カテゴリ:香港映画
香港映画としては初めて麻薬を真正面から扱ったもので、舞台は香港から東南アジアの黄金の三角地帯、シンガポールや台湾にまでまたがります。 ニック(呉彦祖:ダニエル・ウー)はヘロインを売りさばく組織の配車係として、組織の親であるクァン(劉徳華:アンディ・ラウ)の信頼を得ている。工場でのトラブルやガサ入れを経てクァンの後継者に指名されたニックは、倉庫係や仕入れなど徐々に麻薬取引の全貌を目にしていく。 ニックの住んでいるアパートの隣には、ヤク中の女フェイ(張静初:チャン・ジンチュー)が5、6歳の娘と住んでいて、別れたこれもジャンキーの夫(古天樂:ルイス・クー)とともにニックの私生活に関わってくる。 さすが香港金像奨最多15部門にノミネートされただけあって、ほんの些細なところまでよく練られた脚本と演出、ニックの苦悩、脇を固める俳優たちの素晴らしい演技、香港映画にはつきもののカーチェイスなど、言うことなしです。またハリウッドがリメイクしたりしても不思議ではありません。 大きな流れである組織の話と、ニックの身の回りに起きるフェイとのこと、その二つの流れが薬を売る側と薬に溺れる側としてつながりを持って、両方に関わるニックの苦悩と義憤につながっていく。冒頭がニックの警官姿なので潜入捜査官なんだな、とわかるんだけど、それはそれでニック目線で楽しめる。 最初の携帯と車を使った鮮やかなブツのやりとりは香港映画のお家芸といっていいカーチェイス。劉徳華は糖尿病で腎臓が悪い役を演じていてちょっと白髪交じりで、おお、老け役も様になる年齢になったのね、という雰囲気。お菓子を食べようとしてニックに止められるところや病院の場面では柔和な表情を見せているけど、ヤクの工場やニックを裏切り者じゃないかと疑うとき、タイのヘロインの栽培地では厳しい視線を窺わせる。 ジャンキーママのフェイはきっとヤクに金を使ってしまっているのでしょう、食べ物にも事欠く毎日で、窓越しにニックのラーメンを見て、頂戴、と懇願するんだけど、もう食べてしまったニックはパンをあげるんだよね。それからも何かにつけてご馳走したりお菓子や食べ物を買っていったりと優しいニックなんだけど、フェイがジャンキーだとわかったら親子ともども追い出してしまう。でもジャンキーパパが追いかけてきたら匿ってあげる。一方クァンとは家族ぐるみの付き合いをして、義弟にならないか、とまで誘われているニック、ヤクを売るほうと買うほうと、まるで正反対の二つの家族を持ってしまうようなところもニックの心の内を複雑にします。 工場のガサ入れ場面では、手首がちぎれる残酷シーンあり!さすが旺角で呉彦祖を血だるまにしたのと同じアクション監督の錢嘉樂(チン・カーロッ)だけあって、残酷ぶりに拍車がかかってます。別の事件を追っていた警察に捕まったとき、ニックが潜入捜査官だと身分を明かしても、お構いなしでがんがん痛めつけるし。 タイの黄金の三角地帯は見事なケシ畑。ここでの劉徳華は貫禄充分に象に揺られています。このタイパートはクァンの家族旅行とともにヘロイン生産者へのニックの顔見せも兼ねていて、観ているこっちは観光気分です。 タイ旅行で家を空けている間にフェイはジャンキーパパに見つかって、結局ヤクから抜けることはできません。このジャンキーパパを古天樂が熱演!目をがっと見開いて、いっちゃってる感ばりばりです。ヤクを子供のリュックに入れて商売するところなど狡賢いったらありゃしない。 結局フェイはヤク中で死んじゃうんだけど、それをニックが知るきっかけが、あの子が「お腹すいたー」ってくるもんだから部屋をのぞいたら、遺骸にねずみが群がってる。。これでぶち切れたニックはクァンの逮捕に踏み切り、さらにはジャンキーパパをわざわざ麻薬が死刑になるシンガポールにまで連れて行って罠にはめます。この辺は完全に私憤の領域でしょう。 クァンが逮捕された後、警察署で妻(袁詠儀:アニタ・ユン)と面会するんだけど、このときの袁詠儀と劉徳華の絡みは動きはないんだけど、ぞくっとします。お腹がおっきくて大変だったろうけど、さすが袁詠儀、登場場面は少ないながら助演ノミネートされました。 最後の場面、ニックが警官の制服姿でフェイの部屋のソファに寝て考え込む場面、なぜ人は麻薬に手を出すのか、それは虚無感からだ、ってとこにいきついて、7年の潜入捜査を終えてまさに虚無感に浸りきっていたニックもヤクに手を出そうとするんだけど、そのときにフェイの子供が入ってきて抱きしめる、そのラストに明るさを見出しました。 なんでこんなに素晴らしい映画が日本公開されないんだろう?劉徳華も出てるしファンは確実に入ると思うんだけどなー。15部門ノミネートで金額が上がりすぎたのか、投名状に集中してしまったのか、配給関係はよくわからないけど、率直に残念です。 あとは旺角を観なおして、新宿の予習完了です。 5/3 シネマート六本木 イー・トンシン映画祭 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.05.04 22:51:16
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