長距離走を速くなる(2)トレーニング編
先ほどの内容から、レベル分けと練習方法について記します。まずレベル分けから。i)~17'00"ii)17'00"~16'15"iii)16'15"~15'40"iv)15'40"~15'00"v)15'00"~そして練習方法について。特にここでは"必要条件"という意味で述べる事に注意してください。i)有酸素系能力改善jogii)有酸素系能力改善+LTレベル向上(MCT量改善)jog+PRiii)有酸素系能力改善+LTレベル向上(MCT量改善)+遅筋内ミトコンドリア量、質改善(酸化酵素活性)jog+PR+低質インターiv)有酸素系能力改善+LTレベル向上(MCT量改善)+遅筋内ミトコンドリア量、質改善(酸化酵素活性)+速筋内ミトコンドリア量、質改善(酸化酵素活性)jog+PR+低質インター+高質インターv)上記+ランニングエコノミー区分け別に少し解説を行います。まず初めにi)について。ここまでの段階では、自分の感覚的にはインターバルもPRも必要ありません。理論的な言葉に直せば、有酸素系能力を引き上げるだけで、ここまでのレベルには到達可能なのではないでしょうか。逆な言葉で言えば、エネルギー産成だとか、乳酸処理の概念などは大して必要なく、"超回復の原理"と補強(これは最後におまけで説明しておきます)を丁寧に理解、実行すれば問題なくここまで到達出来るでしょう。ここまではスピードなどという考えは必要なく、ただただ疲労物質を除去する、我慢するだけでいいはずです。練習方法でいえば、毎日60'くらいまともに走れる体力をつけましょう。また、ポイント練習をしない分、流しをかかさないようにし、身体に刺激を与えるようにしましょう。流しの方法としては、100m-150m程度の距離を3本くらい。全力ではなく8-9割くらいで余裕を残し、自分の理想のフォームを描いて走れば良いと思います。ここでの体力的な目安(5000m 17'00")を考えると、PRで4'00"/km12000m くらいが出来れば問題ないと思います。次にII)について。ここらのレベルまで到達すると、有酸素系能力という概念だけでは事足りなくなり、スピードという概念、言い方を変えればエネルギー効率という考え方が少し必要となります。換言すれば、より出力が必要となります。しかし、このレベルでも大してインターバル練習は必要ありません。これもまた私の感覚的な話ですが、このレベルまではjog+PR+流し程度で充分な気がします。再び理論で換言すれば、有酸素系能力がしっかりしていて、また乳酸処理もそこそこできて、さらにちょびっとエネルギー効率が高ければ問題ありません。とにかく、このレベルでもスピードやエネルギー効率を考えるよりよっぽど持久力、すなわり疲労物質の代謝に焦点を当てた方が良いでしょう。練習方法でいえば、まずjog,PR後の流しにてもう少し専門的なものも導入します。距離は200m - 300mとして、間をjogでつなぎます。レベルの程度にもよりますが、200m(r=200mjog) 33" (60" - 70")300m(r=100mjog) 54" (40"- 60")くらいを行います。まぁ軽いインターバルのようなものですね。疾走区間も大事ですが、より重要なのはつなぎのjogです。ここはしっかりタイムを計り、落としすぎないようにしましょう。このような流しを取り入れる事で出力をアップします。理論で換言すれば、遅筋内のミトコンドリアの量、質をすこし改善するってことですね。PRについては、設定は次のようなものです。12000m(好コンディション)4'00"/km ⇔17'00"3'50"/km ⇔16'40"3'40"/km ⇔16'15"このくらいが出来ればよいでしょう。さて、iii)について。自分の感覚で言えば、ここもii)と大して変わりません。あくまで、持久力系の練習、すなわち疲労物質代謝効率向上のための練習に主眼をおけば良いでしょう。スピード練習はそれなりに重要ですが、それよりもjog、PR、スローインターバルです。ただ、やはりこの位の段階になれば、少し高いスピードが要求されるので、ファストインターも少し必要となると考えられます。個人的な感想を言わせて頂ければ、私は15'36"までは大したスピード練なく行けました。多分1000m2'50"切れないレベルだったと思います。ただし、距離重視の練習を取っていたため、それなりに有酸素系能力、LTレベルは高かったのだと思います。ここでそのような主張をするのは、これが背景にあるからですね。練習方法で言いますと、まずスローインターバルは次のようなもの。400m * 10-12(r=200mjog)72" - 74" (65")1000m*5(r=200mjog)3'08"-15" (65")400mの場合は( 5000mレースペース - 4")くらいが目安。1000mの場合は5000mのレースペースが目安になります。ペース走については、12000mで3'35"/kmくらいまで引っ張っていければ良いのではないでしょうか。ここではとにかく、このペース走のペースを向上できるようにする事を大事にします。ようやくiv)について。"ここから"はもろにスピード系能力が必要となります。理論的な言葉で言えば、速筋中のミトコンドリアの量、質(酸化酵素活性)の改善が必要となります。感覚的な言葉で言えば、1000mで2'50"を簡単に切るくらいの能力は必要になるのではないでしょうか。ここらは本当に境目だと思います。今までは有酸素系、持久力だけを考えれば事足りましたが、ここから先は真にスピード、エネルギー産成を真面目に考えなければならないと思います。練習方法としては、上記のスローインターバルに加えて、以下のようなファストインターバルを導入します。300m*10 (r = 100mjog)48"-50" (r=60")400m*10(r=400mjog)64"-66"(r=2'00" - 2'30")1000m*3(r=1000mjog)2'50"-55"(r=5'00")このような練習を行う事で、出力を無理やり引き上げます。特に、中学、高校などで特化したスピード練習をしていない選手、または1500mで大したタイムを出していない選手は重要視する必要があるでしょう。最後にv)について。ここからはもはやすべての能力が必要というしかありません。ここで"ランニングエコノミー"と記したのは、このレベルで差がつくのはランニングエコノミーの良し悪しだからです。レベルが高くなるにつれ、上記したVO2Max,LTレベルというのは伸びづらくなり、それらの部分での差というのは縮まるようです。そして、タイムの差が生じるのは、主にこのランニングエコノミーが高いか低いか、感覚的な言葉で換言すれば、フォームが良いか悪いかに依存します。逆説的にいえば、このレベル以下ではフォームの良し悪しよりもVO2Max,LTレベルの方がタイムにもろに影響するという事でしょう。練習方法としては、もはやiv)で記したような特化したスピード練習は必要ないと思われます。あれは一度はそういう局面を迎えるべきだというもので、それを継続して行う必要はないと思うので。それより重要になるのは、スローインター、PR, jogなどですね。このレベルだとスローインターバルといいつつも、速筋を使う必要が出てきて、速筋内のミトコンドリアが改善するんじゃないでしょうか。多分、低レベルの時とは使用する筋肉の質が異なるのでは。レベル別の説明はこれで終わり。これ以上を狙うなら、ミトコンドリアの量、質(酸化酵素活性、MCT量)、及び毛細血管量を改善する事を重視すべきですね。VO2MAXはサチりやすい(上限に到達しやすい)と言われているため(換気能力の限界からでしょう)、それを指標とする考え方はすてるべきですね。大体こんな所です。結局、練習というのは身体のどの部分を改善したくて、それをするためにはどのような刺激を与えるべきかで決まります。その意味で言えば、具体的なメニューよりも、上記したような目的とそのための手段さえ理解しておけば良いといえるでしょう。何をしたかが重要ではなく、何のためにどうやったかが重要なのではないでしょうかね。--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------最後に超回復の原理の理解と補強に対する理解について。これらは練習方法について論じる前、長距離に取り組む上で前提条件として必要になるものです。超回復の原理についてですが、これはまず頭で理解して、さらに感覚的にも身体で理解しなければなりません。ここを抑えていないと、どんなに練習の方法論を論じようが意味がありません。頭の理解は簡単なもの。身体に負荷を与えて、それを"ちゃんと"回復させれば、元の状態より優れた状態になるというものですね。ここで重要なのが"ちゃんと"の部分です。当たり前ですが、私生活を乱して(栄養不足、睡眠不足)、回復が不十分であれば、状態は元の状態以下になります。だから、練習すれば力はつくというのは嘘で、本当は練習をして、ちゃんと休めば力はつくというべきですね。その意味で練習と回復というのは一対一くらいの割合で重要なものです。さらに、上記の事を感覚的にしっかり理解して置くことが非常に大事です。頭で理解しているのと、身体で理解するのとでは重要性の感じ取り方が全く異なります。その意味で、回復は重要と身体に覚えさせる必要があります。身体に覚えさせる簡単な方法としては、普段実施していない身体にプラスになる事を試しに習慣付けてみればよいでしょう。例えば、練習後、すぐにオレンジジュース(ただし100%に限る)と鮭おにぎりを食べるとか。これは、練習後すぐの時間帯は栄養の吸収率が高いからです。この時間帯にクエン酸+炭水化物&タンパク質をとるようにすれば、それだけで回復量は上がるはずです。または毎食、豆腐を食すとか。長距離選手は基本的にタンパク質が不足がちだから、それだけで筋肉の回復は違ってきます。それらを行い、実際にやるやらないでの違いを見る事が大事です。次に補強について。これも前提条件として必要で、具体的には体幹強化の補強をする際には必ずタンパク質摂取を心がける事です。わざわざ何故これを挙げるかというと、まず長距離を走る上で体幹の強さというのが絶対的に必要である事が一点目です。二点目は長距離選手の筋トレというものに対する理解の低さからです。長距離選手は基本的に脂肪を落とすことには非常に敏感ですが、筋肉をつけることには非常に鈍感です。超回復の原理からもいえる事ですが、補強をした所で自分が積極的に栄養をとり回復し、自分自身でレベルを引き上げようとしなければ筋肉はつきません。そして、そのように積極性を持つ選手は長距離選手には少ないと考えられます。理論的なものはこれですが、トレーニングについては個人差がありどれほどの効果が出るかは計り知れない。その辺は練習と結果を見ながらください。