日本語は 女の不思議男の謎…74 朝吹龍一朗
先日仕事で三陸を回っていたとき、なんということもない道端で、日本のエーデルワイスといわれる「ハヤチネウスユキ草」を売っているのを見かけた。 ちょっとびっくりである。 この植物は確か国が指定して保護されているはず、と思っていた。どうやら最近は保護と繁殖と、それに実益を兼ねて、特定の業者に栽培と販売を許可しているらしい。岩手県知事発行の立派な「許可証」のコピーが風に揺れていた。 日本では早池峰山と北アルプスの一部にしか自生していないと記憶しているが、ヨーロッパアルプスではけっこうどこにでもあるようで、朝吹が最初に出会ったのは登山電車でユングフラウにのぼる途中の乗換駅のそばだった。 その時の連れから、これがエーデルワイスだよと教えられたとき、積年の憧れが崩れた。ちょっとがっかり。朝吹に会ってもちっとも幸せそうに見えない・・・。 これもヨーロッパ3大がっかりの番外編のひとつかもしれない。 朝吹の想像の源は、白いエプロン姿のジュリーアンドリュースが両手を広げて「Edelweiss, edelweiss, Small and white, clean and bright, You look happy to meet me!」と歌う場面である。 実はヨーロッパではエーデルワイスのエキスに美肌効果があることが古くから知られている。もう忘れそうなくらい昔のこと、カメリアというあだ名の、音大で声楽を学んでいるガールフレンドにそのキャッチコピーを紹介した。「エーデルワイスで美しくなろうって、知ってるかい」「へえ、歌うと美肌になるんだ!」「???」「だって、リュウとくればジュリーアンドリュースでしょう」「おいおい。でもそういえばあの歌は元々はドイツ語じゃなかったかな。映画では英語だったけど」「そうだったわね。でも歌う言葉といえば何といってもイタリア語よね」「なるほど、するとドイツ語は、ホントは哲学するための言葉かな」「そう、英語は、詩の言葉よ。そして、フランス語は、愛を囁く言葉」「じゃあ、日本語は?」「日本語は、どれもできない」「そうかな」 朝吹は一つ深呼吸をした。そのままカメリアの顔を芝居がかってのぞき込むと、「君のこと、好きだな。 キミガスキ スキスキスキサ アイシテル 愛してるウウウ~・・・。 愛することと死について。なんてね、使い手によって、すべてできる」と言った。 カメリアはしばらく目をそらしていたが、やがて朝吹に向き直ると、「で、本心は?」とつぶやいた。「別かもよ」「そう、日本語は、ウソをつかれることばなの、わたしにとって」「でも嘘と不実は違うよね。『虚実皮膜』ってやつさ」 若かった朝吹には、これだけ返すのがやっとだった。人気blogランキング投票よろしく 今日はどのへん?。