アルタクセルクセスの王宮址遺跡

2007/07/23(月)03:25

ヨーロッパのとほほニュースで考える

ヨーロッパ・EU(89)

 いつものように「Spiegel Online」を読んでいたら、とほほなニュースを発見。  しかしこれは日本だったら(あと選挙直前のような今のような状況だったら)笑えないんじゃないかと思えるニュース。  まずはスペインから。スペインのある風刺週刊誌が、フェリペ皇太子とレティシア妃(元人気テレビキャスター)がナニに及んでいる漫画を掲載したところ、裁判所がこの漫画は侮蔑的で王家の尊厳を損ねるということで出版差し止めを命令した。  漫画ではベッドの上でナニしてる最中の皇太子が相手の妃に向かって、 「君が妊娠したら、僕の人生で初めて何か実りのある仕事をしたことになるな・・・」 と言っている図柄。日本と同じく少子化(出生率1.3)に悩むスペイン政府が、近頃新生児一人当たり2500ユーロ(約42万円)の支給を決めたことと、「税金泥棒」としての王家に対するからかいの意をこめた漫画である。  裁判所の決定を受けた出版社側は「我々は本当に2007年に生きているのだろうか」とコメントしている、とのこと。  新生児への支給法が王家の人間に同じく適用されるのかどうか知らないが、うーん、こういうセンスははっきり嫌いだな。昨年のデンマークのムハンマドの風刺画騒動じゃないけど、「言論の自由」とかをはき違えているように思う(こういうのはなぜか風刺漫画が多いけど)。  ナニって(まあ別に性交渉でも排泄でもなんでもいいんですが)誰でもすることだと思うんだが、そういうのを使った「風刺」って風刺になってないと思う。これ書いた漫画家だって当然家ではナニしてると思うんだけど、そういう誰でもすること(あるいは病気とか)で相手の人格を貶めるってのは最低限のルールを破ってるんじゃないかと。風刺というより確かに侮辱というか中傷だと思う。僕は「Mr.ビーン」は好きだけど、あれのたとえばエリザベス女王のオナラネタとかは全く面白いと思えない(気取った王家の人間がへまをやらかす、というのなら面白いと思うけど)。  まあ低俗な雑誌に目くじら立てるのは野暮というのかもしれないが、やはりこりゃまずいだろ。  現スペイン王家ブルボン(ボルボーン)家は1931年に一度王位を追われた後、独裁者フランコが1975年に死んでその遺言で復活したものである。  「無脊椎のスペイン」(オルテガ・イ・ガセトの命名)は左右の揺れが激しい国で、20世紀に王制・軍部独裁→共和制(左派)→内戦→ファシズム独裁政権→王制と揺れ動いたが、一番国が荒れたのは共和制とそれに続く内戦時代だった。もちろん独裁政権下でも激しい弾圧があった。現在の王制下では左右の政権が交代しているが、おおむね左派政権が強い。学問の世界(考古学とか)でも、フランコ政権下で禁止されていたマルクス系の思想がむしろヨーロッパで一番流行っているのだそうだ。  今の国王フアン・カルロス1世はフランコの遺言で王位に戻ったのだが、彼の声望を高めたのは1981年2月23日の軍部のクーデター事件で、国会を占拠して首相らを人質にフランコ時代の復活を目指した軍の一部に対して、軍最高司令官の肩書をもち軍に近いと思われていた国王は断固反対を表明して事態を収拾させた。このおかげで今のスペイン国民はおおむね王制を支持しているといわれている。ただ左派も強いし割合歴史の浅い王制に対する反感も根強いのかもしれない。  ところでもしこういう漫画が日本の皇室を題材に雑誌に掲載されたら・・・・。ちょっと考えられないな。アングラ雑誌とかならともかく。載せたら載せたで恐い人とかが出版社の周りをうろつきそうだ。日本でおおっぴらに天皇制廃止を唱えてる政党ってあるのだろうか。共産党とかはそうなのかな?辻元さんのいる社民も怪しいが。僕は皇室の人々個人には全くと言っていいほど思い入れはないが、天皇制自体は(女系だろうが男系だろうが)維持すべきだと思っている。  日本の皇室と同じく、39歳のフェリペ皇太子も子供は今のところ二人とも娘で、男系維持か女系容認かで揺れているそうだが(19世紀にはそれが名目で内戦=カルリスタ戦争にもなっている)、どうなるんだろうか。  風刺漫画といえば、先日のEU首脳会議でポーランドがゴネて問題になったが、その直後ポーランドの風刺週刊誌が、この会議の議長を務めたドイツのメルケル首相の両の乳房にポーランドの大統領と首相のカチンスキ兄弟が吸いついているコラージュを表紙にして両国で物議をかもしたことがあった。  雌狼に育てられたロムルスとレムス(ローマの建設者)の逸話と、新ローマ帝国=EUをかけた、洒落としては結構面白いと思うのだが、図柄があまりに悪趣味で・・・・。ヨーロッパ人のセンスというのは時々分らんことがある。 ・・・・・・・・  次のニュース。今度はベルギー。  ベルギーでは6月10日に総選挙が行われ、キリスト教民主党が躍進して第1党になり、自由党のフェアホーフシュタット首相が退陣を表明した。次期首相就任が濃厚なキリスト教民主党のレテルメ党首が、教会でのお祈りに参加する途上、テレビ局ののインタビューを受ける。  「党首、今日は7月21日の建国記念日ですが、何の日かご存じですか?」 「んー、憲法記念日かな」 「いいえ」 ・・・・正解は、1831年にベルギーがオランダから独立した際、初代国王レオポルト1世が即位した日である。  続くレポーターの意地悪な質問。 「党首、国歌の歌詞はご存じですか」 「ちょっとならね」 「それではちょっと歌っていただけますか」 と言われて党首が歌ったのは「♪Allons enfants de la patrie...」、隣国フランスの「ラ・マルセイエーズ」だった。  しかもその後の教会でのお祈りで国歌が合唱されたときも首相は歌わず、しかもキリスト教民主党党首のくせに、お祈りの最中ずっと携帯電話で話をしていましたとさ、チャンチャン。  国歌の正解は「ブラバンソンヌ(ブラバントの歌)」である。  ベルギーは周知のようにオランダ語(6割)とフランス語(3割)が主要な国語として拮抗する国だけに、オランダ系である党首がうまく答えられなかったのかな、と思ったが、この国歌にはお国柄を反映してオランダ語、フランス語、ドイツ語(人口比では1%程度)の3ヴァージョンが存在する(言語により多少ニュアンスが違う)。あとインタビューのビデオを見ると、党首は流暢にフランス語を話し、語学上の理由ではないように思える。  首相はしょうもない質問をするリポーターにふざけてフランス国歌を答えたのか、それとも本当に知らなかったのか。ただ国王が演説するときも両言語でするというくらいデリケートな問題だけに、首相がフランス語ヴァージョンの歌詞を知らないというのは大問題なのだろうか。昨年末国営テレビが「フランス語圏が分離独立し、国王が旧植民地のコンゴに亡命した」と確信犯的(「深い論議を起こすため」)に誤報を流しただけに、単に失言というより根が深そうな問題である。  ちなみにこの国歌、1831年の独立以来事実上の国歌の扱いを受けているが(そのため歌詞も大時代な感じ)、法的には制定されていないという。またレテルメ党首は第一党の党首として国王から組閣を要請されているが、連立交渉が難航しており、場合によっては第一党を抜いた第二・第三・第四党による組閣もありうるという。  さて日本の「建国記念日」(2月11日)って何の日か知ってます?  正解は紀元前660年に神武天皇が即位した日だそうで、戦前は「紀元節」と呼ばれた一番大切な祝日の一つだったわけですな。名前は変わっても維持されているわけね。これは今後答えられない首相が出ても仕方ないんじゃないかと思うが。ていうか僕も大学に入るまで知らんかったし。紀元前660年は今は縄文晩期か弥生早期かでもめているわけですが、ものの本によっては(考古学書籍で見ることはないですが)神武天皇は紀元前2~1世紀とか紀元後1世紀ころの人、という推測を書いているものもある。キリストと同じで、大事なのは神話とか物語であって実在性ではないと思うんですがね。  国歌のほうはさすがに間違える人はいないと思うけど、あえて歌わない人はたくさんいそうですね。この党首の場合に例えると、アメリカや中国の国歌か、「緑の山河」を歌うようなもんだろうか。日本の言語環境ではそもそも外国の国家を歌える党首はいなさそうだけど。  スペインのニュースとのつながりでベルギー王家のことを書いとくと、ここの王家はザクセン・コーブルク・ゴータ家である。この家系はもともとドイツ(現バイエルン州とチューリンゲン州)の小領主にすぎなかったのだが、ヴェッティン家の末裔という血筋の良さからヨーロッパ各地の王家との通婚が多く、象徴君主として迎えられることがあった。1831年ベルギーのほか、1878年に独立したブルガリアの王に迎えられたほか(ブルガリアの前首相はこの王家最後の王)、王女との通婚により旧ポルトガル王家にもなった。  また仮に日本の皇室のような男系相続の原則で見れば、ザクセン・コーブルク・ゴータ家のアルバートとヴィクトリア女王の結婚により、イギリス王室にもなったともいえる。現エリザベス女王がその最後となり、チャールズ皇太子からはグリュックスブルク家(フィリップ殿下は旧ギリシア王子)ということになるが、これはやはりドイツの家系で現デンマークおよびノルウェーの王家、かつてのギリシア王家である。  ・・・ヨーロッパが統合できるわけだ。逆にフランス、ドイツ、イタリアの共和制樹立が非常に衝撃的なものだった(その結果はナポレオン、ヒトラー、・・・・ムッソリーニは王制下だな)のも頷ける。一方で王家が親戚でも、大戦争は避けられなかったものなんだろうか。

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