ガラスの帝国

2005/08/05(金)09:11

創世以前のSF

SF巨大生物の森(12)

最初のSF作家として普通認知されているのは、ジュール・ヴェルヌもしくはH・G・ウェルズである。 しかしそれ以前にもSF的な文学は存在した。 おそらく最古のSF的小説は、古代ギリシアの作家ルキアノスの書いた『イカロ・メニッパス』であろう。この小説では、主人公のメニッパスが両手に翼をつけてオリュンポス山の上からイカロスのように(イカロ)飛び立って月の世界に行き、そこで月の哲学者と会う。 そしてかれに、目を千里眼にしてもらって地上を見て、世界の小ささを実感する。 日本の竹取物語(平安時代)では月から人が来るし、浦島太郎(室町時代)では時間の流れの歪みが描かれている。 14世紀にダンテ・アリギエーリによって書かれた『神曲』も、そこかしこに当時の科学的知見が盛り込まれ、天国篇においては、主人公ダンテが天動説宇宙に基づいて構想された天界を遍歴し、恒星天の上にまで昇っていくという内容になっている。 より時代が下ったところでは、17世紀に天文学者ヨハネス・ケプラーが天動説が主流であった当時、地動説の考えに基づいて書いた小説『夢』がある。 この小説は、天文学者ティコ・ブラーエからアイスランド人ドゥラコトゥスが地球(ヴォルヴァ)と月(レヴァニア)を自由に往復する精霊に連れられて月世界へと旅行する物語である。 さらに近代に近いところでは、1816年に当時19才の少女であったメアリー・シェリーが書いた『フランケンシュタイン-あるいは現代のプロメテウス』がある。 科学者ヴィクター・フランケンシュタインが死体をかき集めて人造人間を作ることに成功する。 こうした造られた人造人間は、人間のこころを持ち、フランケンシュタインに対して、自分の伴侶となり得る異性を一人造るように要求する。 しかし人造人間は、自己の存在に悩み人間への絶望から、殺人を重ね最後は北極の海へと消えて行く。 この小説は、メアリー・シェリーが夫(パーシー・シェリー)とともにバイロン卿の別荘に行った時に書かれたものである。 ある日バイロン卿が3人でめいめい怪奇小説を書いて互いに見せ合うことを提案した。 パーシーとバイロンは途中で小説を投げ出してしまった(バイロンがこの時書いた構想を借りて、後にポリドリが『ヴァンパイア』を書いた)が、メアリーはこの小説を仕上げた。 ここで注目したいのは、本作がSF的テーマを扱っていながら「怪奇小説」として書かれたという事実である。 メアリーの先駆的な業績は、科学小説を書こうというモチベーションによって書かれたわけではないのである。 しかし現代では、メアリー・シェリーが「SF」の先駆者あるいは、創始者であると一般的には捉えられている。 参考:フランケンシュタイン・コンプレックス

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