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カテゴリ:観照
8月初旬、天気が良く暑い中を、京都国立博物館に行きました。 恒例ですが、七条通沿いに設置された特別展「京(みやこ)の国宝」開催の大きな案内パネルを撮りました。 チケットの半券 2017年には、京都国立博物館120周年記念特別展覧会「国宝」が実施されました。手許の図録を久しぶりに見ますと、関西では41年ぶりの国宝展ということでした。「縄文から近世に至るまで、日本の悠久の歴史と美を伝える210件の国宝が集結します。」と「ごあいさつ」に記されています。前期・後期の入れ替えがありましたから、実際に鑑賞した件数は少し少なかったと思います。今回は「京(みやこ)の」という言葉が冠されています。 これは、当日会場で入手した「京都国立博物館だより 2021年7・8・9月号」。 掲載記事を読みますと、今回の特別展には少し経緯があるようです。 当初は昨年(令和2年)の春に文化庁主催のもとで京都市京セラ美術館での実施が予定されていたそうです。ところが新型コロナウィルス感染拡大防止のために中止となったのです。展覧会名をそのままで会場をこちらの平成知新館に移し、「内容を大きく拡大し、新たな形で」開催することになったようです。 展覧会名に「京の」と冠してあるのは、「京都の人や文化に関わる数多の名高い国宝、皇室の至宝」に絞り込んだ形での展観という趣旨になります。そして、「文化財のもつ不滅の魅力とその意義、またそうした貴重な品々を守り伝えてきた我が国の文化財保護のあゆみをご紹介します」という観点もこの展覧会の意図だと言います。(資料1) 展示品の中でハイライトの一つは、この博物館だより表紙の上部に使われている長谷川等伯筆「松に秋草図屏風」(京都・智積院蔵)です。これは8/22までの前期展示です。 このたより表紙には、2曲1双の右隻の部分図が使われています。 こちらは、同図の左隻の部分図で上掲博物館だよりからの引用です。冒頭の七条通に面した特別展案内パネルの右側にこの左隻の部分図が使われています。 巨大な松が右から左斜め方向に大きく枝を伸ばしている中に秋の草花が大きく描かれています。この基本構図には狩野永徳の屏風絵の構図の影響が見られると言います。また、元は6面あった襖の内の4面を屏風に改装されたものと分析されています。画面に連続性が欠けるところがあるのはそこに原因があるとか。(資料2) かつて智積院内で拝見しましたが、久しぶり白い顔料が盛り上がったところや松の巨木の描き方を間近で眺めると迫力を感じます。後期の期間の前2/3は宗達の「風神雷神図屏風」に替わり、後1/3は蕪村の2作品に入れ替わるそうです。(資料3) 入口で体温チェックを受けて、平成知新館に向かいます。 定位置に、特別展へのウエルカム・パネルが設置されています。 展覧会のPRチラシ 2つ折A4サイズのPRチラシです。この表紙にも、左隻の部分図が使われています。 チラシに掲載の図も引用し、少しご紹介します。 展示会場は平成知新館の3階から始まり、2階、1階へと各展示室を巡覧しながら下って行きます。 「第1章 京都-文化財の都市」は、「<1> 文化財指定のあゆみと京都」という観点で、文化財保護に関わる京都府の行政文書類や古社寺保存法・国宝保存法関連文書などが展示されています。文化財保護への制度確立過程の記録文書類という舞台裏の開示です。研究者でない一般鑑賞者には、努力・経緯はわかりますが、ああ、そうか・・・くらいで、まあ、おもしろみには欠けるでしょう。 変わり種は「ガラス乾板」つまりネガ・フィルムに相当するものが2枚展示されています。「神護寺蔵五大虚空藏菩薩坐像・安祥寺蔵五智如来坐像」(資料1)ポジの陽画も併せて展示されています。こちらは現物を見る興味が湧きます。 続きに「<2> 最初の国宝-昭和26年6月9月指定」に移ります。 これは鑑賞後に購入した図録です。 購入時点では表紙をさらりと見ただけで館内から出ました。自宅で見直して、この表紙・裏表紙に使われている絵が、絵第18号として、この昭和26年に指定された最初の国宝の一つであることを再認識しました。6曲屏風1隻が、文化財保護委員会名で国宝に指定されています。 明治30年12月古社寺保存法の制定時点で、最初に国宝に指定されていて、昭和の文化財保護法に切り替わった時点でも、最初の国宝に指定された作品でした。 図録表紙には、屏風の第3扇・第4扇の箇所が使われています。平安時代(11世紀)の絹本着色で、唐絵の山水屏風です。草庵に座し詩作にふける老隠者を貴公子が訪れる、そんな場面を描いています。衣服は中国風。上部に遠くの山々が見え、広大な自然風景が描かれています。 もとは、内裏あるいは貴族の邸宅の調度品だったものが密教寺院に持ちこまれ、東寺に伝来した品だそうです。「古来、密教寺院で潅頂に用いた屏風のことを『山水屏風』と呼んだ」(資料2)と言います。 第1扇の下部に描かれて部分図 方向を考慮すると、老隠者を訪問した後、貴公子の帰路を描いているようです。剥落がかなり進行している感じ。従者のさす傘の白さがなぜか印象的でした。 後期は有名な京都・退蔵院蔵の如拙筆「瓢鮎図」に入れ替わる予定です。 「御堂関白日記」自筆本も展示されています。前期は寛弘元年上巻の箇所です。 後期は寛弘8年上巻に入れ替えられる予定です。料紙には一日三行どりの具注暦を使い、それに事細かく覚書が書き込まれています。所々に墨で塗り潰した箇所もあります。 「第2章 京の国宝」は、<1>絵画、<2>書跡・典籍・古文署、<3>考古資料・歴史資料、<4>彫刻、<5>工芸品の5つのセクションで構成されています。 <1>絵画 上記長谷川等伯の屏風絵がここに展示されています。等伯が競い合った狩野永徳筆の国宝絵も勿論展示されています。京都・聚光院蔵の狩野永徳筆襖絵(38面)中の「琴棋書画図襖」4面が前期には展示されていました。後期は「花鳥図襖」に入れ替わる予定です。 中国では士大夫は琴棋書画の四芸を嗜むことが必須とされたようです。この主題の絵は多くの人が描いています。永徳は狩野元信から継承した「細部まで丹念に描き込む真体手法に拠って」いて、その中に「やや面長で端正な面貌表現や樹木・岩の描法に永徳の個人様式が顕著である」と評されています。(資料2) 永徳の絵に現れるダイナミックさは、未だ抑制されていて、松は繊細な描写の印象を受けました。一方で岩の描写には鋭さを感じます。 久しぶりに雪舟筆「天橋立図」を鑑賞しました。後期は「山水図」に入れ替わる予定です。 「法然上人絵伝」は過去から部分部分を鑑賞して来ていますが、この前期では第3巻を見ることができました。鎌倉時代(14世紀)の作品ですが彩色が綺麗に維持されています。後期は第9巻に入れ替わる予定です。 他にも、「病草紙」「玄奘三蔵絵」や諸仏像画が出ています。 <2>書跡・典籍・古文署 「今昔物語集」、藤原定家筆「明月記」、「東寺百合文書」などの一端を見ました。実文書が残っていることに感心しながらも、その文面を判読できないことにいつものことながら残念な思いです。 こういう墨蹟で読めるのがあると親しめます。その筆致に筆者宗峰妙超の個性を感じる次第。 中国・南宋時代の「禅院額字幷牌字」として「浴司」「普説」が出ています。豪快な書きっぷりです。後期は「方丈」「上堂」に入れ替えられる予定です。 <3>考古資料・歴史資料 奈良・金峯神社蔵の「金銅藤原道長経筒」と「金銅小野毛人墓誌」という良く知られたものが出ています。 近江の「崇福寺跡」は探訪で訪れたことがあります。「崇福寺塔心礎納置品」を見ることができ、繋がってきました。 また、「伊能忠敬関係資料」が出ています。その中の「東海道歴紀州及中国至越前沿海図(上)」はどれだけ詳細に地名などを書き入れているかがよくわかります。 <4>彫刻 東寺(教王護国寺)蔵の「梵天坐像」がやはりハイライトの一つです。 東寺の講堂内を荘厳する立体曼荼羅を構成する仏像群の中で、外側に護法神として配される6体の像の一つとしてこの梵天坐像が配されています。像高101.1cmの大きさの木像です。すぐ間近で様々な立ち位置から鑑賞できるのは、やはりいいですね。 宇治・平等院蔵の「雲中供養菩薩像」2体が、ガラスケースの中に展示されています。目の高さで細部まで鑑賞できるのがいい。 安祥寺蔵「五智如来坐像」は今回の展示品になっていますが、寄託仏像としてここに常設展示されている国宝です。 京都・妙法院蔵の二十八部衆像の中から、この「摩睺羅(まごら)」像と「婆薮(ばすう)仙人」像が展示されています。 二十八部衆は千手観音の眷属で、行者を守護する善神です。その尊名は典拠により小異があると言います。(資料4) <5>工芸品 このセクションは前期と後期でかなり入れ替えが行われます。前期の密教法具は古神宝類と入れ替わり、前期展示の「春日大社若宮資料古神宝類」が、後期には4件の太刀・剣と入れ替えられます。 この「宝相華蒔絵宝珠箱」(京都・仁和寺蔵)は前期の展示品です。「方形入角被蓋(こうけいいりすみかぶせふた)造りの箱」で、「麻布を何枚も貼り重ねて成形した乾漆製で、箱の入角にみられるやわらかな曲線は、乾漆ならではの造詣といえよう」(p238)と説明されています。(資料2) 角が内側に少し入り込んだ形になっています。装飾文様の宝相華は「中国、唐代に発達し、周辺諸国、ことに日本の奈良時代に流行。パルメット唐草などの諸要素を組み合わせた純粋な空想的花文様」(『日本語大辞典』講談社)です。蓋が本体をスッポリと覆う形になっているのがおもしろい感じです。 「熊野速玉大社古神宝類」の中の1点として出ている「菊蒔絵手箱」です。 この古神宝類は通期で展示されますが、その内容に入れ替えがあります。この菊蒔絵手箱は前期の展示品です。後期は桐蒔絵手箱に入れ替えられる予定です。 「第3章 皇室の至宝」の出展件数は前期、後期の入れ替えがありともに5件です。 前期展示として「雲紙本和漢朗詠集下巻」を見ました。後期は小野道風筆「玉泉帖」に入れ替えの予定です。 国宝の「春日権現記絵」は、通期展示ですが、前期は巻2、後期は巻7に入れ替え予定。 絵は高階隆兼筆で、鎌倉時代(14世紀)の作品。彩色がきれいに維持されています。 国宝ではありませんが、豪信筆「天子摂関御影」と岩佐又兵衛筆「小栗判官絵巻」は通期展示です。ただし巻の入れ替えが予定されています。前者は笏をを持ち、冠に束帯姿はワンパターンで、顔の線描で人物の特徴を捉えているのです。なかなか巧みな似絵です。 岩佐又兵衛は浮世絵の元祖といわれる人。色鮮やかで人々が躍動しています。 最後は「第4章 今日の文化財保護」というテーマで、<1>調査と研究、<2>防災と防犯、<3>修理と模造というセクション分けで展示されています。 <1>にズラリと陳列された「金銀鍍宝相華唐草文透彫華籠」、<2>の金剛峯寺と東寺の仏像を撮ったガラス乾板、<3>の模造品の実物展示が特に印象に残りました。 ひとつは模造複製された工芸品の文様の美しさです。もうひとつは複製され彩色された元の仏像の姿と長い歳月を経て現存する仏像とを対比したときの意識のギャップです。元の色彩にあふれた仏像はやはりすぐにはなじめません。だが、当時の人々は色彩豊かな仏像を眺めて信仰していたことを思うと、別次元のような気がします。 平日の正午にまたがる時間帯に出かけたせいか、それほど来館者は多くはなく、静かに鑑賞できました。 平成知新館を出ると、例によって、次回の企画展の案内がウエルカム・パネルの裏面に大きく掲示されています。 さて、最後は私的恒例の定点撮り。そう、ロダンの「考える人」を撮ることです。 「考える人」を遠望して、博物館から退出しました。 ご覧いただきありがとうございます。 参照資料 1)「京都国立博物館だより 2021年7・8・9月号」 2) 図録『特別展 京の国宝 守り伝える日本のたから』 京都国立博物館 2021 3) 出品一覧・展示替え予定表 当日会場で入手 4) 『図説 仏像巡礼事典 新訂版』 久野健[編] 山川出版社 p66 補遺 狩野永徳筆『琴棋書画図』(国宝) :「Japaaan」 天橋立図 :「京都国立博物館」 明月記 :「e國寶」 国宝-考古|金銅藤原道長経筒[金峯神社/奈良] :「WANDER国宝」 金銅小野毛人墓誌 名品紹介 :「京都国立博物館」 法然上人絵伝 博物館ディクショナリー :「京都国立博物館」 崇福寺跡 :「文化遺産オンライン」 パルメット :「コトバンク」 唐草文 :「コトバンク」 唐草図鑑 象徴・文様・文化 ホームページ 蒔絵 :ウィキペディア 日本の伝統工芸を代表する技術|蒔絵 :「HEIANNDO」(漆器 山田平安堂) 宗峰妙超 :ウィキペディア 立体曼荼羅 :「東寺」 天子摂関御影 :ウィキペディア をくり―伝岩佐又兵衛の小栗判官絵巻― :「宮内庁」 展覧会図録がダウンロードできます。 ネットに情報を掲載された皆様に感謝! (情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。 その点、ご寛恕ください。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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見応えのある展示会のようですね
事前にチケットを購入して入場予約を優先するようですが、当日でもはいれるのかな? 京都にはヴォーリズ建築を見に行こうと思っていて、同時に何か展示会でもと思っています まずは風俗博物館にしようかと検討中です (コロナの影響を少なくするために車で行こうと思っていますが、他の訪問先の関係でアクセスが良いので) (2021.08.24 06:33:07)
Jobimさんへ
私は当日券購入で入館しました。 京博は、ツイッターで毎日、入館状況を開示していると思います。予約結果で、時間帯の空き状況をのせています。当日の状況を何時にのせるのかは確認していませんが、前日の状況を一応参考に見て、私は出かけました。 京博のホームページにツイッターへのアクセス法がのっています。 風俗博物館は、お盆の休館が終わり、8/18より再開していますね。日曜日と祝日は休館日です。 ぜひ、お出かけください。 (2021.08.24 09:21:21) |