ついに真打ちの登場である。その姿が１枚のイラストとして公開されてから５年目に現れた「
オフィシャルっぽい初音ミクの着ぐるみ」の事だ。初音ミクのキャラクターは開発会社が著作権を保持したまま営利目的でない二次利用と同人やコスプレなどでのファン活動を認めるというもので、あえて詳細なプロフィールを設定していない。メーカーが発表しているのは特徴的な外見と得意な歌のジャンル、そして年齢、身長、体重だけである。
そんな公式の設定がほとんどない中で登場したオフィシャルっぽいミクの着ぐるみはいままで登場したコスプレイヤーによるどのミクよりも完成度が高く可愛いし美しい。公式イラストのイメージを忠実に再現した少女着ぐるみとして非常にすばらしい。写真で見る限り「本物だ！」といえるのだが、着ぐるみはそれほど単純ではない。歩くし、動くし、ファンサービスをしなければならないのだ。
私が着ぐるみコスプレを始めて約15年。また趣味や本業の傍らキャラクターショウへの出演も2000年から続けている。戦隊ヒーローや仮面ライダーなどはテレビと全く同じ衣裳が用意されるため（アトラク用量産品ではあるが希に撮影用の本物の場合もある）外見だけならよほど体型が変わらない限りどこから見ても「本物」なのだ。しかし、本物として芝居をし、ファンの子供たちとふれ合い、一緒に写真に納まるためにはやはり準備が必要になってくる。テレビの放送を何度も見返し、変身のポーズや得意技はもちろん、変身前のキャラクターの性格や動きの癖までも叩き込んでから舞台に立つ。ある程度プロファイリングしないと本物として子供の前に立つのが不安になってしまう。ちょっとしたアドリブが観客の印象に強く残ってしまい本来のキャラクター像と違って見えてしまうことは許されないからだ。
着ぐるみは声を出せないので本物っぽく見せる「動き」と言うのは基本的には形態模写の芸人と変わらない。イチローがバッターボックスに入るときのいつもの仕草をコピーすれば、だれでもイチローの物まねが出来る。これはヒーローも魔法少女も同様である。
そこに今回の「オフィシャルっぽいミク」である。彼女の本来の動きやセリフを知る資料は今回イベントで上映されたコンサート映像が唯一のものだ。たったそれだけの映像からどこまでプロファイリング出来るのか、あるいはして良いものなのか。コンサート映像に無いシチュエーションに於いて、ミクがどんな対応をするかは半ば役者にまかされてしまう部分なのだが、あまりにも資料が少な過ぎるため、中で彼女を演じた方は戸惑ったに違いない。本物として認識されてしまうと自分の一挙手一投足が「オフィシャルミクの正式な動き」みたいに取られてしまいかねないからである。もっとも本物に近い姿ではあるが、色づけの無いキャラクターを演じることの難しさは着ぐるみ役者としてはとても悩ましいのではないだろうか。
ネットで見つかるそのイベントでのミクの写真や映像を見る限り、宣伝用にちょこっと出て来ただけのように見える。メーカーとしても「本人です」という紹介は出来ないはずなのでそのへんはあまり強く押し出さない様な気がする。たまにセガのゲーセンの前に登場する「ソニック」くんと同じ様な扱いなのかもしれない。
