そして誰もいなくなるのか
ミステリ作家志望の小松立人には、学生時代、仲間と共謀して家庭教師先の家からタンス預金二千万を盗み出した過去があった。犯罪が時効迎えた十年後、埋めた金を掘り返すために集まったのは小松、安東、田村、三宅の4人。しかし4人の乗っていた車が崖崩れに遭い、全員事故死する......はずだったのに、死神があらわれて、一週間の猶予を与えられ死の7日前に戻る。7日の間に仲間の命を奪うことで、自分の寿命を延ばすことも可能だという奇妙なルール付きで。こんなありえない事実を小説に仕立て、新人賞に応募することを目論む。しかし田村は手に入れた金を小松の恋人亜紀に託して自殺を図り、安東が施錠された自室で殺害され、残された者は疑心暗鬼にかられる。次は誰が?そして誰もいなくなるのか........第33回鮎川哲也賞優秀賞受賞作。--------------------ネタバレあり:::::作者と作中人物が同一名というメタミステリー要素とタイムリープの特殊設定、そして名作へのオマージュと、面白く読ませる道具立てでリーダビリティには富んでいる。クリスティの名作へのオマージュによくある、死んだはずの人間が実はーーーーという常套的トリックを一捻り、一周回れば意外な真相にたどり着くように仕掛けてきた。ああ、人物錯誤ならぬ人数錯誤トリックときたか。とはいえ少ない登場人物せいかどうしても犯人は透けやすく、フーダニットに折角のこのトリックが生かされていない。そこで、犯人の意外性でなく動機の意外性で勝負してきたと思われるホワイダニットが示されるのだが、これまた背筋が寒くなるイヤミス効果はあっても、納得はいかない殺害理由だった。犯行動機の伏線はちゃんと作中に示されてはいるものの、身長◯○○cmあるかなしかの小柄な◯婦が体重○○kgという数値は、いくらなんでも大袈裟に過ぎて、推測できない。それやこれらの真相が示された挙げ句のリドル・ストーリーの結構はタイトル通りというより中途半端な不全感を残すだけで成功しているは思えなかったのも残念。