遊心六中記

2021/07/28(水)09:16

探訪&観照 京都・祇園祭前祭 Y2021 2年ぶりの山鉾 -5 白楽天山

観照 & 探訪(143)

​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​  室町通を下り、綾小路通との辻をそのまま横切ると、白楽天町です。 室町通の東側に「白楽天山」が建っています。   唐の詩人白楽天(白居易)が道林禅師に仏法の大意について問答する場面を題材にしています。 「白楽天山」の名称は、白居易を教え諭した道林禅師よりも、詩人として有名な白居易の名に由来しています。(資料1,2) 白楽天は唐織白地狩衣に唐冠をかぶり笏を持っています。道林禅師は緞子地の紫衣に藍色羅紗の帽子をかぶり手に数珠と払子を持っています。 (資料1) 唐の時代、杭州に道林禅師という名僧がいました。この禅師、風変わりな人で、大寺名刹にて説法することをしないで、西湖の北に位置する秦望山の大きな松の枝に板を渡し、その上で坐禅をしているという僧でした。それ故、人々は「鳥窠和尚」と呼んだそうです。 詩人白楽天の名前で有名な白居易(772-846)は杭州の太守(刺史)として当地に赴任し、鳥窠和尚のことを聞くや、早速秦望山に鳥窠和尚を訪ねます。   勿論、和尚は松の樹の上に巣くっています。   白居易は鳥窠道林禅師にまず質問します。 このエピソード、     『景徳伝燈録』(宋釋道原撰、貞和4刊)に載る鳥窠道林伝を記した箇所に記録されています。(資料3) この記述と手許の本を参照すると、最初にこんな問答が交わされたのです。(資料3,4)   白居易「そんな高いところにおられるのははなはだ危険ではございませんか」 道林 「太守の方こそ、まことに危険至極だと思うがな」 白居易「紅山を鎮圧する位のことで、太守の私にはなんら危険はありません。」 道林 「鎮圧する威力があり、地位が立派でも、どうかな。あなたの心はちょうど薪に火がついたように煩悩妄想で燃え上がりとどまることがない。それを危険といわずにおれようか。はやく心の火を滅し、安心立命を得ることじゃ」   この後に、有名な問答が続きます。   白居易「如何なるか是れ仏法の大意」(仏法のギリギリのところは、どういうものですか。) 道林 「諸悪莫作 衆善奉行」(諸々の悪いことをするな、もろもろの善いことをせよ) 白居易「そんなことぐらいなら、3歳の童子でも知っていますよ」            道林 「ただ言うだけなら3歳の童子でもできるじゃろう。だが、いざ実行するとなれば経験・学識のある80歳の老翁でもむつかしいことだよ」   香山居士と号し仏教に真摯に帰依していた白居易は、返す言葉もなく、鳥窠道林禅師に厚く帰依したと言います。(資料4) 鳥窠道林禅師の答えた「諸悪莫作衆善奉行」には出所があります。 釈尊の十大弟子の一人、多聞第一と評される阿難尊者がある人に問われました。 「過去出世の七仏たちが、秘中の秘として、代々大切にうけついで来られた教えというものはなんでしょか」と。 阿難尊者は次の偈で答えられたそうです。  諸悪莫作 しょあくまくさ   諸の悪を作(な)すことなかれ  衆善奉行 しゅぜんぶぎょう  衆(もろもろ)の善を奉行せよ  自浄其意 じじょうごい    自ら其の意(こころ)を浄くする  是諸仏教 ぜしょぶっきょう  是れ諸仏の教えなり これは、「七仏通戒の偈」として知られている偈です。 (資料4) さて、白楽天山の懸装品を眺めていきましょう。   前懸は、2つのものが継ぎ合わせてあります。まさに東西の混淆というおもしろさです。 中央は叙事詩「イーリアス」のトロイヤ戦争物語に出てくる「トロイヤから脱出するアイネリアス」の場面だそうです。16世紀に作られたゴブラン織です。 その左右には1808(文化5)年のもので「波濤飛龍文様刺繍官服直し」。つまり、もとは中国の官吏の服だったものを仕立て直したということでしょう。(資料5) トロイヤ戦争のことなど全く知らない町衆たちは、そのエキゾチックさ、新奇さに魅了されたのでしょうか。   正面の左右には、大きな金幣が備えてあります。               金幣をこんな角度で見るのは初めてです。雲形文の透かし彫り装飾が見えます。 菊結びの赤い房が吊り下げてあります。   水引は1978(昭和53)年フランスから購入した17世紀製作の毛綴だとか。(資料1) それが水引の幅、サイズに裁断されて使われているようです。 この水引の左に「IVSTITIA」、右に「CONCORDIA」という言葉を判読できます。 この胴懸(左側)は、17世紀のフランドル地方製のゴブラン織(毛綴織)で「農民の食事」風景です。1978(昭和53)年に購入されたとか。   こちらは右側の胴懸です。18世紀のベルギー製タペストリーで「女狩人」(毛綴織)と称されています。上記と同様に1978(昭和53)年に購入されたそうです。 各山鉾を巡っていると、祇園祭の長き伝統の中で、各山鉾において所蔵品の復元新調や新規作品の導入、あるいは伝統と融合する作品の追加購入などにより、計画的に伝統維持推進の営みを続けられていることを感じます。 こちらの面の欄縁の錺金具の美​を細見​する一例として右から左への順次部分撮りしてみました。             黒漆塗の欄縁全面が透かし彫りの錺金具で覆われています。    正面と右側面の角です。角房金具が2箇所に取り付けてあり、それぞれに大きな房が掛けてあります。 山の4つの角それぞれを飾っています。 下側の角房金具をクローズアップしてみました。道林禅師に因み、松の木を意匠化しているようです。房をかける部分は松ぼっくりの形らしい。   この結び方、何と呼ぶのでしょう。同一の結び方をインターネットの結び方事例では見つけることができませんでした。 山の足元を眺めてみましょう。    鉾から比べると、縄がらみの技術の使い方、仕上がりはわりとシンプルな感じです。 今年は巡行をしない前提ですので、巡行用の車輪などの取り付けは省略されているようです。 黒漆塗りの担棒が4本取り付けられています。その先端部それぞれは錺金具で覆われています。 各担棒の正面には、「白」という文字、神紋様の紋、三つ巴紋がレリーフされています。   最後に、山の後部を飾る見送です。 染織作家山鹿清華による「北京万寿山図」手織錦です。1983(昭和28)年に製作された作品。万寿山は北京の西北にある清朝の離宮です。(資料6)                  見送の上部には、大きな房掛け金具が2つ並んでいます。        雲形文の上を駆ける空想上の聖獣・麒麟がレリーフされています。        左右の体部の表現が異なります。雌雄を表現しているのでしょうか。   見送の下端部には裾房金具が取り付けられ、総角結びの小さな房がかけてあります。        裾房金具には、龍がレリーフされています。 すべて手作りなのでしょう。ひとつひとつが微妙に違っています。こんなところもおもしろい。 この辺で「白楽天山」を終わります。 今年は一部の山鉾が建つという報道を読んだだけで出かけてきました。 これから先は、山鉾町のエリアを久しぶりに歩きながら、建っているものを求めてのタウンウォッチング・モードに入ります。 つづく 参照資料 1) ​祇園祭 祇園祭山鉾連合会​ ホームページ 2) ​白楽天山​  ホームページ 3) ​景徳傳燈録30卷. [2]  宋釋道原撰 貞和4刊​ :「国立国会図書館デジタルコレクション」 4) 『茶席の禅語(上)』  西部文浄  タチバナ文庫 p3-p8 5) ​祇園祭-白楽天山の名宝-​     :「京都文化博物館」 6) ​山鉾の魅力細見 -白楽天山​-  :「京都市下京区」 補遺 ​鳥窠禅師と白居易の問答​  管主 加藤朝胤  :「薬師寺」 ​鳥窠道林​  :ウィキペディア ​山鉾の魅力細見・山鉾由来記​   :「京都市下京区」 ​麒麟​  :ウィキペディア ​幸せを運ぶ”聖獣麒麟” ​ :「KIRIN」 ​東京・日本橋の麒麟像​   :「Tripadvisor」 ​頤和園​   :ウィキペディア ​北京世界遺産紀行「頤和園」​ :「北京世界遺産紀行」 ネットに情報を掲載された皆様に感謝! (情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。 その点、ご寛恕ください。) ​探訪&観照 京都・祇園祭前祭 Y2021 2年ぶりの山鉾 -1 御旅所と長刀鉾 へ​ ​探訪&観照 京都・祇園祭前祭 Y2021 2年ぶりの山鉾 -2 函谷鉾と月鉾 へ​ ​探訪&観照 京都・祇園祭前祭 Y2021 2年ぶりの山鉾 -3 放下鉾 へ​ ​探訪&観照 京都・祇園祭前祭 Y2021 2年ぶりの山鉾 -4 鶏鉾 へ​ ​探訪&観照 京都・祇園祭前祭 Y2021 2年ぶりの山鉾 -6 山鉾さがしの道すがら へ​ ​探訪&観照 京都・祇園祭前祭 Y2021 2年ぶりの山鉾 -7 蟷螂山 へ​ ​探訪&観照 京都・祇園祭前祭 Y2021 2年ぶりの山鉾 -8 山鉾さがしの道すがら2 へ​ ​探訪&観照 京都・祇園祭前祭 Y2021 2年ぶりの山鉾 -9 ふたたび長刀鉾 へ​ こちらもご覧いただけるとうれしいです。 ​探訪&観照 祇園祭 Y2017の記憶 -18 前祭宵々山(9)  霰天神山・山伏山・白楽天山・洛央小学校前の史跡​ ​観照 祇園祭 Y2018 前祭 -3 綾傘鉾・白楽天山・保昌山​ ​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​

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