観照 京都・伏見区 山科川の秋景色
京阪宇治線・六地蔵駅の少し東側を山科川が流れ、このあたりで南下してきた川筋が西方向に屈曲し六地蔵駅の南側を流れ、やがて宇治川に合流します。 山科川に架かる京阪電車の架橋に近い左岸で赤く咲く花が目にとまりました。近くまで堤を下りてみました。 彼岸花です。友人のブログ記事で、亀岡の彼岸花の里に咲き誇る花の写真に魅了されました。古本市場を久しぶりに覗く序でに、山科川の堤防を少し散歩してみようと思いたちました。川沿いに彼岸花が見られるかもしれない・・・・・と。やはり、咲いていました。最初に目に止まったのがここです。 わずかですが、彼岸の時季にあわせるように咲き誇っています。植物学者は和名でヒガンバナと称するそうです。「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」という名でも知られています。国語辞典には、曼珠沙華をヒガンバナの異名、別名と説明しています。 京阪六地蔵駅側から山科川の右岸(西岸)沿いに、モモテラスというショッピングセンターを目指します。こちらの堤にも彼岸花をみつけました。手許にある歳時記の索引で「彼岸花」を引くと、秋の季語「曼珠沙華」に導かれます。その説明の中に彼岸花が併記されています。そして、「まんじゅさげ」とルビが振られている歳時記(資料1,2)、「まんじゅしゃげ」とルビを振る歳時記(資料3)、両方を併記する歳時記(資料4)があります。曼珠沙華はサンスクリット語の音写だそうです。サンスクリット語の綴りを見ますと、「さが」が音に近いのかもしれませんが、参照本自体は「まんじゅしゃげ」とルビを振っています。(資料5)諸本を併読しますと、曼珠沙華は梵語(サンスクリット語)で赤い花という意味と説明を加え(資料3,4)ているものと、一方で、色には触れずに、「柔軟花」「円華」と漢訳されるとだけ説明するもの(資料5)があります。彼岸頃には符節をあわせるように、曼珠沙華の花が咲きます。花茎だけが30~40cmくらいに伸びその頂に蕊(しべ)の長い真っ赤な花が輪状に咲いています。花が散った後に細長く深緑色の葉が出てくるそうです。(資料1~4)ネット検索をしてみて、白い曼珠沙華が存在することを知りました。私は実物は未見です。補遺をご覧ください。一度、実物を眺めてみたいものです。諸歳時記から句を引用します。 ちらほらとありどつとあり曼珠沙華 山本多可史 彼岸花光りあかるき橋のうら 赤岡俊江 曼珠沙華どこそこに咲き畔に咲き 左右 彼岸花の傍に咲く花。白い花はゼフィランサス(タマスダレ)かも・・・・(自信はありません)。その手前の花は何だったか・・・不詳。 JR奈良線の高架下をくぐり、その先で対岸をみますと、繁茂する雑草(?)の中に、赤いものがちらりと見えます。 デジカメでズームアップして撮ってみますと、ここにも彼岸花が緑のただ中に咲いています。 対岸の火として眺む曼珠沙華 野村登四郎 火の国の火よりも朱し曼珠沙華 清水徹亮 空澄めば飛んで来て咲くよ曼珠沙華 及川 貞モモテラスの敷地を横断して、古本市場に立ち寄った後、再び山科川の堤防に戻ります。京阪六地蔵駅から川沿いにあるショッピングセンター、モモテラスの少し先辺りまでは、山科川が京都市と宇治市の境界線になっています。それより北は伏見区のエリアになり、その北が山科区になります。川を遡行する形で、右岸(西岸)の堤防上を北に歩みます。 対岸にみえるのは現存する京都市の東部クリーンセンター跡地の建物のようです。この手前の堤にも、わずかですが赤い色が見えます。 さらに北上しますと、対岸にかなり距離を隔てて、赤い部分を見つけました。 これらもズームアップしてみますと曼珠沙華(彼岸花)です。激しさすら感じる赤い色。美しい花。しかし、お彼岸の頃に、墓地近くによく咲くからでしょうか、忌み嫌われがちの花だとか。死人花、幽霊花、捨子花、天涯花、狐花、狐の嫁子などとも呼ばれるといいます。(資料1~4)また、リコリンを含む毒草でもあるそうです。(資料4)一方で、「アルカロイド系のかなり強い毒を有することは事実であるが、この毒は水に晒すことによって容易に除去することができ、球根からは極めて良質の澱粉がとれる。」といい、「曼珠沙華は山林原野にほとんど見られず、水田の畦に群生するが、これは飢饉への備えとして先人が植えたからである。」という説明にも出会いました。(資料6)一転してほっとする思いも湧きますね。 西国の畔曼珠沙華曼珠沙華 森 澄雄 遠き畔近づけてをり曼珠沙華 山田閏子 バス降りて徒歩で十分曼珠沙華 河村玲波 遠くから妻の墓見え彼岸花 鶴原虎児 曼珠沙華かたまって燃え飛んで燃え 夏秋仰星子 むらがりていよいよ寂しひがんばな 日野草城 燃えうつることなく燃ゆる彼岸花 桔梗きちかう対岸に市営大受団地の建物群を眺めつつさらに進むと、山科川に東北側から川が流れ込む合流地点があります。 その合流箇所には、川中に飛石の渡りが設けてあります。そこで、さらに北の橋まで歩かずにここで左岸に渡ることにしました。 河原に下ると、飛石はコンクリート製で、1つおきに蟹の形に似せてあります。 最初の蟹さん お尻側が先に目に止まる2つ目の蟹さん 合流する川側の飛石の渡り 左岸(東岸)に出て、ここから引き返します。北西方向には府営北後藤団地の建物群が見えます。 堤防上の防護柵のこちら側にはエノコログサの一種が群生しています。 「エノコログサは狗尾草と書く。これは花穂を子犬の尾にたとえたものだが、花穂で猫をじゃらすと猫が喜ぶんのでネコジャラシともいう」(資料7)とか。イネ科の植物。 アオサギでしょうか。 一羽がぽつねんと川面を眺めているように感じました。獲物の有無をウォッチングしているのでしょうか。彼岸花を見つけながら歩いてきたせいか、その佇まいをわびしさにむすびつけたくなります。 草茫々の左岸河原を眺めていくと、僅かに赤点が見えます。 防護柵に臂を固定させて目一杯ズームを拡大してみました。 曼珠沙華の大輪の赤い花の姿が見やすい写真が撮れました。参照資料2を読んだとき、季語解説の末尾に「仏の説教する時分にまんじゅさげが天から降ってきたということが御経にある」という一文が記されています。どの御経なのか?その関心の波紋でネットを検索して得たのが、参照資料6です。そこから原典に辿ってみました。「妙法蓮華経序品第一」の冒頭の経文から、最初の偈(詩頌)に入る前の一区切りの経文範囲の後半に、この曼珠沙華という言葉が出て来ます。「仏はこの経を説き己って結跏趺坐し、無量義処三昧に入りて、心身動じたまわざりき。この時、天は蔓陀羅華・摩訶曼陀羅華・蔓殊沙華・摩訶蔓殊沙華を雨(ふら)して仏の上及び諸(もろもろ)の大衆に散じ、普(あまね)く仏の世界は六種に震動す。」(資料8)天がマンダラケ、マカマンダラケ、マンジュシャケ、マカマンジュシャケの四華を供養したと述べています。この四華は音写された言葉です。注を転記してみます。曼荼羅華とは「適意華と訳し、その色美妙にして見る者の意を悦ばしめる天の華」曼珠沙華とは「柔軟華と訳し、見る者をして剛毅を離れしめるという天の華」を意味する想像上の華です。摩訶は「大いなる、非常の」という意味です。「摩訶不思議(まかふしぎ)」という使い方でも出てくる言葉。これも音写です、仏が法華経を説かれた時に天が瑞兆を示されたことを表現しているそうです。 右岸には彼岸花を見かけないな・・・と思っていたら。やはりぽつんと咲いているのを発見! 右岸から見ている時に気づかなかった左岸の箇所に最後に見つけた彼岸花です。まさにこのわずか一、二本咲く曼珠沙華からは、次の句と重ねてイメージを広げることができました。 うたたねや野に一本の曼珠沙華 島 みえ 曼珠沙華二本づつ立ち雨の中 阿部みどり女 曼珠沙華赤衣の僧のすくと立つ 角川源義 同じ赤い花ですが、この花も咲いています。対岸から眺めていました。左岸に回れば近くで撮れそうだったので、巡って来てから最後に撮りました。 ランの一種でしょうか。私には判別できません。手許の小図鑑でヒガンバナの項を読みますと、「中国原産の多年草で、古い時代に日本に入ったと考えられている。」と。上掲歳時記にも触れているのがあります。また、上記のネット検索で得た情報と重なることとして、「有毒植物だが、鱗茎をすりつぶして、水でよくさらせば食用になる。昔、飢饉のときに利用した。」と説明されています。畔にヒガンバナが植えられているのも大きな意味があったのですね。(資料7)これらは初めて知った知識です。また、小図鑑に「ヒガンバナの白花」の写真が収録されていました。大昔に買った本。今、初めて読んだ項です。ちょっとなさけない・・・・・。最後に、手許の歳時記で曼珠沙華の句を読んでいると、天空と曼珠沙華を対置した雄大な句も収録されています。 つきぬけて天上の紺曼珠沙華 山口誓子 咲きそめて雲のつめたさ曼珠沙華 野見山朱鳥やはり、彼岸花は美しい花です。 ご一読ありがとうございます。参照資料1)『改訂版ホトトギス 新歳時記』 稲畑汀子編 三省堂2)『季寄せ 改訂版』 虚子編 三省堂3)『合本 現代俳句歳時記』 角川春樹編 角川春樹事務所4)『吟行版 季寄せ 草木花 秋[上]』 加藤楸邨 選・監修 朝日新聞社5)『岩波 仏教辞典 第二版』 中村・福永・田村・今野・末木 編集 岩波書店6)「曼珠沙華」:「教員エッセイ 読むページ」(大谷大学)7)『山渓ポケット図鑑3 秋の花』 山と渓谷社 p308-3098)『法華経 上』 坂本幸男・岩本裕訳註 岩波文庫 p18補遺白い彼岸花 白花彼岸花(シロバナヒガンバナ)の特徴や様子珍しい!純白の曼珠沙華、見る者の悪業をはらう 埼玉・熊谷の石上寺に400本咲いて見頃にゼフィランサス :「花と緑の図鑑」ゼフィランサス(タマスダレ)の花言葉と育て方|球根の植え方や時期は?:「HORTI」山科川 :ウィキペディア山科川/山科音羽川 [8606040774] 淀川水系 地図 | 国土数値情報河川データセット源流(起点)を訪ねる 『山科川~その18』 :「Open Matome」 ネットに情報を掲載された皆様に感謝!(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれませんその節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。その点、ご寛恕ください。)