まてぃの徒然映画＋雑記

2009年の香港電影金像奨で主演男優賞を受賞した『證人』のコンビ、林超賢（ダンテ・ラム）監督と張家輝（ニック・チョン）、そして謝霆鋒（ニコラス・ツェー）や桂綸［金美]（グイ・ルンメイ）が加わって、また上質なクライム・アクションができあがった。

主人公は『綫人』と呼ばれる、警察から金を受け取り組織の動きを伝える密告者。李刑事（張家輝）は１年前にやはり密告者を使った捜査で、組織のボスを逮捕できずに密告者に瀕死の重傷を負わせてしまっていた。「密告者は友人のように扱え、しかし友人ではない」と新人に教えているが、彼の心には過去の傷が残っている。張家輝は黒縁眼鏡をずっとかけてて、イメージがだいぶ違っていて、オープニングで主演、張家輝と出てくるんだけど、どこにいるんだ？と思ってました。

台湾に逃げていた裏社会のメンバーが香港に戻ってきた、との情報を得た警察は、再び李刑事に密告者を使った捜査を命じる。李刑事が密告者に選んだのが、チンピラのサイグァイ（謝霆鋒）だった。違法なカーレースなどで刑務所に何度も出入りしているサイグァイには妹がいるが、父親の残した借金のために働かされている。サイグァイは、成功報酬で父親の借金を返して妹を自由にするために、密告者となることを決意して、警察と契約書を交わす。正式な密告者となると、報酬も警察の予算から出るから、正式な手続きが必要なのか、と日本ではほとんどありえないシーンに軽い驚き。

出所したサイグァイは顔馴染みの裏レース会場へ行き、狙い通り裏社会のボスに運転手として雇われる。このレースシーンのカーアクションは短いけれども見所の一つ。謝霆鋒がドライバーで華麗なテクニックを披露します。そして台湾から来たメンバーと一緒に貴金属店を襲う計画を立てて、下見を繰り返す。サイグァイは台湾からきたボスの女、ディー（桂綸［金美]）の運転手として下見や射撃練習に付き合う。

桂綸［金美]は、これまで透明感ある演技が多かったけど、今回はヤクザの女ということで、キツイ化粧でビールをラッパ飲みして酔いつぶれたり、銃でドンパチしたりとイメージを覆す演技をしています。親から組織に金で売られた過去を持つ役柄で、ボスに新しい女ができて裏切られたために、子供ができたのに堕ろして、ボスを裏切る機会を狙っていたのかな。

酔っ払ってサイグァイに身の上話をするところで北京語になったのは、台湾から来たという設定とぴったり合っていました。そのあたりで情に厚そうで純なところが垣間見えて、完全に悪い人の演技ではありません。彼女の演技力なら、いずれ本当の悪女役も見てみたいところです。

組織が強盗の予定を立てている一方で、李刑事はサイグァイからの情報を元に指示を出しながら、プライベートではダンス教室に通っている。ダンス教室のシーンの意味が最初はよくわからなかったんだけど、受付嬢がそういうことで、李刑事の心の傷のひとつになっていることがわかってからは、最後の李刑事の爆発に繋がるシーンなのかな、と解釈します。

李刑事とサイグァイが密会する場所を組織のボスが尾けてきていて密告者であることがばれそうになったり、射撃練習の後、検問に引っかかってサイグァイとディーが一緒に市場の中を逃げたりするシーンは、ドキドキの緊迫ものでした。

強盗団も、金塊を溶かす場所まで準備していて準備万端だな、と思ったら、溶かした金塊は盗んだもの、という物証がなくなるんですね。なるほど。強盗団は最後の獲物山分けの場面でお決まりの仲間割れ、その最中に警察が踏み込むと、ディーはサイグァイを連れて二人で逃げるんだけど、密告者のサイグァイをボスが追いかけて、最後は廃校みたいな場所に行き詰ってしまう。そこに連絡を受けた李刑事も追いついて。。。


しかしまあ、香港警察って映画のネタの宝庫ですね。警察が絡んだストーリーでも、常に新しい切り口をみせてくれます。謝霆鋒がスキンヘッドで傷だらけになりながら熱演しているのは、『十月圍城』の役柄とダブりました。あっちは弁髪だけど、前から見たら似たようなものです。

どこかの配給会社さん、『證人』と合わせて買って、一般公開してもらえないでしょうか？こんなに面白い香港映画が世に知られずに埋もれていくのは、惜しいでは済まされないと思います。

11/21　有楽町朝日ホール　東京フィルメックス