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【あの日あの時】 【STORY-1】 今頃の時期であったろうか。 列車が丹那トンネルを抜けた途端に景色は銀世界になっていた。 心の中では「しまった。」と思っていた。 この様相では丹沢は雪になっている。だが、引き返す訳にも行かない訳もある。 小田原から小田急線に乗り渋沢駅で下車すると、少し空も暗くなっていた。 「4本爪持って来たか」と尋ねると、『無いよーっ』と言う。 何とも淡白な返事だ、いつもこの調子だこいつは。 丹沢へ行きたいから連れて行って、と懇願したのは何処のどいつだ。 普段、これで幼児の面倒を看ている職業とはとても思えない。 駅前では大倉高原行きのバスがワイパーを揺らしながら待っていた。 「〇〇せんせいー とか呼ばれてるんだろね」 『そうね。悪いー。』 実に素っ気なく、子供じみた返事に私は言葉に詰まった。 私はお連れさんを、いつもフーちゃんと呼んでいる。 バスには、既に数名の登山者が座席を確保していた。 ふと奥を見ると、顔なじみの者も居る。 その中の一人と目が合ったので「こんばんは。」と挨拶を交わした。 藤沢のオイル〇ール事業所で働いている渡辺さんだ、 以前会った時の話の中で、新卒だとも聞いていた。 「今日もお一人ですか?」と尋ねると、 彼女の『はいっ。』と元気な声が返って来た。 元気者の戸沢・〇〇小屋の常連さんなのだ。 と背後から小声でフーちゃんが『だーれ。あの人』と言う。 私は無言でいた。そんな返答をする距離もない狭いバスの中の空間なのだ。 こいつは無邪気と無頓着が同居した子供だと思った。 バスは県道を横切り車の少ない山道へと入り、 20分ほど走ると終点の大倉高原に到着する すでに日はとっぷりと暮れ、休憩所の明かりだけが狭い周囲の空間を照らしていた。 それぞれが荷を持って降りて行くと、私たちもそれに続いた。 渡辺さんは下車して荷の中からヘッドライトを取り出しているようだった。 渡辺さんと少し距離が開いたので、フーちゃんにひと言告げた。 「ああいうこと言っちゃ駄目だってー」と、 『だってねー』そこでフーちゃんの言葉は詰まった。 他の登山者は左の路から花立山荘に向ったようだ。 さて「これから【お三人さん同行】だからねっ」行こうか。 水無川の渓流を渡ると戸川林道に出る、これから夜道をてくてくと 二時間近く歩くことになる。 若者同士の話は、あちこち飛んで他愛もない話が多い、だから面白いのだ。 右手は緩やかに削られた山の法面、左手には絶えず渓流の音が聞こえている。 絶えず三つの明かりが一つになりバラバラになり、 周りの暗闇に気を取られながら話は続く。 『サンドイッチ食べますかぁー』唐突なフーちゃんのひと言 『作って来たんですよー』と。面白い奴だと私は思った。 タッパーの中の小さなサンイッチは、一口で口の中に消えてしまった。 一時止んでいた雪がヘッドランプに浮かび、また舞い始めた。 上着に染み入るような重い雪ではない。サラサラの粉雪だ。 暫く雑談をしながらの行程で・・水無の山小屋へ到着した。 重いガラス戸を開けると、すでに4~5人の登山者が寛いで話し込んでいる。 どうせ話すことと言ったら、どこそこの山に行って来たとか あの時は、こうだったとか・・山話のことで盛り上がっているのだろう 薪をくべるような古い型のダルマストーブが中心に置かれている ああ・・温かいと、心底感じる寒さの夜であった。 ------気が向いたら---つづく------ さぶ~~~い!! また後で~~~! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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