで赤鼻に事情を調べに行かせたところ、切羽詰った様子で戻ってきた。

「どこも同じです! 兵曹判書も全権をチャン・ムヨルに一任しました!」

なんと宮廷にいるすべての兵力が、いつのまにかチャン・ムヨルの手中におさまっていたのであった。



2012/5/25更新


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トンイあらすじ 58話 「思わぬ標的」


その晩、チョンスは部署の赤門から石段を駆けおり、ブロックアーチ門の前で義禁府の兵士に手紙を託した。

ヨンギのもとへ届くまでに半日。連絡を受け内禁衛の兵が宮中へ応援に戻るのには一日はかかるだろう…

二枚の小さな羽飾りのついた帽子をかぶった兵士は、青い旗を立てた筒に手紙を入れると、背中に掛けて馬に乗った。

馬はやがてブロックアーチ門をくぐり、町の通りを駆け抜けた。

彼らの動きを密かに偵察していたチャン・ムヨルの部下は、青い旗をなびかせながら馬の大きな尻が暗闇に遠ざかるのを見届け、報告に走った。

*

赤鼻の男が残った兵を数えて愚痴をこぼした。

「十六、十七…あぁ~まいったな」

二十名もいない。

トンイとヨニン君を守る兵士の数だ。苦肉の策でチョンスが急きょ、監察府の女官らで補うよう指示を出したほど事態はひっ迫していた。

「なぜ私達が警備するのでしょう…?」

女官らも明らかに戸惑いをみせている。厳しい顔で命じたユ尚宮でさえ、宮中で何が起こっているのか事情をまだ知らなかった。

ただしチャン尚宮はチョンスやシム・ウンテクに聞いて、何か知っているようであった。


一方いよいよ計画のときが近づくにつれ、ムヨルは苛立ちを見せはじめた。

朝方の卯の刻。すべてぬかりはないはずだ。

ここまで下準備を進めた上で、今の状況を右相へ打ち明けに赴いた。

右相は最初、あまりの無謀な計画に戸惑った様子だった。

しかしその他に自分らの生き残る道はないと説得されると、次第に決意を固めた。

計画とは王様が留守のうちにトンイをイヒョン宮へ移すというものであった。

恐らくそこでトンイを殺すのだろう…

右相はそう解釈したようだ。

ところがムヨルの考えは、微妙に違っていた。

「殺める? そんな風に言った覚えはありません。自分で手を下すほど私は無謀ではないです」

「なら誰がやる?」

「王様です。王様の手で行うことになるでしょう」

ムヨルの意外な答えに、右相は口をあんぐりと開けた。

「それは一体どういうことだ?」

「王様が留守の隙に、淑嬪が手下と共に世子様を襲うからです」

「そんなまさか…」

「ご心配はいりません。世子様は我々が守ります。そして彼らは世子様を殺そうとした罪で命を失うことになるでしょう」


*


チョンスから手紙を預かった飛脚兵は、現地に到着後、内禁衛の武官にヨンギの居場所を聞いた。

すると視察中の王様の護衛についているということだったので、すぐにも後を追いかけ書状を無事に手渡すことができた。

すぐにも都へ帰還できればいいのだが、あいにく王様の日程はまだ残っている…

思案の末、ヨンギは内禁衛のうち一班、二班を先に宮廷へ戻す決定を下した。


その後、イヒョン宮に本日中にも移るよう、王妃からトンイへ指示が出された。
トンイにとっては、突然の出来事であった。

ただでさえ数少ない護衛を連れ、外に出て行かなければならなくなった。


こうした事態を受け、赤鼻の男は泣きっ面で悲鳴をあげた。

「宮廷に残る兵は最小限になっています。もうこれ以上減らせませんです!」

そこでチョンスは至急、老論派のイングク宛に手紙を書いた。

ちょうど自宅にいたイングクは内容に目を通すや、執事に指示を出した。
するとたちまち五、六名の重臣が屋敷に集まってきた。それぞれの私兵をイヒョン宮までの道に配備する約束を交わし、とりあえず方策を施したという具合であった。


監察府のチャン尚宮がこれまでの経緯を説明しに、トンイの部屋へあがった。

イヒョン宮への移動の間、暗殺の危険があるため私兵を山中へ潜伏させること。

宮中内の足らない警備は監察府の女官が受け持つことなどであった。

冷静に耳を傾けつつ、トンイはある考えをめぐらせていた。

ムヨルによる宮中の掌握…

王妃のとつぜんの命令…

王様が戻って来たら、これらの騒動をムヨルはどう釈明するつもりなのだろうか?

それがどうも引っかかった。


ともあれ出発しなければならない。落ち着く暇もなく、トンイは無地の外出着に着替えた。

少し出発の時間を遅らせますと言って来たのは、監察府のチョンイムだった。

「駕籠を背負う者が腹を下し、代わりを探しています。もう少々お待ち下さい……」

それで空いた時間を利用して、世子に挨拶して行こうと思いたった。

さっそくトンイが東宮殿を訪ねたところ、庭にいた若い女官がトンイに頭を垂れた。

「王様の代わりに耆老宴の予定で、世子様は外へ参られました…」

最後に会いたいと思っていたのが、結局はそれも叶わない。

それにしても世子も外へ出る予定だったとは初耳だ…

「夏ですから蓮化坊にある耆老宴ですね。道すがら立ち寄れば途中で会えるはずですよ」

ポン尚宮が何気なく口にした言葉が、トンイをハッと驚かせた。

つまり自分らと同じルートなのだ。


*

白羽をつけた黄色い帽子の楽器隊……
次に護衛兵が続き、さらに鮮やかなオレンジ衣をまとった男らが、はしご型の輿をひいて歩く。

民衆たちは草屋根の軒先へ寄り、続々と道をあけた。

同じ頃、私兵集団を引き連れたチョンスが、イヒョン宮ルートの山林へ潜伏していた。

輿の一行はやがて町を抜けて、山の道へ入った。

斜面のはるか下の道を、行列がそぞろ歩く姿が、木々の向こうにちらちら見える。

暗殺の動きがあったら、チョンスはその瞬間にも、私兵を突撃させる構えだった。

金色の日除けと一緒に輿の青い屋根が、次第に近づいて来る。イングクが急きょ集めたという割には、一行の周りをやけに大勢の護衛兵が固めていた。

「ちょっと待て…」

草むらに身を隠しつつ、チョンスは行列に改めて目を凝らした。

金のすだれを背に輿の中でうつむいているのは、トンイでない。
世子だー

その事実に気づいた瞬間、とつぜん地面から火薬が次々と爆発し、護衛らが爆風でひっくり返った。

キャーッと女官らが悲鳴をあげ、役人らが地面に身を伏せた。

土が飛び、白煙がもうもうと上がるなか、世子を乗せた輿がガタガタと地面に不時着した。

「何事が起こったのか?!」

輿から出てきた世子は、事実を確認する間もないまま、ムヨルの部下の案内で煙の中を速やかに避難していく。

直後に、チョンスの私兵が訳もわからないまま、わーっと一斉に斜面を駆けおり始めた。その様子を見て、チョンスはみるみる青ざめた。

「罠だ! やめろーっ。これは罠なんだぁぁ!」

必死で呼びかけたものの、私兵たちは世子の護衛に向かって突進するのを止めようとしない。

トンイを刺客から守るために集められた私兵たちが、世子を襲う反逆者に仕立てあげられていく…
その様を、チョンスはまざまざと目の当たりにしたのだった。

世子襲撃の急報は、宮中へ舞い戻ったムヨルの口から王妃に伝えられた。

「王妃様。淑嬪様と一味が世子様を狙ったのです。ぜひ逮捕する内旨標信をお出し下さい」

内旨標信とは、緊急事態に王妃が下す教旨のことで、王命と同じ効力があるものだった。

「確かに犯罪者は裁かねばならぬ。すぐに届けよう」

王妃はすぐにも承諾すると、都承旨を部屋に呼ぶよう、おつきの女に申しつけた。


「終わった。王妃様が処理してくださる…」

王妃の部屋を出たムヨルは、ようやく肩の荷をおろした。

あとはトンイを逮捕しに行くだけでいいのだ。


タイマツと槍を持った兵士が、靴音を鳴らしてトンイのいる御殿へと走った。

御殿を包囲されたトンイは、覚悟を決めたように御殿の朱塗りの階段を下りていった。

それを見たムヨルが、にやりと勝ち誇った顔で、石畳をゆっくり進み出た。

背後ではムヨルの部下が兵に向かって、最後の指示を下した。

「淑嬪様を捕えろぉーっ!」

ところがどうしたわけか、兵士は微動だにしない。

代わりに声をあげたのは、トンイのおつきのポン尚宮であった。
「何をしている! 早く罪人を捕まえなさい!」

この鶴の一声によって、今度はムヨルの背後に並んでいた兵士らが、急にがさりとムヨルと手下の周りを取り囲んだ。

そのときどこからか都承旨が赤衣の部下を率いて現れ、トンイへ向かって丁寧に会釈した。

唖然とするムヨルを尻目に、都承旨は金房の縁どりが垂れたお盆から、黒塗りの小箱のふたを開けてトンイにうやうやしく差し出した。

白織の布には、金糸で編んだストラップ付きの葉形の黒い札が置いてあった。

中央に金文字で内旨と書かれたその札をトンイは手にかかげ、ムヨルに突きつけた。

「王妃様はこの内旨標信を使い、罪人を捕えよと命じられた! つまりそれは、チャン・ムヨル。そなたのことだ」



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トンイあらすじ 59話 「真心の力」



そのちょっとした騒動は、輿を引く予定の男が急に腹痛を訴え、イヒョン宮への出発が遅れたことにより起こった。

やがて監察府の部屋にトンイがやって来た。
チョン尚宮とチョンイムは作業の手を止めて、すりこぎのような物を器へ置いた。

「間違いありません。淑嬪様の輿を運ぶ者が飲んだ水にツキヨタケの粉が入っていました……」

チョン尚宮の盆には3つの器が並んでおり、中にシイタケに似たきのこと、すり潰した粉が入っている。ツキヨタケの表面はつやつやした赤茶色だ。

「恐らくわざと出発を遅らせるためと思われます」

チョンイムが言った。

この報告のあと、ユ尚宮はチョン尚宮の指示を受け、輿係の男をとある部署へ連れて行った。一体どの女官がツキヨタケ入りの水を運んだのか、1人ずつ顔を調べて回るためだ。


一方チョンイムは、ひとけがないのを確認し、楼閣の朱色の階段を上がっていった。

そこに待っていたのはチョン尚宮である。

「急いでこれを淑嬪様に…」

ささやいて、チョン尚宮が差し出してきた封を、チョンイムは衣のすそから懐へ忍ばせ、駆け足で階段を下りて行った。

まもなくチョンイムから封書を受け取ったトンイは、調査結果へ目を通し、すぐにも王妃の部屋へあがったのだった。

宮中の全兵力をとつぜん握ったチャン・ムヨルが、何かを企んでいるのは間違いないのだろう……

その事実を王妃に信じて貰うために、どうしても納得のいく話がしたかった。


報告書よると今日の宴で当初、世子の行列はキョ洞とタプ洞を経て、ヨナ坊の会場へ向かうはずだったのだ。それが昨夜、急きょ経路が変えられた。その新たな経路というのが、イヒョン宮へ行く経路と一致していた……これは果たして偶然だろうか。

ささいな変化ではあるがおかしい……

念のため王妃へムヨルへの疑念を報告をした矢先、世子の一行を狙った爆破事件が起こった。

するとさっそくチャン・ムヨルが息せき切って王妃の前へ現れたではないか……
世子を襲った現場からトンイの手下が逃走していると、自ら訴えてきた。
そのムヨルのぎらりとしたまなざしを、王妃は疑惑の色をもって見つめざるを得なかった。世子の移動ルート変更の裏に隠された企みを、トンイが事前に予告していたからである…

御殿の前では都承旨がさっきから首を長くして、王妃の決断を待っていた。ゆっくりと石のデッキを歩き回っては、ときおり軒先から燈籠の灯のあたる部屋の方を見つめた。
「王妃様、どういたしましょう。都承旨様が内旨標信を受け取るために、ずっとお待ちです」

おつきの女が不安そうに意見した。

王妃は卓上机の報告書にじっと見入ったまま、人差し指をトントン動かしてばかりいる。

トンイとチャン・ムヨル……

一体どちらの言うことを信じればよいのか…。一体どちらを…

王妃は
内旨標信の白紙を机に広げ、まだ結論を決めかねていた。きらびやかな絵柄の赤いろうそくから、炎が静かに揺らめいた。

が、やがて
意を決して筆を取ると、墨をなじませた。

この後のチャン・ムヨル逮捕はすでに重臣らの知るところである。


ブロックアーチ門を突破した馬は、城壁がそびえる道を駆け抜けた。片手で手綱を操りながら、背を低くし坂道を急がせた。

ちょうどやぐら門のある入口へお供の一行と上がろうとしていた王様の目に、飛脚の背中に立った青旗が映った。

飛脚兵は水路をまたいだ平石を渡りきると馬をおり、あとは自らの足でゴロ石の階段をかけのぼった。4段の石積みのあぜ道にはそれぞれ警備兵が配備されていたが、その中の青衣の兵士が代表で書状を預かり、最上段で待つ王様のもとへ走り届けた。

「宮殿からの使いです」

「余に直接か?」

何事かと思いながら王様は封を開いた。するとまず殿下と書いてあるのが見え、折り畳んだ文の最後にこぶし大の四角い朱印があった。

これはトンイの文字だな…と王様は思った。

その宮殿の急変を知らせる内容を、王様はヨンギにも見せてやった。

自分とクムの命は宮中にいる限り危険ではない。宮中の全兵力を握ったチャン・ムヨルは、王様の留守中にあとで問題になるような事はしないであろう。

この点に関して、ヨンギもトンイの考えに賛成だった。

「だが幸いなことに余の親衛隊は今、宮殿の外にいるのだ。何が言いたいかわかるか?」

王様がヨンギへ意味深に尋ねた。


夜中の子の刻が近づきつつある頃、右相の屋敷へ涙目になった重臣たちがこっそり入っていった。

彼らはチャン・ムヨル逮捕の報を聞いて駆けつけたのだった。

相談の結果、一刻も早く自分達の関与を示す証拠をもみ消そうという事になった。

そのために執事が、急きょ山腹のアジトへ向かった。

そこには世子の行列を襲った際に使用した爆薬の製造小屋があった。今夜も別口の取引を予定していると見え、ゴロツキ一味たちがリヤカーに次々と荷袋を積みあげている。

木箱の中身はダイナマイトだ。色紙で包み、3~4本ずつ束でくくって詰め込んだのを手下の一人が確認し、最後に木ブタをかぶせた。

「頼む。しばらく都を離れてくれっ! この通り身を隠すには十分な金だ」

とつぜんの執事の要求に、ゴロツキのリーダーらしき男の目は鋭くなった。いくらおえらい方の命令とは言え、もうひと儲けしようと出荷の準備を終えたところだ。

「理由を言って貰おうか」

「もう時間がない。殺されたくなければすぐ逃げるんだ」

執事が悲鳴にも似た声をあげたそのとき、林の闇からヨンギ率いる親衛隊が一斉に姿を現した。

親衛隊は山を駆けおり、ゴロツキのアジトへ突撃を開始した。

ヨンギは入り乱れる人の中からある顔を探し出そうと目を凝らした。

「あいつだ。笠をかぶっているあの男を逃すな!」

ヨンギに指さされた男は重臣の執事であった。

執事はゴロツキどもと一緒に獣道を下って逃げ出し、山道へ出るなり、林に繋いでおいた馬の鞍へまたがった。ところが次の瞬間、ヨンギの放った矢が、馬の脚に命中したのだった。

後ろへ振り落とされた執事を捕えようと、ヨンギが走り出したそのとき、倒れていた残党の一人が刀を拾いあげ、とっさにヨンギの腕を切りつけた。

さらに男がとどめを刺そうと頭上へ刀を大きく振り上げたのと同時に、今度はナム副官の放った矢が男の背中に見事、命中した。

兵士に挟みうちにされた一味は、たちまちのうちに捕えられていった。その慌ただしさの中、森は次第に虫の音と沢の音に似た風に包まれた。

ヨンギは考え深そうに、森の隙間から夜空をあおいだ。ちょうどオリオン座の辺りが見える…

「あの星の意味はこれだったか。流れ星は願いが叶うという、そんな意味もあるのだ」

「いかにも民の迷信らしいですな…」

ナム副官は血の垂れた左腕を抑えるヨンギを心配する気持ちと、このさめざめとした雰囲気も手伝ってか、思わず深いため息を吐き捨てたのだった。


取り調べのあと、便殿では王様から厳しい発表がなされた。

都承旨によって読み上げられた処罰は以下の通り。

「罪人兵曹参判チャン・ムヨルとその部下ミン・ホンジュンを即刻打ち首にし、その首をホンサル門にさらす。右議政イム・サンヒョン、兵曹判書カン・モジュ、判義禁府事イ・スンギュ、企てに関与した全てを流刑にしたうえ毒薬を与える!」


引き続き、兼ねてからの思惑通り、王様の退位が重臣らに告げられた。

しかしこれには猛反発の声があがった。

「王様、絶対になりません。国政の混乱は免れません。どうかお考え直し下さい!」

反対したのは重臣だけではない。トンイや王妃も王様の説得を続けた。

ソ・ヨンギは宮中内を移動中の王様を見つけ、近づいて行ってこう進言した。

「恐れながら王様…。今の状況ではやはり難しいかと」

しかし王様は不機嫌な顔であった。その意志は固い。

問題は王位争いの種をなくし、世子とヨニン君を守ることにある。どうやらそれにはもっと別の方法が必要であった。


この問題を最終的に解決したのは、王妃の力添えと言えよう。ヨニン君を養子に迎え、息子にしようと決めたのである。

「王様。ヨニン君の地位が安泰であれば、王様が王位を退かなくても世子とヨニン君を守ることができます」

これなら賎民出身だと文句を言う者もいない。

トンイはその夜、何の心配もなさそうに眠っているクムの頬を愛おしそうになでた。

薄い編みキャップをかぶったクムは、唇が金魚のように小さく可愛い。枕には白地に椿のような花が山吹と茶色の糸で刺繍され、絹の小花を織りこんだ布団がクムを温かく包み込んでいた。

ヨニン君はこれから母を2人持つー

トンイにとっても、王妃の申し出は晴れがましかった。

このご恩にどう報いたらいいのか…

熟考のうえ、トンイの胸にはある1つの結論が浮かんだ。


やはりそれはヨニン君が息子として、王妃様に誠意を尽くすことではないだろうか…

ところで退位をあきらめた王様は、この時点でヨニン君の問題も解決し、さっぱりした気でいたのである。

それがトンイの口から、宮中を出てイヒョンで暮らしたいと急に申し出られたものだから、戸惑いもしたし、その意味がちっとも理解できなかった。

「絶対にならぬ。あれは余も行くつもりで命じたことではないか。なのに、なぜそなた一人で行くというのか…?!」




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トンイあらすじ 60話(最終回) 「民のために」


森の前に白やピンクの花が広がっている。柳が垂れるそばの、スカートのすそが埋もれる草むらで、トンイはぼんやりと昔を思い出していた~

家の縁側に楽師の兄さんが、ヘグムを手に座っている。父さんも一緒だ。

月明かりの中、兄さんが目を輝かせてトンイを呼んだ。

「トンイや」

父さんも同じくそう呼んだ。低くて温かな声。遠い昔の2人の姿を、不思議とすぐそばに感じる。

再び歩き出したトンイは、後ろから声をかけられた。そしてある人の姿を見つけて、嬉しそうに笑ったのだった。


トンイは宮廷を去る日、掌楽院の楽器倉庫に行ってみた。

朝もやが障子を抜けて、木彫り机の上の太鼓やつづみ、寝かせて置かれたシンバルを照らしている。

天井まである棚にベルが並んでいるのを見ながら、ヘグムの前で足を止めた。

ドングリのように艶々したヘグムが3台、専用スタンドへ立てかけられている。

華やかな宮廷行事に使われるこれらの楽器は、朝はまだ静かに眠っているように見えた。


引越しの仕度が済むと、御殿の庭に輿がトンイを迎えに来た。

見送りには監察府の古い仲間たちやチョン尚宮、チョンス兄さん、シム・ウンテクらが顔を揃えた。

王様の出入りする御殿の2階通路の入口では、いつものように赤帽の護衛が石橋の前で直立し、内官や尚宮やたちが忙しそうに行き交っている。トンイは宮廷をいよいよ去る前に、それらの風景を最後と思って目におさめた。


イヒョン宮に着いたトンイは、都で一番の腕利きだという大工らを早速、庭に呼んだ。

「東屋でもつくるのですか? 夏はきっと景色が最高ですよ」

宮廷の服ではなく、ピンクの衣を着たおつきのポン尚宮は、うかれて舞いあがった。

ところがトンイは晴れ晴れとした顔で塀を指し示したのだった。

「東屋ではない。この塀を壊すのだ」

木づちを肩に抱えた男らが、急に戸惑ってそわそわしはじめたのを見て、トンイが丸ひげの男から木づちを取り上げ、塀に重ねた瓦を何層もたたき壊して見本を見せた。

「さぁ! 都の民が誰でもイヒョン宮に来られるよう大きな道を開けるの」

トンイが自信たっぷりなので、男らもようやく戸惑いが取れ、片っ端から乾いた土や埋め込まれた石を崩しにかかった。そのすさまじい音と土埃のなか、ポン尚宮は思わず耳をふさぎたくなったが、トンイときたら実に楽しそうなのだ。

通りに面した塀がぷっつり無くなったイヒョン宮には、連日、民が列をなしてなだれ込んだ。

応援に、尚宮へ昇格したエジョンが宮中から女官を大勢引き連れてやって来た。テントに設けた2か所の受付では間に合わず、列に並ぶ人々から直接、相談事を聞き取って歩いた。

自分の番がようやく回って来た男は、恐縮しながらも事情を詳しく説明した。尚宮はそれを細筆で丹念にノートに書き留めた。


捜査が必要な大仕事になると、トンイはヨンギのところへ行った。

ヨンギの姿が一般の人々と同じ外出着であるのは、朝廷の職を捨て、武科をめざす賎人に剣術を指導しているからだった。仕事にやりがいを感じ、久々に会ったヨンギは声をたてて明るく笑うようなことさえあった。

トンイは濡れ衣をかけられた貧しい奴婢、チルボクなる者に面会するため、捕庁へ足を運んだ。

ひどい拷問を受けたらしく、うつろな目をしていたのが、トンイを見るなり無我夢中で牢の柵へにじり寄り、涙を流したのだった。

「もしやイヒョン宮の淑嬪様では…! お話は聞いています。私のような卑しい者のために…」

イヒョン宮に助けを求めてきたのは、チルボクの幼い娘であった。

その夜、イヒョン宮の執務室には、ヨンギ、チョンス、シム・ウンテク、監察府のチョン尚宮とチョンイムがテーブルを囲み、雇い主の戸曹算士を殺害したとされる奴婢チルボクなる者を救う手立てが考えられた。

「死んだ戸曹算士は面白い人だ」

馴染みの顔ぶれの中でくつろいだヨンギが、いささか皮肉めいた言葉を吐き、隣席のシムに資料を見せた。

シムは正直驚いた。確かに税や貢ぎ物を扱う戸曹部署に務める算士にしては財産が多いのである…

「算士はすべての奴婢が納める税を取り扱っています。その過程で不正を行ったのでしょう」

チョンイムの冷静な分析を聞いたチョンスが、暗い表情になった。

「どうも一人の犯行ではなさそうだ」

算士はもともと両班や重臣たちとグルだったのではないだろうか? そしてそのうちの誰かが算士を殺し、自分らの懐に分け前を入れたのでは…

トンイは夜を徹して、資料を根気強く調べた。それらは捕庁の日誌の他、チョンスやチョンイムが密かに宮中の書庫から持ち出した内部記録にまで及んだのである。


ヨンダルとファン楽師が、わざわざ夜遅くに、シム・ウンテクのいる執務室へ尋ねて来た。

2人が言うには、奴婢チルボクを逮捕した捕庁の従事官と、戸曹算士の部下である佐郎が妓楼で、ひそひそ会っているのを目撃したというのだ。

日が明け、部署の中庭には兵士が集結した。チョンス従事官は1班と2班を於義洞、3班と4班には、ムンソ洞から東学洞に向かう指示を出したのであった。

その様子に驚いたシム・ウンテクが、青衣を羽ばたかせて駆けて来た。

兵まで出動させたら、犯人たちが捜査に気付いてしまう。これではトンイの身が危なくなると心配するのも無理はなかった。

しかしチョンスはさも安心したように、意外なことを口にした。

「そんなことはないでしょう。これは王命なのですから」

総出動した内禁衛は、殺された算士の弟の住む東学洞の家へ突入した。

そうして居合わせた捕庁の従事官と兵士たちを一気に捕えるに至った。

算士は奴婢から二重に税を取り、重臣らと一緒に着服した額を、すべて帳簿に記録していた。

その証拠をもみ消すように裏で圧力をかけられた捕庁の従事官もまた、血眼で帳簿を探しに来ていたのである。


ある日、大工が大勢でイヒョン宮に集まり、丸太を運び込んだり、リヤカーで板を引いたりはじめた。工事を頼んだ覚えはないトンイとポン尚宮が戸惑って見ていると、髪を胸まで垂らした貧しい男が、おずおず嬉しそうに挨拶に進み出た。

「私を覚えておられますか。恵民署で治療を受けさせてくれたでしょう?」

お礼に立派な東屋を建てたいというのである。ここに集まったのはどうやらかつてトンイに恩恵を受けた者たちばかりのようだ。みんな急に作業をやめ、トンイに深々と会釈した。

貧しい男らは、生き生きした顔で東屋を建てた。その様子見せたくて、雲鶴は宮殿からクムを連れて現場に来たのだった。

「王子様。今日のこの光景を忘れないように。聖者の教えよりも尊い教えだからです」

クムはその光景をつぶさに目に焼き付けた。青衣に黒帽子のクムは、この1年の間に、トンイ母さんの働きを遠くから見て、多くのことを学び、成長した。


王様は何かと口実をつけてはイヒョン宮へ立ち寄りたがる。それがイヒョン宮の方角だなんて、ちっとも知らなかったなど、あまりにしらじらしいので、ハン内官もおかしく思ったものだ。

トンイの誕生日の夜には、お忍びデートへ出掛けた。

軒先にちょうちんが連なる露店は、夜通し、人通りが賑やかだった。

たくさん埋もれた房飾りの中から、トンイが1つを手に取った。淡いグリーンが下へ行くほど濃くなった品だ。自分の紫のチョッキに合うかどうか、長い房をなでながら品定めするトンイに、王様が苛立ったようにちゃちを入れた。

「見るからに安物だよ。あといくつか選びなさい。いや。この台にあるのを全部貰おう」

男の店主は驚き慌てながら、何か入れ物を取ろうと商品台の下に深く腰をかがめたものの、2人の話し声を聞いて、また立ちあがった。

「いいえ、王様。今年は飢餓がひどいので浪費したくないのです。10年、20年、ずっと王様のそばにいるのに。その時また贈り物や宴をしてくださいね」

これはどうもトンイに賞賛がありそうだと、店主はトンイから緑色の房飾りを1本だけ受け取った。

すねてしまった王様は、そうかと言って何もいい反論を思いつかず、ふっと優しい微笑みを漏らした。

「あぁ。余の負けだ。そなたに勝ったことはない。その代わり来年が過ぎ、再来年が過ぎ、20年が過ぎても余のそばにいると約束するのだぞ」

「王様…」

「そうだ。それだけでいい。余の望むのはそれだけなのだ…」

王様がしみじみ言ったとき、トンイが「あっ」と暗闇を逃げる4人組の男を指さした。不自然なほど大きな袋を肩に担いで、屋敷の裏手口から出て来たのだ。

「あれは誘拐ではないか?!」

王様がハン内官に捕庁の出動を命じてまた戻ってきたときには、すでにトンイは屋敷の塀に身をかがめて、中を探ろうとしているところだった。

王様はトンイの隣に座り、実にやきもきした。捕庁が早く来てくれればいいが、こんなときに限って遅いのである…

そんな心配を知ってか知らずか、トンイがヒソヒソとささやいた。

「私が追っていた密売人の隠れ家のようです。急がないと証拠が燃やされてしまいます。そうだ! 王様、一度だけダメでしょうか? 私がこの塀を越えますから、一度だけ台になってください…」


そのめでたく豪華な儀式は、正殿の大広場で行われた。

王妃と赤じゅうたんを歩いて入場するのは、青年になったヨニン君である。

壇上の席で赤衣の男が金の巻き物を広げ、「鞠躬四拝」を大声で読み上げると、杓子棒をかかげた赤衣の重臣らが、お辞儀をしながら「千歳」を叫んだ。

朝鮮第21大王、英祖の即位である。


大勢の護衛を引き連れ、英祖は墓地、昭寧園を訪れた。深い林に囲まれた緑のなだらかな丘がはるか細く伸びた奥に、瓦屋根の塀で3方面を囲んだトンイの墓地がある。

こんもり4~5メーターほど築かれた墳墓の周囲に、まばらに立った小さな馬や仙人風の石造、小鳥や蝉のさえずりが、のどかな心地良さを誘った。

「母上のためにも私は最も王らしい王になります。そうしてみせます」

母を懐かしみ、英祖は誓った。

英祖のそばに立つチョンスは、すでにひげに白いものが混じる。しかし怪しい動きを誰より早く察知し、急に丘を走り出した。

チョンスに追い詰められた貧しい少女は、木の幹にうずくまってひざを抱えた。

うつむきながらも、こちらの隙をうかがうような賢い目は、驚いたことに少女時代のトンイに瓜二つだった。その子の緩んだ手の中からマツタケムシがのぞいていた。

「淑嬪様は生前、賎民に尽くしてくれました。だから近所の子はマツタケムシを取っているのです」

女の子は自信のある顔で答えた。チョンスは心に嬉しさを秘めたまま、少女の頭をなで、その尊い行いを褒めてやった。

トンイは今も皆の心の中に生きているのだった。


英祖の一行が墓地を引き揚げたあと、緑の大地にトンイは一人で、たたずんでいた。

大木のそばで待つトンイのところへ、さっそうと歩いてくるのは王様だ。

王様は疲れをねぎらうようにトンイの両手を握りしめ、そっと抱きしめた。

トンイは目を閉じ、しみじみとその幸せを噛みしめた。手をつないで緑の中を歩く2人の後ろ姿は、だんだん小さくなっていった。



2012/6/4更新





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最終更新日  2020年10月11日 20時01分43秒



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